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図 1.1. 空中に出現する人型の土着実体。
アイテム番号: プロトコル4000-Eshuに基づき制限されています。
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: 以下に述べる余剰次元の場所、ならびにそこに含まれる実体とランドマークは名辞災害(Eshuクラス)であり、あらゆる名前、肩書、呼称で言及してはいけません。標準空間の外側に位置する森、ならびにその土着の実体に言及する際には、それらに対する描写のみが使用可能です。描写を用いる際は、毎回、必ず変化をつける必要があります。識別のために、描写は色分けをすることが可能であり、命名の多様性を確保するために装飾的な表現を使っても構いません。
名辞的収容違反が発生した場合、違反を引き起こした人物はただちに標準Eshuクラス収容プロトコルを実施しなければなりません。その人物が手続きを実行できない場合は、その人物の最近親者が責任を引き継ぎます。
収容違反の原因となった人物に既知の最近親者がいない場合、その人物の名前はすべての文書や記録から抹消されなければなりません。同じ名前を持つ他のすべての人物にはタイプ-Gウイルス性記憶処理が施され、新しい名前が割り当てられます。
命令O5-4000-F26に従い、標準の異常状態からの逸脱を評価するため、年に少なくとも1回奇妙で危険な森林地帯への探検を成功させる必要があります。名もなきものに出会う場所への立ち入りは高い危険性を伴うため、研究のために派遣される職員は、4000-SEPに詳述される標準調査プロトコルの訓練を必ず受けなければなりません。
煙突の中で見つかる森の許可なき文書化は標準情報収容プロトコルにより抑制する必要があります。手続4000-ハロウェイの知識を許可なく有している者には記憶処理を施し、論考的リハビリテーション期間を経た後で解放しても問題ありません。
説明: 当該のSCPは、危険な名辞現象を含む多数の異常な性質を持つ、余剰次元の森林地帯です。この異常な場所には、4000-ハロウェイ(文書DOC-4000-Hを参照)を実施することでアクセスできます。手続きを完了した人物は、林床に据えられている荒廃したレンガ造りの井戸の開口部から出現します。
普通ではない地形を確実に進む唯一の方法は、1本の泥の道を利用することです。その道から外れた探検では、即座に参加者との連絡が途絶える結果となりました。唯一の安全な道は一方向にしか進めず、方向転換して戻ろうとする場合も同様に連絡が途絶えます。
名もなき世界は線形空間の制約に従いません。地図作成の試みでは、探検ごとに全く異なるルートが記録され、必須の道が理論上重なるべき部分や交差するべき部分もそうなっていません。 レイアウトにおける唯一の一貫した要素は、常に主な道の両端に位置するアクセスポイントです。
名前のない森を辿り始めた対象者が安全に脱出する唯一の方法は、道を最後まで歩き切り、反対側の始めた場所へ戻ることです。
名無しの生息地固有のさまざまな異常実体が記録されています。土着の実体は、観察されていない間にしばしば身体構造を変化させるため、どれが特有の存在で、どれが以前記録されたものの変化なのかを、研究者が判断するのは困難です。実体らは、これらの変化を自分では制御できないと主張し、変化が起こるたびによく不満を漏らします。
土着の実体はしばしば対象者が歩む道を塞ぎ、先へ進むために交流が必要となります。これらの実体には知性があり、非常に気難しいことがありますが、予防措置4000-SEPに従う限りは安全に交流できます。これらの予防措置を無視した場合の結果は、実体の性格により異なります。対象者が受けた報復には、口頭での叱責、暴力行為、さらには対象者の身体的、概念的、名辞的属性の異常な変化などが含まれます。
名付け得ぬものの領域、その土着の実体、およびランドマークに一貫した名称が適用されると、様々な異常現象が発生します。命令O5-4000-F26によって名辞実験が禁止されていることもあり、これらの現象は未だ十分に理解されていません。
記録された名辞現象には以下が含まれます:
- 影響を受けた名称に暴露した対象者に発生する反復発作性群発頭痛。
- 暴露した対象者に発生する幻想や幻聴。多くの場合、名称で説明される環境や実体に関連し、少数の事例では幻味や幻臭も報告されている。
- 暴露した対象者に発生する突然の心因性健忘。
- 暴露した対象者に発生する、羽毛や花粉嚢といった非人間的な身体的特徴の発達。
- 名称が表記あるいは記録された非生物媒体に発生する生体要素の発達。
