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2014年4月のアーカイブ
アトピー性皮膚炎は何故増加したか?(ヘルパーT細胞のバランス異常説)
- 2014年4月7日 1:24 AM
- マンスリートーク
今月のマンスリートークでは「アトピー性皮膚炎は何故増加したか?」という題名の元に2つの興味ある話を紹介したいと思います。
2つといっても結論はよく似ているのです。
簡単にいうと、「日本人の清潔志向がアトピー性皮膚炎を増加させた。」ということです。
1. では、まず1つめの話を始めたいと思います。
この文章中にはT細胞、B細胞、NK細胞、ヘルパーT細胞I型(Th1)、ヘルパーT細胞II型(Th2)、インターフェロン、インターロイキン、サイトカインといった専門用語が頻繁に出てきて、一見すると難しい文章かと思う方もいるでしょうが、全体の内容は少しも難しくありません。今後はヘルパーT細胞I型をTh1、ヘルパーT細胞II型をTh2と略させて頂きます。読んでいて分かりにくい点が出てきたら、図1、図2を何度も見なおして下さい。図を見ながら本文を読めば、一般の方でも十分理解出来る内容だと思います。
アトピー性皮膚炎などのアレルギーの原因として、大豆、卵、牛乳などの食べ物や、ダニ、花粉、ストレス、遺伝的要素などが考えられています。
しかし、昔からあるダニや食べ物や花粉が、今になってなぜ急にアレルギーの原因物質と言われるようになったのでしょうか?
実は、近年急速に私たちの生活内に増えてきた農薬、食品添加物、抗菌剤、ホルマリンなどの化学物質が、直接および間接的にアレルギーに関与していることが、医学的にも分かってきています。
すなわち、アトピー性皮膚炎などのアレルギーの真の原因物質は化学物質にあり、大豆や花粉などは単なる誘引物質と考えられます。
白血球の一種であるリンパ球にはT細胞とB細胞とNK細胞の三種類があります。
B細胞はT細胞とともに免疫機能に深く関わっていますが,T細胞と異なって 胸腺に依存せず成熟します。 そして免疫グロブリンという抗体を作ります。
NK細胞はナチュラルキラー細胞と言われて、文字どおり生まれつきの殺し屋で全身をパトロールしながら、がん細胞やウイルス感染細胞などを見つけ次第攻撃します。
T細胞には図に示したようにTh1とTh2があります。(図参照)
細菌やウイルスが体内に侵入した場合は、まずTh1が刺激され、インターフェロンなどの働きで、細菌やウイルスに対する抗体が作られます。
そして次に同じ細菌やウイルスが体内に侵入した場合、すでに出来上がっている抗体がそれらに反応して攻撃をします。
1度麻疹にかかると、2度とかからないようになるのはこのためです。
これに対し、ダニや食べ物や花粉の蛋白質が体内に侵入した場合は、Th2が刺激され、インターロイキンなどの働きで、アレルギーを起こす抗体が作られます。
そしてこのアレルギーを起こす抗体により、ダニや食べ物や花粉etcによるアトピー性皮膚炎や喘息、花粉症などのアレルギー性疾患が生じるのです。
ちなみにこれらのインターフェロンやインターロイキンなどはサイトカインと呼ばれています。
そして、ここが重要なのですが、このTh1とTh2は互いに抑制しあっているのです。
以前は鼻水をたらしていたり、ドロンコ遊びをしている子供たちが大勢いました。
その子供たちは常に細菌やウイルスにある程度の感染をしていたため、Th1の活性が高くなることによりTh2の活性を弱め、その結果としてダニや花粉などの抗体産生が抑えられていたのです。Th1はTh2の8〜12倍程度あれば正常と考えらています。
ところが、最近では、生活環境内で殺虫剤、防腐剤、防ダニ・抗菌グッズなどがやたらに多く使われるようになってきました。
そのため、Th1の活性が弱まってTh2の活性を抑制できなくなり、II型の活性が必要異常に強くなってしまい、以前にはアレルギー反応を示さなかったダニや食べ物や花粉などに過敏に反応するようになってしまったのです。(図2-2参照)
本来、免疫細胞は細菌やウイルスなどの病原体から身を守るために働くものです。
