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小林 よしのり 渡部 昇一【著】
PHP研究所(2002年06月05日 出版)
【9・11テロが日本人に突きつけたもの、日米関係のあり方、日本の国益、靖国参拝問題、歴史教科書論争...。】
第1章 日本の「正義」はどこにある?
第2章 "同盟関係"とは何か
第3章 愛国心について
第4章 宗教と国家
第5章 国益論争
第6章 歴史を歪めようとする人びと
9.11は島原の乱、現在はAmerica幕府の時代という、独特の渡部節。この人は親米保守だ。精神論でなく、 生存の為にはアメちゃんに従うしかねえべよ、という分かりやすさ。国家にはやりたくない戦争でもやらにゃならんことがあるよ、だから同盟国ならiraq戦争みたいなことが起きた日にゃ、もたついてないで協力せいと。
対して小林は反米保守だ。というより、反「親米」保守というべきか。同盟国だからって精神まで従属すんなよと。小林よしのりにさして興味はないんだが、それでも拾える言葉は拾っとこ。
アイデンティティーやナショナリズムを捨てて、何々人ではなく単なる「ヒト科」になれば、アメリカに収斂されていくことに違和感もないだろうし、簡単なことでしょう。しかし、わしはそれが嫌だ(pp122〜123,第三章 愛国心について)
まぁ、池田名誉会長のSGI提言にもあった抽象化の罠ってのは、平和主義者の口からでてくる世界市民だの地球市民だの云う言葉に感じるんだよねオレは。何々人などというものに実態は無いって云ったって、それじゃその何々人とか何教とか、何主義とか、そういう個別の条件を剥ぎ取っていったあとに残る"人間"なるものにオレがなにを感じるかと云うと、まさに小林の云うところの「ヒト科」、つまり腹減ったら食う、眠くなったら寝る、そんな只の生物としての「ヒト」しか想像つかないんだけどね。
そういう単なる生物としての「ヒト」を基礎にして、「世界」とか「平和」とか語れるもんなのか? これが疑問。
平和主義者ってのも「主義者」なわけだ。じゃ、対極にいる別の「主義者」と、その互いの違いを超えて生物としての「ヒト」として語れるのかと。
難しいと思います。「人間」という原点を確認し合うだけで争いがなくなるようには、「人間」はできていないだろう。何らかの共通の利害で結び合わせることでしかね。
もう一つ「国際化」という抽象的な言葉について。
渡部昇一が小林よしのりの言葉を受けて、 戦後ずっと喧伝されてきた「国際化」というのは、他者に依存して生存をはかろうとする自己を偽ろうとする、欺瞞的態度を納得させるための方便の言葉だったと言える。(p123,同)と述べるが、それは分かるんだけど、とすると、先に挙げた同盟国としての態度ってのも、America依存を続けるための方便にはならないか?、って疑問も起きる。
これに関して、渡部は9.11後の日本の置かれた立場を、大阪城の戦いで徳川につかねばならなかった豊臣恩顧の諸大名に例えて云う。
私は今回のテロ事件が、かりに覇権国としてのアメリカ、その強大さからくる傲岸不遜さに反発を覚えるイスラム原理主義者との対立から生じたものだとしても、そしてその背景に複雑な宗教的、歴史的な軋轢があるとしても、日本が議会制民主主義と資本主義を採用し、自由な言論と自由な経済活動によって繁栄を求める道を選ぶかぎりは、第一にそれを破壊するテロリズムと戦うという姿勢を示さねばならないと思っています。そのための具体策として、同盟国に対する支援は不可欠でした。(p11,第一章 日本の「正義」はどこにある?) と。どうだろうね、これ。
日本と同じ旧枢軸国のDeutschlandなんかはどうだったのか。
なんかこう、敗戦国として、永遠に敗戦国としての反省を強いられている国として、逆にもっとしたたかに振舞う道はないのかと思うんだけど。例えば、日本があんた方と同じように軍隊を持って、海外に出兵させられる普通の国になってもええの?、とかさ。その昔、あんた方に倣ってあんた方と同じように振舞った結果袋叩きにあったんで、もう普通の国になるのに懲りてるんすけど、とか?w
いっそ開き直って日本をこんな国にしたのはお前らニダ!、作戦で、やっかいな問題は他国任せにしちまうってのは無理かw 軽蔑され続けるのに耐えられるのなら、恐らくは金輪際、血を流すことのない「平和国家」にはなれるんじゃないの。
本に戻ると、後半では小林個人の問題、つまり、「あたらしい歴史教科書をつくる会」に係わる問題に入るね。谷沢永一との確執なんぞあったそうだがオレはその件に興味なし。
歴史認識について云うと、保守とはいえ小林と渡部では細部に関しては意見の食い違いはあるようで、例えば、同盟国に対する支援はクイックアクションでと云い、第一次世界大戦で英国から欧州戦線に日本の陸軍の支援を要請されたのに、日本は断った、それが旧国際連盟での日本の発言力も低下させたと。だから日本が提案した人種平等規約も通らなかったと。これが渡部の歴史観。
小林はそうは思わないわけだ。いや、日本がどう出ようと歴史は変わってないよと。Americaは是が非でも日英同盟を廃棄させようと画策してんだと。Chinaと夜露死苦やりてえんだこっちはよ、と。 だから日英同盟邪魔。猿をどかせよ、と。これが小林の歴史観だな。
第五章の国益論争が面白いね。オレは満洲とは日本にとってなんだったのかに興味が湧いてきているのだけど、この満洲権益をめぐる日米の攻防についても、この両者は意見が割れるんだな。南満洲鉄道の権益に関してEdward Henry Harrimanの提案を仮契約まで行きながら、小村寿太郎が蹴った。「これが決定的にまずかった」(p163)と。
当時の日本の国力を考えれば、まだしも「共同経営」という譲歩をしてきたアメリカと取引することは国益にかなったのです。それを日本が平気で断ったというので、アメリカは怒ったわけです。ここで有色人種としての道義を貫き通したとして、玉砕の自己満足だけで終わってはならないのです。有色人種として最後に勝つためには、奥歯をかみしめつつ、狡智にふるまわなければならないときがあります。(pp169〜170)
しかし、これでも小林は納得いってない。Americaが先住民を追いやったやり方、Hawaiiを併合したやり方など見ても、Americaは大陸からいずれ日本を追い出したろうと。
歴史にたらればを云ってもどうにもならんが、同じような情況に於いてどう斬り抜けるかを想定するうえでは、この時期の日本の置かれた情況と日本の行動をもっと知っておくべきだなと思った。日米は真珠湾攻撃の前から戦争に至る状態にあったんだという視点で歴史を見るなら、現在の日本の情況を見る目も変わってくるか。
オレとしては渡部昇一の云うように、今はAmerica幕府時代だなという認識だな。だが、いつまでも米国の覇権が続きはしないだろう。驕れる者は久しからずですな。Chinaは人口面から云っても戦略的な思考から云っても、もっと強大になっていくだろうし。こうなりゃ日本としてはどう動くかだな。EUともAmericaとも等距離を取って、巧く立ち回ってる感のあるUKが参考になるかどうか。
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