- 暴露した対象者に発生する、手続4000-ハロウェイを使用しない突発的・非自発的な名のないものたちの原野への移動。
- 名称が使用された屋内空間に発生する様々な植物群の出現。
- 名称が使用された場所への土着実体の突発的な移動。
- 暴露した対象者と土着実体の生物学的融合。
- 名称が使用された建築空間と土着実体の生物学的融合。
- 暴露した対象者に発生する、通常予想される有害な副作用を伴わない極度の鉄欠乏症。
命令O5-4000-F26は1954年に監督者評議会によって承認されました。1970年の改正により、O5-4000-F26が実行力を維持するには、10年ごとに評議会から全会一致の承認を得る必要があります。これまでのところ、O5-4000-F26に関する監督者の覚書がより低位のクリアランスレベルまで流布されたことはありません。
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REQUEST="Notable_CB"
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…
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[ACCESS: GRANTED]
補遺: 以下は名辞的収容違反の際に観察された異常現象の例です。
違反日時: 1954年6月9日
命名対象: 我々が滅多に口にしない森の空き地
概要: 最初の発見とその後の収容違反は、コネチカット農村部の放棄された家屋で発生した。生存職員がいないため、発見の状況は不明であるが、出来事の概略タイムラインは確立されている。タイムスタンプは標準NATO形式による。
[1340S] 語られぬ名の窪地が発見され、フィールドエージェントのギャレット・ブラッドレーにより臨時のタイプ-Eに指定され、名辞的収容違反を引き起こす。
[1345S] フィールドエージェントのモイラ・デノッティが煙道の向こう側の土地に入り、その後行方不明になる。
[1347S] エージェント・ブラッドレーが徐々に硬材の床に沈み始める。付近にいた他のエージェントらはその場から逃れる。
[1348S] 家屋を出た直後、タイプ-E指定を知らされていなかったティモシー・ウッズを除き、すべてのエージェントが突然動けなくなる。
[1349S] 動けなくなったエージェントらは胴体が引き延ばされ、苦痛を訴える。
[1351S] エージェントらの伸展は、手続4000-ハロウェイが実施された煙突と同じ程度の高さに到達すると停止する。彼らの顔の開口部から煙が噴き出す。ティモシー・ウッズは無線を通じてこれらの状況をサイト-08に報告する。ティモシー・ウッズが言葉に力がある世界を説明する際に繰り返し"█████"という表現を使用したため、二次的収容違反が発生する。
[1355S] ティモシー・ウッズが"木々に[自分の]名前が見える"と発言。サイト-08の職員がティモシー・ウッズに更なる情報を求めるが、ティモシー・ウッズは無線を口から飲み込もうと試み、体内の損傷によりまもなく死亡する。
[1359S] サイト-08のティモシー・ウッズの交信相手が激しい頭痛に苦しんでいることが確認され、隔離される。
[1424S] 隔離されたサイト-08職員の両眼窩から、木の枝に類似した骨の突起が現れる。両眼窩において完全な眼球脱臼を示しているにもかかわらず、職員は身体的な不快感を一切報告していない。
後書: 多変数的なDクラスの暴露サイクルを複数回繰り返した結果、最終的に名辞的異常が発見されました。
違反日時: 1955年12月22日
命名対象: 地域全体を巡る小道
概要: デスク・デスク(Desk Desk)は名もなき星々の下の茂みで初めて探検ミッションを成功させたのち、ただちに隔離された。72時間が経過しても異常が見られなかったため、デスク・デスクは体験記を書く許可を与えられた。研究者が進捗を確認するために戻ると、デスク・デスクは姿を消していた。後にデスク・デスクが執筆に使用していた鉛筆、紙、ハーヴェイ・マンスフィールド(harvey mansfield)から土とヒト組織の痕跡が発見された。
違反日時: 1958年8月19日
命名対象: 骨の玉座に坐し、燃え立つ子をあやす土着実体
概要: 探検ミッションを完了したのち、フィールドエージェントのイーサン・メルシー(Mercy)・メルシー・メルシー・メルシーが特定の土着実体を説明する際に同じ形容を何度も使用した。数分後、彼は強い吐き気を訴え、血と骨髄を嘔吐し始めた。
