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2014年12月のアーカイブ
腸内細菌と喘息悪化の関係について!
- 2014年12月1日 12:23 AM
- マンスリートーク
筑波大学の渋谷彰教授が、腸内細菌のバランスの乱れが喘息を悪化させるメカニズムを解明されました。今後はこれにより新しい発想のアレルギー治療が開発されていくと思われます。
ヒトの腸管内には、500種類以上、総計100兆個以上の腸内細菌が共生しており、腸管からの栄養吸収、腸の免疫、病原体の感染の予防などに働いています。一方、遺伝的要因、食餌などを含むライフスタイル、病原体の侵入とかいろいろな医療的処置などによって腸内細菌のバランスが乱れると、クローン病や潰瘍性大腸炎をはじめとする炎症性腸疾患などの原因となることがあります。しかし近年、腸内細菌のバランスの乱れが、腸管以外の全身にも影響を及ぼし、肥満、糖尿病、アトピー、喘息などの疾患さえも生じることが知られるようになり、大きな注目を浴びています。
しかし、どのようなメカニズムでこれらの腸管外の疾患が起きるかについては、ほとんど明らかにされていませんでした。
ここから研究の内容を述べていきますが、その前に以下の文中に出てくるプロスタグランジンE2というものとM2型マクロファージというものがどのようなものなのか簡単に解説します。
プロスタグランジンE2とは平滑筋収縮、抹消血管拡張、発熱、痛覚伝達、骨新生、骨吸収などの作用が知られている生理活性物質です。
M2型マクロファージとは、寄生虫感染、アレルギー応答、脂肪代謝、創傷治癒、がん転移などに関与している貪食細胞のことです。
それでは、ここから研究内容を述べていきますが、読者の皆さんはプロスタグランジンE2とM2型マクロファージという言葉が出てきたら、あまり難しく考えないで「体内にはそのような物質があるのだ。」という程度に読み流して下さい。
この研究では、腸内細菌のバランスの乱れが、なぜ喘息などのアレルギーを引きすのかという疑問を明らかにするために、まず5種類の抗生物質をそれぞれ2週間経口で投与しました。そのうえで、アレルゲンであるパパインやダニ抗原の吸入により喘息を発症させ、その病態を観察しました。
その結果、ある種の抗生物質を投与したマウスでは、それ以外の抗生物質を投与したマウスや抗生物質を投与しないマウスに比べ、気道内の炎症が有意に強く、喘息症状がより重篤になることを見いだしました。
そこで、喘息症状が強く出たマウスとそれ以外のマウスで、腸内細菌の変化をしました。
その結果、喘息症状が強く出たマウスでは、腸管内でカビの1種であるカンジダが異常に増殖している一方、乳酸菌などの細菌が減少していることを見いだしました。これらの結果より、抗生物質の投与によりいわゆる善玉菌が減少し、その結果増殖した悪玉菌であるカンジダが、喘息が重篤化する原因となっていることが推察されました。
次に、腸管内カンジダがどのようなメカニズムで喘息を悪化させたかについて解析しました。実際に、抗生物質を投与し腸管内にカンジダが増殖しているマウスの血液中や肺の気道内ではプロスタグランジンE2が、抗生物質を投与していないマウスに比較し、およそ2倍程度まで増加していました。しかし、マウスに抗真菌剤を投与してカンジダを減少させると、血液中や気道内のプロスタグランジンE2の値は抗生物質を投与していないマウスと同様の値に戻りました。
以上の結果から、カンジダからプロスタグランジンE2が産生され、血液を介して肺まで達していることが分かりました。さらに、抗生物質によりカンジダが増殖しているマウスの気道内では、炎症を引き起こすタイプのM2型マクロファージが増加していることも見いだしました。
また、抗生物質を全く投与していないマウスで行った実験ですが、それらのマウスにプロスタグランジンE2を投与すると、気道内でM2型マクロファージが増加し、その結果として喘息が重篤化することが確認されました。
以上の結果をまとめると、以下のように」なります。
1. ある種の抗生物質の服用により、腸管内でカンジダが増殖する。
2. カンジダからプロスタグランジンE2が産生され、血液を介して肺に到達する。
3. 肺内でプロスタグランジンE2がM2型マクロファージを増加させる。
4. 増加したM2型マクロファージが喘息などのアレルギー性炎症を悪化させる。
<今後の展開>
アレルギー疾患を代表する花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎の罹患率は、それぞれ20%、、10%、5〜10%と、近年増加の一途を辿っています。世界的にもおよそ25%のヒトがアレルギー疾患に罹患しているとされ、その克服は人類の健康・福祉にとってはもちろんのこと、社会的にも重要な課題です。アレルギー疾患の発症は、遺伝的素因や環境要因など、さまざまな複合的な因子により発症することが知られています。
その中には、腸内細菌のバランスの乱れによるカビの増殖に起因するものが含まれている可能性が考えられます。これらの患者さんの場合、上記の抗真菌剤、プロスタグランジンE2産生阻害剤、あるいはM2型マクロファージ活性化阻害剤などが効果を示すと考えられます。今回のこの研究はマウスを使って腸内の悪玉菌と喘息悪化の関係を証明したものですが、いずれアトピー性皮膚炎でも同じように腸内細菌との関係が詳しく解明されていくことが期待されます。今後は、花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎の治療としてプロスタグランジンE2阻害剤やM2型マクロファージ活性化阻害剤などの新しい有用な治療法が開発されていくことを期待したいものです。
谷口雄一
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