第8回決済システムフォーラムの議事の概要
2004年11月12日
日本銀行
開催要領
- I.開催日時:2004年11月5日(14:00〜16:00)
- II.場所:日本銀行本店
- III.出席者:別添1参照
議題
- I.各決済システムにおける最近の話題
- II.電力会社における防災対策
- III.金融分野における情報技術の国際標準化動向
- IV.決済統計(「決済動向」)にかかる今夏の見直しについて
I.各決済システムにおける最近の話題
1.東京銀行協会(平井事務システム部次長)からの説明(配付資料は別添2)
東京銀行協会が運営する決済システム、すなわち手形交換・磁気テープ交換システム、全国銀行データ通信システム(全銀システム)および外国為替円決済システム(外為円決済システム)に関し、障害発生時における利用者への情報提供のあり方について取り纏めたのでご紹介したい。これは、全国銀行協会による「システム障害発生時の利用者への迅速な情報提供についての申し合わせ」(本年4月20日)も踏まえて策定されたものである。
各システムとも、利用者への影響が大きいと判断される場合に、情報提供を行うことを基本としている。具体的には、1.手形交換システム障害については、障害発生により不渡返還時限を延長する可能性が高いと判断される場合、また磁気テープ交換システム障害については、給与振込等の入金遅延が見込まれる場合、2.全銀システム障害については、東京・大阪の両センター障害、片センター全面障害や、加盟銀行の中継コンピュータまたは通信回線の全面障害の場合、3.外為円決済システム(日銀ネット)障害については、当日の決済が完了しなかった場合、が想定されている。また、手形交換システムおよび全銀システムについては、自行システム障害に伴い、不渡返還時限の延長を決定した場合や全銀システムの通信時間を延長した場合にも、情報提供を行う。
こうした情報提供は、全銀協ホームページへの掲載(掲載場所全銀協ホームページ内「topics」)により行うこととしている。内容としては、障害発生時刻や対応状況等のほか、手形交換システムおよび全銀システムの自行システム障害に伴う情報提供の場合には、システム障害発生銀行名も含まれることとなる。
2.日本デビットカード推進協議会(米倉事務局長)からの説明
日本デビットカード推進協議会は1998年6月に設立され、2000年3月からはデビットカードサービス「J-Debit」を全国規模で本格的に展開してきている。
現在、取扱件数は毎月100万件前後、取扱金額は毎月600〜700億円に上っており、参加金融機関は1,900弱、うち1,500弱の金融機関が実際に決済を行っている。利用は全国の21万箇所以上で可能であり、業種・業態別にみると、家電量販店、百貨店、スーパーマーケットといった流通・小売のほか、病院や学校(各種スクール等)、証券業といった金融・サービス業における利用も多い。なかでも、このところ自動車販売や病院などでは年率50%以上の伸びがみられる(2002年〜2003年)。
また、利用形態については、企業が加盟店となり利用者が個人顧客であるような所謂B to Cが基本であるが、最近では、個人が加盟店となり利用者が企業・個人であるようなC to B、C to Cの形態もみられるようになっている。
今後は、デビットカードの具体的な導入事例をアピールしながら、引き続き一段の普及拡大を図っていきたいと考えている。また、利用時間帯の拡大なども課題の一つとなると思われる。
3.ほふりクリアリング(鈴木業務管理部長)からの説明(配付資料は別添3)
本年5月より、ほふりクリアリングが清算機関となって、株式等の振替のうち、取引所取引以外の振替を対象とした一般振替DVPを開始した。一般振替DVP開始後の約半年間の利用状況は、参加者数は、現在、銀行および証券会社62社、DVPによる振替件数は1営業日平均で58,000件程度(約4万件から約8万件程度の間で推移)、また、全体の一般振替件数のうちDVP決済されているのは約6割である。代金ベースでみると、片道グロスの決済金額は1営業日平均では9千億円程度(約6千億円から約1兆5千億円程度の間で推移)となっている。実際の資金決済は、参加者毎にネッティングした金額で決済されているが、ネッティング後の合計金額は1営業日平均で1千億円程度と、グロスベースの金額の約12%にまで圧縮されている。
このように、株式等の一般振替DVPは、これまで目立ったトラブルもなく順調に稼動しており、ユーザーからも、決済リスク削減や事務効率化の観点から一定の評価を得られているとみている。
4.証券保管振替機構(齋藤企画部長)からの説明
証券保管振替機構は、来年5月に稼動開始予定の日本国債清算機関に対して決済照合機能を提供する予定。今月中には参加者との間で接続試験等を開始し、来年2月から照合機能の提供を開始するが、その後、日本国債清算機関の総合運転試験を経て、来年5月に本格稼動を目指すスケジュール。