エージェント・メルシー・メルシー・メルシー・メルシーは数時間にわたり、何らかの方法で口から自身の骨の大半を吐きだしたと報告された。続く数日間、サイト-08の職員全体が女性の笑い声の幻聴を経験した。
違反日時: 1966年3月4日
命名対象: 骨の牡羊の頭部を持つ、羽毛のあるライオンに似た土着実体
概要: 大学生のヴァネッサ・ヘイフォースは、異常な組織増殖の兆候はないにもかかわらず、頭が肉に覆われたと訴えてオレゴン州ポートランドとその近辺の多数の医療機関で受診を試みた。彼女は最終的に財団の捜査員に拘束され、その際、(他の事柄とともに)手続4000-ハロウェイを完全に記述した本を所持していることが判明した。ヘイフォースは協力する代わりに頭部の肉の除去を財団職員に求め、放浪者の図書館の知人から本を受け取ったと告白した。
後書: これは、民間人によって引き起こされた初の既知の名辞的収容違反です。以降、類似の事例が断続的に発生しています。ヘイフォースが財団の管理下で死亡してから20年以上経過した2012年、若年時の彼女と表面的に類似した土着実体が撮影されました(図 1.1)。
違反日時: 1992年10月30日
命名対象: マイケル・アシュリー・ヴィンセントが探検ミッションの間に数夜を過ごした家。
概要: 数年前に探検ミッションを完了したエージェントのマイケル・アシュリー・ヴィンセントが、2人の同僚に話をする際、所有格のフレーズ"██家"を数回使用した。その同僚らは名前を持たなかった。
しばらくのち、サイト-08に大型のレンガ造りの建物が既存の建築物と交差した状態で出現した。内部では、マイケル・アシュリー・ヴィンセントの頭部のない身体が、激しく痙攣し、エルクの角で作られた照明器具に頸部で接続された状態で発見された。彼の顔は、生気が感じられず、建物の床全体を覆うように引き延ばされていた。
顔の口内に派遣されたエージェントらは、完全な消化管が存在していないことを確認した。マイケル・アシュリー・ヴィンセントの名もなき同僚らは、その口蓋垂に結合していたと報告されている。
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REQUEST="DOC-4000-H"
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[ACCESS: GRANTED]
4000-ハロウェイ: 以下はレッテルの及ばぬ地平にアクセスするための検閲済み指示リストです。この文書の当バージョンでは一部の手順が省略されています。手続きの最後のフレーズとカウンターフレーズは対象者のタイプカテゴリによって異なります: 家族の長子(タイプ-1)、中間子(タイプ-2)、末子/一人っ子(タイプ-3)。
- 有機的な焚きつけを使って、任意の屋内暖炉に安定した炎をおこしてください。
- オスのアカギツネ(Vulpes vulpes、年齢不問)、成熟したオスのライオン(Panthera leo)、ヒゲクジラ亜目(Mysticeti、年齢・性別不問)の骨の粉末を混ぜ合わせて、火に投じてください。
- 情緒的に大きな価値がある、燃えやすい私物を1つ用意し、火にくべてください。
- Corvus属に分類される、黒い羽毛の鳥の羽根3片を注意深く火の上に放ち、煙に乗せて煙道を上昇させてください。
- 炎が声を発し始めたら、適切なカウンターフレーズで応答してください(下のフレーズとカウンターフレーズを参照)。
- 正しい陳述を行うと、暖炉が拡大して梯子が降りてきます。火は無害です。
- いかなる理由であれ陳述を誤った場合はただちに謝罪し、今後二度と手続4000-ハロウェイを試みないでください。
注: 手続4000-ハロウェイに居合わせながら手続きを実行していない者は、いかなる状況下でも、絶対に炎の声に応答したり、活性化した暖炉に近づいたりしてはいけません。
フレーズとカウンターフレーズ
フレーズ: この森には掟がある。These woods have rules.
カウンターフレーズ: そう言われている。Or so they say.
フレーズ: もし掟を破るなら?And if you break them?
カウンターフレーズ: 私がその代償を払う。A price I'll pay.
フレーズ: 誰かいるのか?Is someone there?
カウンターフレーズ: 私だけだ。There's only me.
フレーズ: お前は誰だ?And who are you?
カウンターフレーズ: すぐにわかる。I guess you'll see.
フレーズ: 何を求める?What do you seek?
カウンターフレーズ: 木々を歩むこと。To walk the trees.
