共同発表機関ロゴマーク
胎児期の水銀ばく露と子どもの2歳または4歳のBMIについて:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、文部科学記者会、 科学記者会、松本市政記者クラブ、⻑野市政記者クラブ同時配付)
国立大学法人信州大学
エコチル調査甲信ユニットセンター
(信州大学)
教授 野見山 哲生
助教 長谷川 航平
大学院生 黒河内 大輔
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
センター長 山崎 新
次長 中山 祥嗣
本研究の成果は、令和7年5月1日付でElsevierから刊行される学術誌『International Journal of Hygiene and Environmental Health』に掲載されました。
※(注記)本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
1.発表のポイント
-
さい帯血中無機水銀濃度と子どもの2歳または4歳のBMIとの間にわずかな正の関連がみられました。
-
さい帯血中メチル水銀濃度と子どもの2歳または4歳のBMIとの間に関連は見られませんでした。
-
無機水銀・メチル水銀の両方で、過体重または肥満と関連は見られませんでした。
2.研究の背景
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露※(注記)2が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしています。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
過去の研究から、母親の水銀※(注記)3へのばく露と子どもの2歳または4歳のBMIとの関連が示唆されていましたが、結果は一致していませんでした。また、水銀の種別による関連の違いは調べられていませんでした。そこで本研究は、胎児期の水銀ばく露と子どもの2歳または4歳のBMIとの関連を疫学的な手法を用いて調べることにしました。
3.研究内容と成果
本研究では、約10万人の妊婦のうち、詳細調査に参加していた約5千組の母子のデータを使用しました。その中から、子どもに重大な先天異常の診断、妊婦の水銀の濃度が欠測、子どもの2歳または4歳のBMIが欠測、に該当する妊婦を除いた3,051組の母子のデータを分析に使用しました。
子どもの2歳または4歳のBMIについては、詳細調査の結果を用いました。水銀については、さい帯血中の無機水銀およびメチル水銀を分析対象としました。関連因子として考えられている母親の年齢、妊娠前BMI、妊娠回数、喫煙習慣、飲酒習慣、年収、教育歴および海産物の消費量の影響も考慮した上で、胎児期の水銀濃度と子どもの2歳または4歳のBMIとの関連について線形回帰分析※(注記)4で検討を行いました。また、子どものBMIが上位85%以上のものを過体重または肥満とし、胎児期の水銀ばく露との関連について検討を行いました。
検討の結果、さい帯血中の無機水銀濃度と子どもの2歳または4歳のBMIとの間にわずかな増加が見られましたが、メチル水銀ではそのような関連は見られませんでした。また、無機水銀・メチル水銀の両方で過体重または肥満との関連が見られませんでした。
4.今後の展開
本研究では、胎児期の無機水銀ばく露と子どもの2歳または4歳のBMIとの間に正の関連が見られましたが、メチル水銀では関連は見られませんでした。本研究における限界として、考慮していない因子の影響の可能性があった点、日本の住民のみを対象としていた点などがありました。これらの点はエコチル調査では検討ができないため、今後、エコチル調査外でのさらなる検討が期待されます。
5.用語解説
※(注記)1 BMI(body mass index):肥満度を表す国際的な体格指数です。[体重(kg)/身長(m)の二乗]で計算されます。 ※(注記)2 ばく露:食べたり、触れたり、吸い込むことで化学物質が体内に取り込まれることを言います。 ※(注記)3 水銀:水銀は重金属の一つです。主に大型魚の摂取を介して低濃度のばく露があり、胎児期のばく露により、子どもの発達などへの影響が懸念されている物質です。また水銀は、化学形態に応じて、無機水銀と有機水銀に分けられます。有機水銀のうち、最も毒性が懸念されているのがメチル水銀になります。無機水銀と有機水銀の総和を総水銀としています。 ※(注記)4 線形回帰分析:複数の要因の影響を同時に考慮した上で関連を検討するための解析手法です。
6.発表論文
題名(英語):Prenatal mercury exposure and body mass index at 2 and 4 years: The Japan Environment and Children's Study 著者名(英語):Daisuke Kurogochi1,2, Kohei Hasegawa2, Yuji Inaba3,4,5, Takumi Shibazaki6, Miyuki Iwai-Shimada7, Shin Yamazaki7, Michihiro Kamijima8, Teruomi Tsukahara9,1,2, TetsuoNomiyama1,2,9 and the Japan Environment and Children’s Study (JECS) Group10 1 黒河内大輔:信州大学医学部運動機能学教室 2 長谷川航平、塚原照臣、野見山哲生:信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室 3 稲葉雄二:信州大学医学部 小児環境保健疫学研究センター 4 稲葉雄二:長野県立こども病院神経小児科 5 稲葉雄二:長野県立こども病院生命科学研究センター 6 柴崎拓実:信州大学医学部小児医学教室 7 岩井美幸、山崎新:国立環境研究所エコチル調査コアセンター 8 上島通浩:名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学分野 9 塚原照臣、野見山哲生:信州大学医学部産業衛生学講座 10 グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成 掲載誌:International Journal of Hygiene and Environmental Health DOI:10.1016/j.ijheh.2025.114566(外部サイトに接続します)
7.問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室
