企業物価指数・2000年基準指数の特徴点
2002年12月 9日
日本銀行調査統計局
日本銀行から
以下には、要旨を掲載しています。全文は、こちら (ntcgpi01.pdf 222KB) から入手できます。
要旨
- 日本銀行では、本日、卸売物価指数の2000年基準改定結果(企業物価指数への移行)を公表した。2003年1月から、従来公表していた卸売物価指数・1995年基準指数(以下、旧指数と呼称)に替え、企業物価指数・2000年基準指数(以下、新指数と呼称)の公表を開始する1。
- 2000年基準改定結果の全般については、同時に公表された「卸売物価指数の基準改定(2000年基準企業物価指数<CGPI>への移行)の結果」を参照されたい。
- 物価指数は、一般に、多くの商品の価格を調査した上で、それらを何らかの手法で加重平均することにより集計・作成されるが、その集計方式には様々な方法がある。現在、企業物価指数で採用している、ウエイトを基準時に固定するラスパイレス指数算式には、毎月の指数計算が比較的容易である、統計で重視される速報性に富んでいる、などの大きなメリットがある。一方、ウエイトならびに採用品目を基準時点で固定することから、時間の経過とともに、ウエイトが実際の取引シェアと乖離する、取引が伸長した商品であっても、基準時における取引ウエイトが採用基準額以下であった商品については品目として採用されていないことから、その価格動向を指数に反映することができない、といったデメリットも存在する。そこで日本銀行では、こうした問題による影響を緩和し、物価指数の精度を維持するために、5年毎に基準改定を行っている。今回基準改定の場合は、(1)指数の基準年およびウエイト算定年次を1995年から2000年に更新する、(2)物価指数に採用する品目の大幅な見直しを行うことにより、前回基準改定(1995年基準への移行、1997年12月公表)以降の経済・貿易構造の変化に対応した物価指数への衣替えを行っている。
- 今回の基準改定では、指数の基準年およびウエイト算定年次の更新、さらには品目・分類編成の見直しといった通常の基準改定作業に止まらず、物価指数の土台部分である価格調査面でも大規模な見直しを行ったことが大きな特徴である。具体的には、価格調査の精度を一段と向上させるために、(3)調査価格数を大幅に積み増した(約7割増)ほか、(4)従来型の価格調査では実務上その把握が困難であった商品について、品質一定の条件を損なわない範囲内で「平均価格」を積極的に採用して実勢価格の把握に努めることとした。さらに(5)IT関連商品など技術革新の著しい商品についてヘドニック法の適用を拡大するなど品質調整方法の充実を図ったこと、(6)ウエイトを基準時に固定したラスパイレス指数を補完するものとして、「連鎖方式による国内企業物価指数2」を参考指数として公表することも今回基準改定の大きな特徴である。こうした見直しの結果、基準改定の規模は、卸売物価指数の体系を現在の国内・輸出・輸入の3物価体系に変更した1980年基準改定以降、20年ぶりの大きなものとなった。
- 2 詳細については、「『連鎖方式による国内企業物価指数』の公表 —— 『連鎖指数』導入の意義とその特徴点 —— 」(日本銀行調査月報2002年11月号掲載)を参照されたい。
- 以上の見直しを取り込んだ今回の基準改定の成果は、以下の4つの点に集約される。(1) IT化の潮流、国際分業の進展という流れに即し、IT関連商品や部品類、安値輸入品を新規採用もしくは品目分割することにより、最近の経済・貿易構造の変化に対応した物価指数への衣替えを行うことができた。例えば「平均価格」の採用により、「半導体製造装置」の新規採用に漕ぎ着けたほか、調査価格数の大幅な積み増しにより「集積回路」の品目分割を行い、汎用製品とカスタムメイド製品の価格動向の違いを明らかにすることが可能となっている。(2)「平均価格」の採用により、取引価格の多様化(一物多価)が進んでいる商品について、「特売」や取引先ごとに個別性の強い値引きなどを物価指数に取り込めるようになったほか、多品種少量生産ないしはオーダーメイド色が強いなど個別性が強い商品について、実勢価格を捉えることが可能となった。その結果、加工食品や繊維製品、一般機器などの指数が、需給により敏感に反応するようになり、企業物価指数の「経済の体温計」としての機能がさらに高まっている。(3) ヘドニック法の適用拡大により、調査先企業の報告負担を抑えながら、伝統的な品質調整方法では対処が難しいIT関連商品(サーバ)の品質調整方法を改善し、物価指数の精度を向上させた。(4) ウエイトを基準時に固定するラスパイレス指数を補完するものとして、「連鎖方式による国内企業物価指数」を参考指数として公表することにより、基準年からの時間の経過に伴うラスパイレス指数の上方バイアスを把握する材料の一つを提供した。
- このような見直しを経て誕生した新指数(国内企業物価指数)の動きをみると、2000年1月以降、ほぼ一貫して下落しているが、旧指数に比べて下落テンポが速くなっている点が特徴である。この点を新旧指数の前年比を比較することでみてみると、2001年平均で、新指数の下落率が1.5%(旧指数−0.8%、新指数−2.3%)、2002年9月でも0.9%(旧指数−0.9%、新指数−1.8%)、旧指数の下落率よりも大きくなっている。国内企業物価指数において、新旧指数が乖離した要因を寄与の大きい順に整理すると、「ウエイトの更新/指数水準の基準化」の寄与が最も大きいが、「平均価格の採用」や「品質調整方法の改善」などによっても、新指数は押し下げられる結果となっている。