しかし、薬剤による間違った清潔感により、細菌やウイルスを排除しすぎたため、免疫細胞の余った力がダニや食べ物に振り向けられてしまったのです。
以上のことからアトピー性皮膚炎を根本的に治すには、Th1の活性を強めTh2の活性を抑制しなければならないことがお分かりになると思います。
アトピー性皮膚炎の人において、ステロイド軟膏中止後の離脱症状として皮膚に炎症を起こし湿疹やかゆみなどの症状が出るということは、よい意味で身体が皮膚に細菌感染やウイルス感染を起こし、Th1の活性を強めようとしているからなのです。
そしてその結果、Th2の活性を抑制し、アトピー性皮膚炎を根本的に治そうとしているのです。
すなわち、図2-2の異常な状態から図2-1の正常な状態に戻すために皮膚炎が生じると考えられるのです。
これが自分自身の持っている自然治癒力であり、正常な自律神経の働きなのです。
自然治癒力とは、病気になってから発揮されるものだけでなく、病気そのものが自然治癒力の現れなのです。ですから、ステロイド離脱中にブドウ球菌感染やヘルペスウイルス感染を起こしても、皆さんは落胆しないで下さ いね。「感染症を起こすことで、本来のTh1とTh2のバランスを取り戻そうとしているのだ。」とお考え下さい。
また、身体がせっかくアトピー性皮膚炎を根本的に治そうと皮膚に炎症を起こしているところに、ステロイド軟膏を使ったり消毒剤を使用すると細菌やウイルスを殺してしまい、その働きが抑制され、Th1の活性を弱めてしまうことになりアトピー性皮膚炎の根本的治癒になりません。
またステロイド剤などの薬物の多くはTh2の活性を抑えるだけでなくTh1の活性をも抑えてしまいます。
Th1の活性とTh2の活性が同時に低下してくると体免疫力が弱くなってしまい、(図2-3参照)がんにかかりやすくなることも考えられます。
アトピー性皮膚炎の理想的な治療法は、Th1とTh2のバランスを正常化することです。
しかし、この理想的な治療法は2014年4月現在確立されていません。
2. さて、ここからは2番目の話なのですが、最初に東京医科歯科大名誉教授である藤田紘一郎先生の「おなかに回虫などがいるとアトピーや花粉症にならないのです。」という言葉を紹介します。
藤田先生がそのように考えるようになったきっかけは、40年前に訪れたインドネシアのカリマンタン島での経験からです。
そこでは、炊事、洗濯、水浴び、トイレといった具合に生活のすべてを同じ川で行っており、子供たちが遊んでいる隣に人糞が流れているという状態でした。
そんな不衛生と思われる環境であるのに、そこの子供たちは日本の子供よりはるかに健康であることに気づきました。彼らには喘息やアレルギーなどの症状がほとんど見られません。そして分かったことが、多くの子供たちが寄生虫に感染していたのです。
これに対して日本人の寄生虫感染率は戦後急激に下がりました。
1950年代には感染率62%でしたが、1965年には感染率2%以下になっていました。
花粉症が日本で初めて認められたのは1963年で、アトピー性皮膚炎や喘息は1960年代後半から現在に至るまで増加を続けています。
そこで、藤田先生は「寄生虫が人間のアレルギーを抑える役目を果たしているのではないか?」と考えました。そして、その後の研究の結果、以下のような結論が出ました。
「寄生虫が人に感染するとアレルギーの元になる抗体が多量に作られる。この時に作られる抗体はスギ花粉やダニ抗原とは全く反応しないタイプのものである。そして寄生虫に感染した人がスギ花粉やダニ抗原にさらされても、多くの非特異的抗体が既に肥満細胞(アレルギーを起こすヒスタミンを放出する細胞表面)を覆っているため、スギ花粉などは肥満細胞と結合することが出来ず、その結果として花粉症の症状も現れない。」
いかがですか、1と2の話は共通点があると思いませんか?
人間が健康に生きていくためには、過剰な清潔志向は良くない事がお解かり頂ければ、著者としては望外の喜びです。
谷口雄一
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