助教 長谷川航平
電子メール:koheih+20250501(末尾に@shinshu-u.ac.jpをつけてください)
【報道に関する問い合わせ】
信州大学総務部総務課広報室
電子メール:shinhp(末尾に@shinshu-u.ac.jpをつけてください)
国立研究開発法人国立環境研究所企画部広報室
電子メール:kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
関連新着情報
- 2025年9月30日報道発表妊娠期の有機リン系殺虫剤へのばく露と妊娠結果との関連:エコチル調査(大阪科学・大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)
-
2025年6月6日報道発表妊娠中のPFAS濃度と4歳時点の発達との関連:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(北海道教育記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会、環境記者クラブ、環境記者会同時配付) -
2025年3月21日報道発表エコチル調査の研究成果集
「環境化学物質ばく露の影響に関する研究成果」を
刊行しました(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付) -
2025年1月31日報道発表子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
「第14回エコチル調査シンポジウム」の開催について
【終了しました】(筑波研究学園都市記者会配付(環境省同旨発表)) -
2025年1月17日報道発表「母親のPFASばく露と母体血・さい帯血中の脂質との関連について:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に関する研究論文の発表について(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、文部科学記者会、 科学記者会、松本市政記者クラブ、長野市政記者クラブ同時配付) -
2024年12月13日報道発表胎児期の水銀ばく露と子どもの精神神経発達および
けいれん発症の関連について:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、文部科学記者会・科学記者会、熊本県内報道機関同時配信) - 2024年10月23日報道発表周辺環境がミツバチの農薬ばく露に及ぼす影響(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、農政クラブ、農林記者会、文部科学記者会、科学記者会同時配付)
- 2024年10月11日報道発表母親の血中およびさい帯血水銀濃度と出生児の性別との関連について:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、文部科学記者会、 科学記者会、松本市政記者クラブ、長野市政記者クラブ同時配付)
-
2024年10月1日報道発表妊婦の尿中有機リン系殺虫剤代謝物濃度と血中LDLコレステロールの関連について:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付) -
2024年9月18日報道発表「母親のPFASばく露と子どもの染色体異常:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に関する研究論文の発表について(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、文部科学記者会、科学記者会、 松本市政記者クラブ、長野市政記者クラブ同時配付同時配付) -
2024年6月28日報道発表妊婦の血中重金属濃度と生まれた子どもの川崎病発症との関連について:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブ、文部科学記者会、科学記者会、京都大学記者クラブ同時配付) -
2024年4月5日報道発表妊婦の尿中フェノール類濃度およびその予測因子(ばく露源の予測):
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付) -
2024年3月12日報道発表妊婦の血中およびさい帯血金属濃度と在胎不当過小(SGA)児の追いつき成長について
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(環境問題研究会、環境記者会、文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会、千葉県政記者クラブ同時配布) -
2023年12月22日報道発表母体血の有機フッ素化合物(PFAS)濃度と4歳までの川崎病発症の解析 について
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
(北海道教育庁記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付) -
2023年12月14日報道発表子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
「第13回エコチル調査シンポジウム」の開催について 【終了しました】(筑波研究学園都市記者会同時配付(環境省同旨発表)) - 2023年12月12日報道発表妊婦の有機フッ素化合物(PFAS)ばく露と、生まれた子どもの4歳時におけるぜん鳴・ぜん息との関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、文部科学記者会、科学記者会、松本市政記者クラブ、長野市政記者クラブ同時配付)
-
2023年11月14日報道発表母親の尿中ネオニコチノイド系農薬等濃度と子どもの発達との関連について
—子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)—
(環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付) - 2023年11月9日報道発表妊娠前からの母親の食事の質と子どものぜん息症状(ぜん鳴)との関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)
-
2023年9月20日報道発表出生前の水銀、セレン、マンガンばく露と3歳までの子どものアレルギー疾患発生リスクとの関連 :エコチル調査