フレーズ: 礼儀を忘れるな。Now, mind your manners.
カウンターフレーズ: どうかお願いします。To walk them, please.
END="DOC-4000-H"
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REQUEST="Standard_Exploration_Protocol"
…
…
…
[ACCESS: GRANTED]
注: 以下は生存のために重要な指示のみを含む、短縮されたリストです。探検任務に割り当てられた職員は、出発前に4000-SEP-3から8にも習熟しなければなりません。
4000-SEP-1探検のための一般指針:
…1.01 名前を受け入れない場所に入る前に、必ず標準財団探検パックを装備せよ。
…1.02 標準財団探検パックに含まれるレーション以外の食物を口にしてはならない。
…1.03 いかなる状況下でも木々の次元に銃火器を持ち込んではならない。
…1.04 タイプ-1対象者は、価値のある資源とみなされうるものを受け取ったり、直接扱ったりしてはならない。これには通貨、貴金属や宝石、有用な異常性質を持つ物体、精巧に作られた武器などが含まれる(ただしこの限りではない)。
…1.05 タイプ-2対象者は、自身に愛情や恋愛感情を抱く土着の実体を避け、いかなる方法でもこれらの感情に報いるように見せてはならない。土着実体がタイプ-2対象者に対して愛情や恋愛感情を示す発言は虚偽である。
…1.06 タイプ-3対象者は、一般的に気まま、贅沢、または身体的に快適とみなされる活動に参加してはならない。これには踊り、喫煙、玩具遊び、水以外の飲料の摂取、音楽鑑賞、柔らかい場所での睡眠などが含まれる(ただしこの限りではない)。
…1.07 諸君らが進まねばならぬ道の途上で遭遇した構造物には、立ち入る前に入口でノックせよ。退出は入った場所から行え。招かれずに立ち行った場合には、見つかってはならない。
…1.08 掟を至上とする森で眠った場合は、夢を記録せよ。探検パックには日誌が含まれている。記録した夢と類似したランドマークや実体と遭遇した場合は、その夢を事実として扱え。
4000-SEP-2土着実体との交流指針:
…2.01 土着実体と会話を始める前に、礼儀正しく挨拶せよ。女性の場合にはおじぎまたはカーテシーをせよ。
…2.02 心をこめた声のトーンで話せ。
…2.03 虚偽であると自覚している発言をしてはならない。
…2.04 土着実体の前で、それらを見下すような発言をしてはならない。
…2.05 適切である場合には'どうかお願いしますplease'や'ありがとうございますthank you'と言え。
…2.06 プロトコル4000-Eshuに従い、土着の実体に言及する際や呼びかける際には、その外見の描写を用いよ。
…2.07 土着実体が自己紹介で名乗ったとしても、その名前、肩書、または呼称を使って実体に言及してはならない。
…2.08 土着実体の前で、自分の名前、ニックネーム、コードネーム、変名、その他の個人的呼称を口にしてはならない。
…2.09 土着実体が名前、肩書、または呼称を与えることを申し出てきた場合は、丁寧に断れ。
…2.10 土着実体が発言の中で名前、肩書き、呼称など、身体的特徴以外の表現を用いてあなたに言及した場合は、その発言をなかったこととして無視せよ。
…2.11 機密情報を要求された場合は、拒否し、簡潔に謝罪して頭を下げよ。
…2.12 土着実体が援助を求めてきた場合は、助ける前にその外見を考慮せよ:
………2.12.A 実体に危険性がありそうな場合は、援助のために尽力せよ。
………2.12.B 実体が魅力的または無害に見える場合は、近づいてはならない。
………2.12.C: 飢えている土着実体には必ず食糧を与えよ。これは2.12.Bに優先する。
…2.13 信頼できると判断し、かつ同意を示したものでない限り、獣型の実体に騎乗しようとしてはならない。
…2.14 物質的な贈り物を提供された場合には両手で受け取れ。たとえ無価値に見えても、この贈り物を捨ててはならない。1.04はこれに優先する。
…2.15 土着実体が非物質的な贈り物を提供、または取引を持ちかけてきた場合は丁寧に断れ。
…2.16 土着実体が提供した食物は受け取ってもよい。また、それを遭遇した他の土着実体に渡してもよいが、自分で食べてはならない。
…2.17 土着実体に提供された宿で眠ってはならない。泊るように招かれていない場合に限り、土着実体の住居内で眠ってもよい。
