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統計Today No.128

「実感」する消費者物価とは

総務省統計研究研修所次長 佐藤 朋彦

はじめに

平成30年4月の月例経済報告を見ると、「消費者物価は、このところ緩やかに上昇している」と記載されています。しかし、庶民の実感では「緩やか」ではなく「かなり」上昇していると言われることが多くなってきています。
実際に人手不足や原材料の値上がりから、品物やサービスの値段が急に上昇してきていると報道されるようになってきています。
しかし、毎月公表されている消費者物価指数の公表冊子等のヘッドラインを見る限りでは、まだまだそのようには見えてきません。
そこで、その謎を少し見ていくことにしましょう。

「持ち家の帰属家賃」を除いてみよう

消費者物価指数「総合」の全国2月分の前年同月比は、1.5%の上昇でした。しかし、値動きの大きい野菜や魚などの「生鮮食品を除く総合」では1.0%の上昇、さらに生鮮食品のほかガソリンなどのエネルギー品目も除いた「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」では0.5%の上昇と、「総合」に比べて上昇幅は1.0ポイントも低くなっています。

一方、消費者物価指数の「総合」には、多くの主要国と同様に実際に市場での売買がない「持家の帰属家賃(注1)」の動きが含まれています。
そのため、家計調査の「消費支出」や毎月勤労統計調査の「賃金」は、消費者と取引がある物価の動き、すなわち「持家の帰属家賃を除く総合」でデフレートし、実質の前年同月比を求めています。
また、この「持家の帰属家賃」のウエイトは1万分の1499と大きく、また、その帰属家賃の動きは「民営借家の家賃」を代入しています。
最近は「民営借家の家賃」が下落傾向にあることから、「持家の帰属家賃を除く総合」の全国2月分の前年同月比は1.8%の上昇と、上述の「総合」に比べて上昇幅は0.3ポイント高くなっています。しかし、1.8%の上昇ではまだ実感よりも低い上昇幅なのではないでしょうか。

(注1)持家世帯が住んでいる住宅を借家だと仮定すれば、そのサービスに対し当然家賃を支払わなければならない。そこで、持家の住宅から得られるサービスに相当する価値を見積もり、これを住宅費用とみなした場合に支払われるであろう家賃を「持家の帰属家賃」と言い、消費者物価指数に算入している。また、この「持家の帰属家賃」は、国民経済計算(SNA)で求められる国内総生産(GDP)にも含まれている。

基礎的支出項目の物価に注目しよう

消費者物価指数は、世帯が購入する各種の財・サービスの価格の平均的な変動を測定するものです。そのため、家計調査の結果を基に世帯が購入する財・サービスのうち、世帯の消費支出の上で一定の割合を占める重要なものを調査品目として選んでいます。この中には、電気代や食料などの必需性が高い品目だけでなく、外国パック旅行費など世帯の嗜好などによる選択的な品目も含まれています。
そこで、消費者物価指数では家計調査の結果を基に統計的な方法(注2)により、品目を必需性が高い項目と選択性が高い項目とに分けて指数が作成されています。
その指数の動きを見ると、必需性が高い「基礎的支出項目」の全国2月分の前年同月比は2.6%の上昇となっています。一方、「選択的支出項目」の指数は0.5%の上昇となっており、両者の上昇幅の違いは2.1ポイントあります(注3)
また、最近3か月間の動きを見ても、「基礎的支出項目」は前年同月比が2.0%以上となっているのに対し、「選択的支出項目」は0.5%以下となっています。

(注2)家計調査から得られる支出弾力性(消費支出総額が1%変化する時の当該品目支出額の変化率(%))の大きさによって各品目を区分している。
(注3)統計表第14表参照 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&lid=000001203544 e-Stat


まとめ

私たちは購入頻度が多い生鮮品目のほか、日々の生活に欠かせない電気代など基礎的な品目の値動きに敏感になりがちで、それが実感する物価の動きになっていると見られます。
消費者物価指数はこのような実感する物価を捉えるだけでなく、世帯が購入する各種の財・サービスの価格の平均的な変動を客観的に測定するものです。
したがって、消費者物価指数が「実感」と異なると思った際には、公表冊子等のヘッドラインに掲載される指数の動きだけを見るのではなく、ここで紹介しました「基礎的支出項目」や「選択的支出項目」の指数の動きにも注目してみましょう。


図 消費者物価指数及び前年同月比の推移(基礎的、選択的支出項目別)



(平成30年4月19日)


e-Statの項目は、 政府統計の総合窓口「e-Stat」掲載の統計表です。

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