(筑波研究学園都市記者会、環境記者会、環境問題研究会、大阪科学・大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会同時配布) -
2023年9月14日報道発表日本がリードする、メダカを用いた内分泌かく乱化学物質の検出手法の国際標準化
—日本が取りまとめたOECD文書が採択・公表されました—(筑波研究学園都市記者会) -
2023年7月14日報道発表男兄弟のみの家庭と女姉妹のみの家庭の間では次に生まれてくる子どもの性比に違いはあるのか?:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
(環境問題研究会、環境記者会、浜松市政記者クラブ、筑波研究学園都市記者会同時配付) - 2023年3月3日報道発表妊娠前からの母親の食事の質が母体血中重金属濃度と児の低出生体重に及ぼす影響:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)
-
2023年2月19日報道発表子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)「第12回エコチル調査シンポジウム」のオンライン開催について【終了しました】
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時発表) -
2022年12月23日報道発表妊娠期の母親の血中元素濃度と3歳までの子どもの体重推移について:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配布) -
2022年11月29日報道発表零細および小規模金採掘における水銀に関する
国際的な情報交換を行うイベント開催について(報告)(筑波研究学園都市記者会、環境記者会、環境省記者クラブ同時配付) - 2022年11月22日報道発表低出生体重に関連する要因それぞれの効果の大きさについて:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)(環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)
-
2022年9月30日報道発表胎児期の鉛と小児期早期の神経発達との関連:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)について(九州大学記者クラブ、文部科学省記者会、科学記者会、環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配布) - 2022年8月30日報道発表妊婦の血中水銀及びセレンと4歳までの子どもの神経発達との関連:環境省子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)での研究成果(環境記者会、環境問題研究会、文部科学記者会、科学記者会、北海道教育庁記者クラブ、北海道医療新聞社、筑波研究学園都市記者会同時配布)
-
2022年6月24日報道発表子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
胎児期のカドミウムばく露が子どもの発達に与える影響について(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、米子市政記者クラブ同時配付) - 2022年1月25日報道発表幼児期の室内空気汚染物質ばく露と精神神経発達との関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)について(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、長崎大学記者クラブ同時配付)
-
2021年9月3日報道発表胎児期のカドミウムばく露と2歳時点の神経発達との関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)について
(Association of prenatal exposure to cadmium with neurodevelopment in children at 2 years of age: The Japan Environment and Children’s Study)(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付) - 2019年4月25日報道発表子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)における妊娠期間中の母親の血液中元素(水銀、鉛、カドミウム、マンガン、セレン)濃度の測定結果について(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配布)
- 2019年2月15日報道発表妊婦の血中水銀及びセレン濃度と児の出生時体格との関連: 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)での研究成果 (環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、北海道教育庁記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会同時配付)
-
2018年2月1日報道発表「環境化学物質の『多世代にわたる後発影響』の機序に関する研究 平成25〜27年度」
国立環境研究所研究プロジェクト報告の刊行について
(お知らせ)(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付) - 2015年2月23日更新情報環境リスクインフォメーションワールド「Meiのひろば」に[健康のひろば]-"ヒト多能性幹細胞を用いた胎児期における化学物質の影響予測"ページ追加
- 2012年5月17日報道発表ヒトES細胞を利用したメチル水銀の毒性評価に成功−化学物質等の胎児期への影響を迅速に予測することが可能に−(お知らせ)筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、大学記者会、科学記者会、文部科学記者会同時配付)
- 2012年1月31日更新情報環境リスクインフォメーションワールド「Meiのひろば」に[トピックス解説・インタビュー]-"VOCsの発達期曝露による脳での炎症関連反応の修飾"ページ追加