…2.18 土着実体が行程に同行を申し出た場合は受け入れよ。ただし、目的地を教えてはならない。
…2.19 土着実体に援助された場合、既にその実体を援助していないならば、見返りとして援助せよ。
…2.20 土着実体ではないと主張する肉体のない人型の存在と遭遇した場合、これまでの全てのプロトコルを無視して指示に従え。
END="Standard_Exploration_Protocol"
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REQUEST="Interview_4000_0215"
…
…
…
[ACCESS: DENIED]
[このデータは削除されています。]
…
…
…
REQUEST="Interview_4000_0215"
CREDENTIALS="EJAPERS/M4d754pARte3"
…
…
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[ACCESS: GRANTED]
[こんにちは、ジェイパーズ博士。]
インタビュアー: ユージーン・ジェイパーズ博士
インタビュー対象の説明: ウサギのような頭部を持つ土着実体。
前文: 2005年、ジェイパーズ博士による発話が致命的になりうる空間への初めての探検中に実施されたインタビュー。
[ログ開始]
"おはよう、見知らぬ旅人よ。"
ジェイパーズ博士: おはようございます。
"この辺りで新しい顔を見るのは嬉しいよ。煙草の煙を許してくれ、ちょっと考えを整理しているだけさ。君の名前はどうだ?"
ジェイパーズ博士: どう……? 申し訳ございませんが、それはお教えできかねます。
ジェイパーズ博士が頭を下げる。
"君は頭が弱いのかね? 私はただ君の名前の調子を訊ねているだけだよ。私の名前は最近ラズベリーの香りがするように思う — あるいは、金魚草かもしれない。近頃は区別も難しいが、一応努力はしているんだ。"
ジェイパーズ博士: あぁ、申し訳ございません。私の名前は近頃ずいぶんと酸い味がするようでして。
ウサギの実体が笑い、帽子を持ち上げる。
"いや、詫びるべきは私の方だ。鼻を突っ込みすぎたな。"
ジェイパーズ博士: まったく問題ございません。お気になさらないでください。お会いできて嬉しゅうございますが、そろそろ失礼しなければ。
"さほど急ぐ必要もあるまい? 近くに私の家がある。お茶でもいかがかね。"
ジェイパーズ博士が再度頭を下げる。
ジェイパーズ博士: 誠に申し訳ございませんが、あいにく今はお伺いできません。よろしければまたの機会にさせていただきます。
"結構。また会おう、ずいぶんと酸い名前の客人よ。"
[ログ終了]
インタビュアー: ユージーン・ジェイパーズ博士
インタビュー対象の説明: 兎顔の紳士。
前文: 2008年、ジェイパーズ博士によるレンガの狭間のあの巣穴への4度目の探検中に実施されたインタビュー。
[ログ開始]
ジェイパーズ博士は丘の頂上に到達し、キャベツ畑の手入れをしているウサギのような知人を発見する。
"こんにちは、見知らぬ人よ。いや — ああ、失礼。前に会ったことがあるようだね?"
ジェイパーズ博士: こんにちは。ええ、そう思います。私の記憶が正しければ3年前でございますね。
"思い出したよ。あの時の君はずいぶん急いでいたな。"
ジェイパーズ博士: ええ、その節は失礼いたしました。あの頃はこの辺りに不慣れで、用心しておりましたもので。
"相も変わらず謝りがちな様子だな。まあいい。君はここの者ではないのか? 非常に興味深い。君はどこの森から来たのかね?"
ジェイパーズ博士: 私は森の出身ではございません。
"そんな訳はないだろう。君の故郷にも木くらいはあるのではないか?"
ジェイパーズ博士: 木はございますが、とてもまばらでして。ほとんどの土地は家や商店で埋め尽くされております。
"ならば下等な森だが、森には違いあるまい。どうやってここに来たのか教えてはくれないかね?"
ジェイパーズ博士: なかなかの探究心をお持ちで。もしよろしければ、私からあなたにひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか。
"無作法を許してくれ。私は学者気取りなものでね、よその森について知る機会があると少々気が昂ってしまうのだ。ぜひとも質問してくれたまえ。"
ジェイパーズ博士: 以前お会いした際、ご自身の名前を説明するのが難しいとおっしゃいましたね。その理由について、何か心当たりはございますか?
