決済システムの概要
売買代金の支払いなど、経済取引におけるお金の受払いや証券の受渡しのことを、「決済」といいます。このとき、決済の際に受払いされる「お金(現金や預金)」を「決済手段」と呼び、決済を円滑に行うために作られた仕組みを、一般に「決済システム」と呼びます。決済システムには、コンピューター・ネットワークなどの物理的な仕組みのほか、決済に関する契約・慣行上のルールや、場合によっては関係法令も含まれます。また、一国の決済の仕組み全体を総称して決済システムと呼ぶこともあります。
日本銀行による決済手段と決済システムの提供
日本銀行は、広く国民の皆さんに利用される日本銀行券(詳しくは、銀行券・貨幣を参照)と、金融機関が利用する日本銀行当座預金という二つの安全で便利な決済手段を提供しています。これらはいずれも中央銀行が提供するという意味で極めて安全な決済手段です。
日本銀行は、日本銀行当座預金を用いて資金決済を行うシステムを提供しています。具体的には、金融機関同士が行う資金取引の決済や国債などの証券取引の代金の決済、民間決済システムの最終的な決済に日本銀行当座預金の振替が利用されています。このほか、日本銀行が金融機関との間で行うオペレーションや貸出、国庫金の受払、国債の発行・償還に伴う資金の受払いなどについても、日本銀行当座預金の入金・引落しによって決済が行われています。また、日本銀行は、国債振替決済制度など国債の決済システムも提供しており、国債取引に伴う受渡しを帳簿上の口座振替などによって処理しています。
また、日本銀行は、こうした資金および国債の決済が安全かつ効率的に行われるよう、日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)というコンピュータ・ネットワークシステムを運営しています。
決済システムの安全性・効率性の向上に向けて
日本銀行は、わが国の決済システムの安全性と効率性を確保し、一段と向上させるための努力を行っています。その代表的な取組みは、日本銀行当座預金や国債の決済の仕組みや方式などの改善です。
例えば、国債の売買などで「国債を渡したのに代金を受け取れない、代金を払ったのに国債を受け取れない」といったことがないよう、国債と資金の決済を相互に条件付け、一方が行われない限り他方も行われないようにする仕組みを導入しました。これを国債DVPといいます。DVPは、Delivery Versus Paymentの略です。
また、あるところで発生した決済不能が次々と広がって、他の金融機関や決済システム、ひいては金融システム全体に混乱を及ぼす可能性を削減する取組みを行っています。具体的には、日本銀行当座預金や国債の決済について、1日の決まった時間に多くの受払いをまとめてその受払差額のみを決済する方式(時点ネット決済)から、個別に随時決済を行う方式(RTGS:Real Time Gross Settlement)に一本化しました。RTGSでは決済のために大量の流動性が必要となります。そこで、金融機関などの流動性調達の負担を軽減するよう、日本銀行による日中当座貸越の提供を開始しました。
その後、民間決済システムで時点ネット決済されている大口の資金決済を日銀ネットでRTGS処理するプロジェクトを進めました。その際には、決済に必要な流動性を節約できる機能を新たに追加しています。
日本銀行は、日本銀行当座預金を用いた資金決済システムの参加者(当座預金取引先)や国債振替決済制度の参加者を選定するための基準を定め、公表しています。例えば、当座預金取引については、金融機関などから取引開始を希望する旨の申出があり、かつその業務や経営内容、事務処理体制に問題がないなど一定の条件を満たす場合に取引を開始することとしています。こうした取扱いは、日本銀行が提供する決済システム、ひいてはわが国決済システム全体の安全性と効率性の確保に役立つものといえます。
このほかにも、日本銀行以外の主体が提供する決済システムについて、制度設計やリスク管理体制、運営状況などをモニタリングし、その安全性と効率性を評価するとともに、必要があればその改善に向けた働きかけを行っています。こうした活動はオーバーサイトと呼ばれます。また国際的に活動する民間決済システムに対しては、関係する中央銀行と協調してオーバーサイトを行っています。
さらに、日本銀行では国際決済銀行(BIS)の決済・市場インフラ委員会に参加し、決済リスクの削減などに関する各種の検討や決済システムに関する国際基準の策定などにも取り組んでいます。