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あした、世界のどこかで 井出 勉(著) 出版社: 小学館 (2004
読後感:☆☆☆
【テロと憎しみの大地に茅生えた国境なき愛。 長年人道支援のためのNGO活動を手がけてきた著者が初めて書き下ろした現代史ドラマです。かつて戦場という極限状況を舞台に描かれた小説作品は数限りなくありますが、現代日本が体験する"戦争の時代"とはNGO活動に代表される人道支援活動といっても過言ではありません。昨今のイラク、アフガニスタン、ボスニア等、"平和惚け日本"からはうかがい知れないような苛酷な現場に数々の日本人男女が支援活動にあたっております。本書は、そのような人道支援活動にたずさわる男と女の愛と再生の物語です。憎しみの連鎖を断ち切るために今必要なものは何か、を問いかける恋愛長篇。】
これは9年前くらいに読んだ小説なのだが、非常に余韻の残る作品であった。余韻が残るというのが自分にとって重要な評価pointである。
自分はNGOの活動とかvolunteerとかやったことがないから、その内部の事はよくわからなかいし(資金の流れなど)、ちょっと胡散臭さい感じが拭えないのが正直なところではある。これを読んでまず例のIraq人質事件の3名の事が浮かんでしまった。あの3名には当時も今も、極左的匂いを感じて良い印象がないのだが。
NGOをやっている人に、自分が感じていた胡散臭さの正体はなんだったのかと考えてみる。まず、「良いことをする為にわざわざ海外に行かなければならないのか?」という下衆な感情ではあったのだ。身近な人たちから救いの手を差し伸べるのではいけないのか?、海外へ出たら、大きなことをしている気になれるからか?、とか。身近な人に手を差し伸べるなどと、自分でもやっていないことをと苦笑してしまうが。
この小説でも読み始めはその感情の「モヤモヤ」は拭えないものがあった。何もしないで、戦火から遠くはなれた地で、漠然といまを生きている自分を批難されているような感じを味わわないわけにはいかない。たとえそこに自己犠牲に伴う自己陶酔があったとしても、他者から見て偽善であったとしても、何もしないよりも一段上の生き方なのではないか?、と自問自答する。
これは恋愛小説だ。ただし、べたついた恋愛ではない。見つめ合う愛ではない。同じ方向を向いている愛だ。互いの背中を預けあえる愛。
いままで読んだ小説のなかで、これほど深い愛の言葉と出会ったことはない。
昨日見た星のようにお互い遠く離ていても、他人から見たら一つの星座の形をしているような夫婦になれればいいわ。p291
人間は夜空に浮かぶ星ぼしを見上げてそこに形をみた。星のひとつひとつは遥か遠くに離れていて、地球から見ると距離もまったく違う。それがひとつの塊として見えて星座ができた。物理的に傍にいるだけが愛ではないということを理解した硬派な愛の感情。
旅立つ母を見送る小さな子どもたちの姿に熱いものがこみ上げる。
「おかあさん」とシャフィーカの声がした。振り返ると、幸三がにこにこしながら支える玄関のドアの奥の壁に安奈とシャフィーカが並んで逆立ちをして送ってくれた。p372
この子たちが逆立ちして地球を支えてくれていると受け止める母である。これを読んで、家族を放り出して人道援助とは笑わせると感じるか否か。親の背中を見て子は育つとするならば、遠く離れていても一つの星座の形をしている家族愛であると自分は感じた。
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投稿: 本が好き!運営担当 | 2016年7月26日 (火) 17時23分