短期社債振替制度(電子CP)については、本年4月からは短期外債とサムライ電子CPも取扱対象に加え、現在、残高は約2兆円、制度同意発行者は65社となっている。印紙税特別措置の期限が来年3月に迫っていることを受けて、夏以降、本制度に関する発行者向け説明会を開催するなどした結果、参加の申込や問合わせが増加している。今後は、一般債振替制度の開始に合わせて、STP化など利便性向上のための対策を講じていく予定。
一般債振替制度については、本年5月にシステム接続仕様書を公表し、2006年1月の開始を目標として、現在、来年8月からの運転試験の準備、市場慣行や既発債券の振替債への移行など実務処理に関する検討などを進めている。
投資信託の振替制度については、本年9月に制度要綱を取り纏め、10月には制度概要についての説明会を開催したところ。現在は、2007年1月の制度実施を目途として実務・システム面の検討を行っているところである。
最後に株券の電子化への対応については、本年6月、いわゆる株式等決済合理化法が公布され、社債、国債等に続き株式等についても電子化されることとなったことから、現在その実現に向けての検討が始まったところである。
5.日本国債清算機関(沖津社長)からの説明
2003年10月に、銀行、証券会社、仲介機関等19社からの出資を得て正式に会社を設立後、増資を経て、本年7月現在で資本金及び資本準備金30億円弱、出資社数は33社となっている。
これまで、各種の特別委員会や専門委員会を開催し、各種実務的なテーマについて議論を深めてきた。また、照合機能の提供や参加者管理基準に関するモニタリングについて、証券保管振替機構や日本証券クリアリング機構には大変お世話になっている。
現在は、業務方法書の作成や来年入り後の総合運転試験の準備など、来年5月に予定している開業に向けた準備作業を行っているところである。参加者やその他の関係者には、益々のご理解とご協力を賜りたい。
6.事務局からの説明
まず、前回会合で、BIS支払・決済システム委員会および証券監督者国際機構専門委員会による市中協議書「清算機関のための勧告」が本年3月に公表され、6月までコメントを受け付けている旨ご紹介したが、寄せられたコメントを踏まえた最終報告書が、近く公表される予定であるのでご報告する。
次に、前回会合で東京銀行協会からご紹介のあった、本年3月に全国銀行協会が公表した報告書「大口決済システムの構築等資金決済システムの再編について」に関する日本銀行の検討状況をご紹介する。日本銀行では、銀行界の提言内容を政策委員会にも報告したうえで、検討を進めてきている。現段階では、こうした対応は理念としてはわが国の大口資金決済システム全体の安全性・効率性を高める選択肢たり得ると考えられる。一方、実務的な観点からは検討すべき点が多いと感じている。例えば、日銀ネットに新たな機能を導入するとした場合、これが十分に効果を発揮するためには、それに相応しい市場慣行の検討などが必要である。また、本件実施に向けては、銀行界以外の市場参加者も含めた関係者が一体となって取り組んでいけるかどうかが極めて重要である。このほか、日本銀行自身が検討せねばならない点もあるのは言うまでもない。日本銀行としては、こうした民間と日本銀行内の検討状況等の双方を睨みつつ、意見を纏め上げていきたいと考えている。
II.電力会社における防災対策
花村信氏(東京電力総務部防災グループマネージャー)による講演(配付資料は別添4)
東京電力では、地震・台風などの自然災害やそれらの災害により発生する建物・樹木の倒壊、火災などの影響、また、内部・外部要因等により電力設備が被災し、人身災害や周囲環境に多大な影響を及ぼすこと、設備異常や損壊等により広範囲・長時間に亘る停電となり、社会・経済システムに機能障害等をもたらすことなどを非常災害と位置づけ、1.設備の被災を防止、2.発生した場合は災害の規模を軽減、3.健全な状態への早期復旧を防災対策の基本方針としている。具体的には、1.耐災設計・補強や的確な保守等により被災しにくい設備とする、2.設備構成の多重化やバックアップ機能の整備等により被災時の影響軽減を図る、3.応急復旧用資機材の確保や応急活動の円滑化等により早期復旧を図ることとしている。
阪神・淡路大震災や新潟県中越地震等の実例を踏まえると、実際に大規模地震が発生した場合には、変電所の機器等が壊れ、一旦、広範囲に停電が発生することが想定されるが、送電線の多重連系や変電所の機器の複数配置などにより、被害機器を経由せずに電力を供給するバックアップ機能が働き、かなりの範囲の停電は比較的短時間に復旧できると考えている(阪神・淡路大震災のケースでは、地震発生直後に260万軒あった停電軒数は26時間後には40万軒まで減少)。一方、強い揺れがあった地域では、電柱の倒壊や電線の切断により広い範囲で停電が発生し、バックアップができない場合が多いほか、道路も使えないため、復旧に必要な資機材や要員が十分に投入できず、何日にもわたり停電が継続することが予想される(阪神・淡路大震災のケースでは、全て復旧したのは地震発生から7日目)。また、都市部に比べ山間部で日数がかかる傾向にある(新潟県中越地方では、道路が寸断されたり立入禁止になっている地域では、復旧作業に着手できず、阪神・淡路大震災に比べ長時間停電している地域がある)。