"それはきっと、私と名前があまりに長い間離れていたからだろう。大変によく、誇り高い名前だったと記憶している。しかし、その名がもしまだ存在しているにしても、もはや昔日の栄光など朽ち果てているだろう。"
ジェイパーズ博士: 今、お名前はどちらにあるとお考えでしょうか?
"知の同胞よ、まずは先ほどの質問に答えたまえ。"
ジェイパーズ博士が頷く。
ジェイパーズ博士: 私は今歩いております小道の果てにある、歴史ある古井戸を通ってまいりました。
もう1人の人物は話し始める前に一瞬躊躇する。
"それは。ずいぶんぶりじゃないか。正直に言うと、古き盟友たちはみな死に絶えたと思っていたのだ。君の祖父か誰かの情人がここにいたのか?"
ジェイパーズ博士が頭を下げる。
ジェイパーズ博士: 誠に申し訳ございませんが、その質問にはお答えいたしかねます。
"そうか。仕方ない。君を私の家に招いてお茶でも、と言いたいところだが、それは無理なんだろう?"
ジェイパーズ博士: 残念ながら、その通りでございます。
会話の相手は笑い、キャベツの葉を1枚摘み取ってジェイパーズ博士に差し出す。
"そんなに怖がる必要はない。これを持って行きなさい。"
ジェイパーズ博士が両手で葉を受け取る。
ジェイパーズ博士: ありがとうございます。
"よい旅を、そして求める物との邂逅が叶いますように。"
[ログ終了]
後記: ジェイパーズ博士は後にハタネズミに似た土着の実体に食べ物としてキャベツの葉を与えました。その実体は返礼として彼の旅を支援しました。
インタビュアー: ユージーン・ジェイパーズ博士
インタビュー対象の説明: 葉を与える者.
前文: 2013年、ジェイパーズ博士による休みなきさまよい人たちのあの谷間への9度目の探検中に実施されたインタビュー。キャベツの贈り物を携えた者がこちらの世界に関して特殊な知識を持っているように見えたため、ジェイパーズ博士は3度目に遭遇した際には、より徹底したインタビューを行うよう指示されました。
さらに、最初の遭遇でふわふわした者が虚偽を受け入れやすいことが示されたため、ジェイパーズ博士には会話を促進する目的で虚偽の発言をする特別な許可が与えられました。
[ログ開始]
疲れた冒険者たちの道を進んでいたジェイパーズ博士は、藁ぶき屋根の小さな白い家に出会う。表の扉にはウサギの頭の形をした小さな穴が開けられている。ジェイパーズ博士は近づいてノックする。
ジェイパーズ博士: すみません。どなたかいらっしゃいますでしょうか?
(中からかすかにくぐもった声) "うむ、1分待たれよ。"
ちょうど1分が経過する。ドアが開く。
"これは、これは! さあ、どうぞ中へ入ってくれ。"
ジェイパーズ博士は中に案内される。内装は木製の家具と刺繍の作品で控えめに飾られている。
ジェイパーズ博士: 素敵なお家でいらっしゃいますね。
"ハッ! 君は素敵な冗談のセンスを持っているな。"
家主は隅の小さな台所に急ぎ、やかんの準備を始める。
ジェイパーズ博士: いいえ、本当に。とても魅力的だと存じます。
"そうかもしれないな。向こう側で事情が落ち着くまでの仮住まいのつもりだったんだが、まあ、知っての通りだ。"
ジェイパーズ博士: いいえ、実は存じ上げません。何かお手伝いさせていただきましょうか?
"いや、構わん構わん。君はあっちの席に座って、お茶の用意ができるのを待っていてくれ。"
ジェイパーズ博士が椅子を引き、席に着く。
ジェイパーズ博士: お気持ちは大変ありがたいのですが、消化の問題で頂戴できないかもしれません。
"おお、かわいそうに。まあ、なんにせよお茶があるだけでも気持ちが安らぐものだよ。"
ジェイパーズ博士: ご親切にありがとうございます。ところで、'事情が落ち着く'とはどういう意味か、お教えいただけますでしょうか?
毛皮をまとった家の主はコンロに火をつけ、ドアと同じ形の窓から外を見つめる。
"君の親族はすべてを話さなかったのだろうな。我々をここへ追いやった動乱について。"
ジェイパーズ博士: 動乱? 戦争があったのでしょうか?
