「ランニングは膝に悪い」ってホント?むしろ「膝の健康に効果的である可能性」、研究で明らかに
走るときには、1歩ごとに体重の4〜5倍もの負荷が膝にかかっている。そんな説を、どこかで見聞きしたことがある人は多いのではないでしょうか。
仮にあなたの体重が60キロだとしたら、240〜300キロの負荷というとんでもない重さになります。大相撲の力士よりはるかに重い重量が、自分の膝にかかると言われているも同然。しかし、それがどういうことか、現実感をもって想像することは難しいでしょう。
こうした背景から、マラソンなどの長距離走は健康にいいどころか、かえって膝に悪いというイメージが根強くあります。実際に膝を痛めるランナーは多いですし、それが理由でランニングを避ける人も少なくありません。
ところが、実際にマラソンを走った市民ランナーの膝をMRI検査し、ランニングから受けた健康上の影響を調べたところ、かえって膝の関節を健康にする効果が見つかったとする研究論文が2019年10月に発表されました。
ニューヨーク・タイムズ紙など大手メディアでも取り上げられています。この論文の主旨をご紹介しましょう。
初めてマラソンを走った整形外科医の苦しみがきっかけ
この研究は、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授で英国国立整形外科病院の医師でもある、アリスター・ハート博士のほろ苦い個人的体験がきっかけになりました。
ハート博士は2012年に生まれて初めてマラソンを走り、多くの初マラソン完走者と同じように大きなよろこびと痛みを味わったとのこと。ニューヨーク・タイムズ紙で、ハート博士は以下のように語っています。
「レースが終わってから2週間、ずっと階段を上るときは手すりにしがみつかなくてはいけませんでした。脚が痛くて、痛くて、たまならかったのです。病院の同僚たちには気が狂ったのかと言われました」
筋肉痛が引いた後も、膝の関節への影響が気になったハート博士。また、他のランナーたちにとっても役に立つだろうと考え、研究を思い立ったということです。
どんな研究だったか?
初心者ランナー82人を集め、マラソン前後に膝のMRI検査を実施
ハート博士とその同僚たちで構成された研究チームは、ロンドンマラソンに「初心者レベル」と自己申告してエントリーした一般ランナーたちへ研究参加を呼びかけ、82人のボランティア参加者を得ました。
その多くは健康な40代中頃の男女で、マラソンの経験がまったくないか、少ないランナーたちです。
参加者たちは、レースの6か月前にMRIによる両膝の予備検査を受け、その後、4か月間に渡って同じようにプログラムされたトレーニングを実施しました。
最終的には82人中71人がマラソン初完走を果たし(平均ゴールタイムは5時間20分)、さらにレースの2週間後に再度MRIで両膝の検査を受けました。
研究の結果は......
マラソン後の再検査では膝の不具合が減少
すると驚くべきことに、トレーニング期間の初期には膝に痛みを訴えていたランナーたちでさえ、レース後の再検査では骨髄や軟骨の損傷が小さくなっていたことが判明したのです。
マラソンや練習は膝の関節に悪影響は及ぼさない可能性
全体的な傾向として、体重を支える膝の関節部分は、マラソンやそのトレーニングからよい影響を受けるということを、研究チームは結論で述べています。
研究対象者の層を広げ、長期的な影響も調べることが今後の課題
論文著者たちは、この研究がレースの2週間後という比較的早い段階で行われたことを述べ、さらなる長期的な影響については今後の課題であるとしています。
この研究の対象となったのは健康な中年の初心者ランナーに限られていて、高齢者やすでに故障を抱えている人には、ランニングが膝にどのような影響を及ぼすかはわかっていません。
初心者より長く走り続けているベテランランナーや、あるいはさらに速く走るランナー(膝への負荷がさらに大きい)についても同様です。
このように課題はたくさん残っていますが、少なくとも「膝に悪いかもしれないから」とランニングを躊躇している人にとっては、耳寄りな情報ではないでしょうか。
参考文献
"Can marathon running improve knee damage of middle-aged adults? A prospective cohort study"
https://bmjopensem.bmj.com/content/5/1/e000586
筆者プロフィール
角谷剛(かくたに・ごう)
カリフォルニア在住。公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、コーチング及びスポーツ経営学修士(コンコルディア大学)、CrossFit L1 公認トレーナー、TVT高校クロスカントリー部監督、ラグナヒルズ高校野球部コーチ。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
Facebook: https://www.facebook.com/WriterKakutani
<Text & Photo:角谷剛>
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