毛の繁った者が溜息を吐く。
"いつものことだろう?"
ジェイパーズ博士: 祖父母から戦争があったとは聞きましたが、あなたがたとの間に起きたとは存じませんでした。
"驚くことではないな。この森の中でさえ、覚えているものはとても少ない。記憶とは、老いたる者の重荷なのだろう。だが、そうだな。若かった頃、今とは全く違う姿で、私はあの井戸の向こう側に住んでいた。そこは私が生まれ育った場所であり、もし夢を見ることが許されるならば、いつか戻る場所だ。"
ジェイパーズ博士: それでは、なぜお戻りにならないのでしょうか?
やかんが笛を吹く。
"戻れないのだ。歓迎されると確信できるまでは。"
茶の淹れ手がカップにお茶を注ぎ、テーブルの向かいに座る。
"君は知らないだろうが、私をすぐにでも殺したいと思っている者たちがいるのだ。彼らは隠れているからね — ああ、申し訳ない。暗い話だし、聞きたくないだろう。"
物語の話し手が茶をすする。
ジェイパーズ博士: いいえ、どうかお続けください。私にはとても興味深いお話です — 私は知の同胞ではございませんか。
"ではお望みのままに、知の同胞よ。お茶が冷めるまでは話すとしよう。"
(それは咳払いをする。)
"嘆かわしい話だが、我々は裏切られたのだ。つまり、あの工場との戦争で、我々は轡を並べて戦った。彼らを助けるために尽力したが、彼らは何をしたか? 我々を滅ぼし、多くの命と全員の名前を奪った。戦争が始まったばかりの頃にここへ逃れた仲間もいたが、数は多くなかった。本当に少数だ。それでも、私は彼らを憎んではいない。"
ジェイパーズ博士: それは安心いたしました。
"そうだろうな! この辺りには種全体に遺恨を抱いている石頭の年寄りもいるが、君たち全員が悪いわけではないと、私は知っている。我々をかくまった者、我々のために戦った者、さらには命を捧げた者も多くいた。ここに来て共に暮らし、骨を埋めた者たちもいた。私自身もかつて人間に求愛したよ。彼は1度か2度訪ねてきたが、その後は姿を見なかった。今でも彼が冷酷な同胞の手にかかったのか、それともただ私を訪ねるのをやめただけなのか、時折考えることがある。しかし、今となってはどうでもいいことだ。過ぎた恋について長々と話してしまって申し訳ない。こんな話は君には面白くないだろう、知の同胞よ。"
ジェイパーズ博士: それどころか、ぜひもっとこうしたお話をお聞かせください。あなたがたの生活に大変興味がございます。
"そうだろうな、知の同胞よ。"
一陣の雄風が家の中を通り抜ける。30秒ほど、両者は無言のままである。そこに住まうウサギ人間がうめき声を上げ、痛そうに頭に手を当てる。ジェイパーズ博士はティーポットに手を置く。
ジェイパーズ博士: どうやらお茶が冷めてしまったようだ。そろそろ失礼するよ。
(かすかに不明瞭な声) "はい? お出かけになるのですか? そ、それでしたら、私も行きます。"
ジェイパーズ博士が席を立つ。
ジェイパーズ博士: いやいや、お構いなく。私ひとりで行かせてもらおう。突然のことで、このような形になって申し訳ないが、ここらで本当に失礼するよ。こんなに長くここにいる予定ではなかったのでね。
"何が — ? 私には…… お願いします、行かないでください。何かがおか — "
ジェイパーズ博士: こうするしかないんだ。
"待ってくれ! 何をしたんだ? 私は誰…… 私の名前は? 思い出せな……"
ジェイパーズ博士は素早く家を出る。彼が去る間、かつての友人はすすり泣きながら自分の両手を見つめる。
ジェイパーズ博士: ふむ。たしかにかなり酸いな。
[ログ終了]
後記: ジェイパーズ博士は無事にサイト-08へ帰還しましたが、まもなく行方不明になりました。彼の失踪と現在の居場所についての調査は結論に至っていません。当初、ジェイパーズ博士は直近のミッション中に生理的な異常の影響を受けたと考えられていました。しかし、詳細な分析の結果、彼の探検用装備に付着していた本人の兎毛から遺伝的異常は一切発見されませんでした。
END="Interview_4000_0215"
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