東京電力では、災害対策要員の速やかな参集を図るため、事業所近傍に初動要員を居住させているほか、自動呼出しシステムの利用や、大規模地震時に自動出動するための行動指針を策定している。また、停電や設備被害情報等の収集・発信のために様々な情報連絡手段を確保している。さらに、平常時の災害広報にも力を入れており、災害発生時の電気災害防止のため、「グラッときたら、スイッチを切って、プラグを抜く」、「避難するときは、ブレーカーを切る」などの注意喚起を行っている。このほか、様々な防災訓練も実施している。
なお、昨年8月に、北米北東部で広域停電が発生したが、これは、1.樹管理の不備(送電線が下にあった樹木に接触して遮断)、2.電力会社における事故対応能力の欠如(系統監視装置のトラブル等)、3.信頼度コーディネータの不備(状態推定システムに問題発生等)が重なって起きたもの。日本では、過去の経験から、系統波及が起きにくい構成にしており、北米北東部と同じようなメカニズムで広域停電が発生する可能性は低いと考えている。
III.金融分野における情報技術の国際標準化動向
日本銀行金融研究所より説明(配付資料は別添5)
国際標準化機構(ISO)は、各産業分野の国際標準を策定する国際機関であり、分野毎に専門委員会(TC)を設置している。TC68は、金融業務に利用される情報技術や情報セキュリティ技術に関する国際標準化を担当する専門委員会である。わが国では、日本工業標準調査会(JISC、事務局は経済産業省)がISO全体の窓口となっており、日本銀行がTC68の国内審議を委嘱されている。TC68の下には、情報セキュリティ(SC2)、証券業務(SC4)、決済(SC6)の3つの分科会が設置されていたが、本年6月に、コア銀行業務(SC7)の分科会を新設することが決定された。本日は、1.SC2およびSC6で検討されている「金融業務に利用される情報セキュリティ技術の国際標準化」に関する最近の動向と、2.TC68およびSC4で検討されている「XML金融取引メッセージ」に関する最近の動向、の2点についてお話したい。
わが国の決済システムにおいても、従来は「閉じたネットワーク」によるセキュリティが強調されてきたが、最近は高度な情報セキュリティ技術が利用されるようになってきた。しかし、問題は、情報セキュリティ技術を如何に上手に利用するかにある。欧州における情報セキュリティリスク顕在化の事例等を踏まえると、単に「暗号・ICカード・バイオメトリクスを利用している」というだけでは不十分であり、利用する情報セキュリティ技術が、最新の評価基準によりきちんと評価された、信頼できるものであることが必要である。例えば、CD/ATMにおける暗証番号(PIN)の漏洩防止対策に関する国際標準では、従来はDES暗号を利用することが規定されていたが、DESの安全性低下を受け、トリプルDES暗号を利用するよう改訂された。欧米の金融機関では、CD/ATMを改造し、新しい国際標準に対応している。また、米国標準技術局(NIST)では本年5月に、トリプルDES暗号のうち、56ビットの暗号鍵を2つ利用する方式(2-key triple DES)について、有効期限を2009年までとする文書を公表している。この結果、トリプルDES暗号のうち、3つの鍵を利用する方式(3-key triple DES)、あるいは、より優れたAES暗号への移行等の対応が必要となっている。
欧米の金融業界では、XML Webサービスを利用して、複数の業務をシームレスに連動させるシステムを効率的に構築することを企図して、金融業務向け通信メッセージ標準のXML化を進めようとしている。このプロジェクトは、従来、証券取引メッセージの標準化作業の一環として、証券業務を担当するSC4がISO 15022の改訂作業として進めてきたものである。しかし、メッセージ標準のXML化は、証券取引のみならず、金融取引一般に影響することから、TC68では、改訂されたISO 15022 2nd editionに新番号を付与してISO 20022とするとともに、ISO/TC68の直轄とし、銀行業務(ペイメント、財務情報、外為取引等)を含め、金融業務全般に適用可能な標準と位置付けた。ISO 20022においてXMLメッセージを一元的に管理するための事務は、登録機関(RA)であるSWIFTが担当し、XMLメッセージの開発・承認・調整はTC68参加各国が推薦した委員によって構成される登録管理グループ(RMG)が担当することとなった。わが国の金融業界としては、今後、1.XML標準への対応の必要性、XML Webサービスの利用の可能性等、2.SWIFTや海外の金融機関が先行してXML標準を利用することとなった場合の対応、3.標準策定段階で日本としての業務要件を織り込ませる必要はないか、等について検討していく必要があろう。
IV.決済統計(「決済動向」)にかかる今夏の見直しについて
事務局より説明(資料として決済動向(2004年 5月)を配付)
「決済動向」は、わが国の主要な決済システムにおける決済件数・金額などの基本的な計数を取り纏めた月次の統計であり、1991年9月に公表を開始。日本銀行が運営する決済システムに関する計数については日本銀行で作成しているが、それ以外の計数については、本フォーラムにも参加頂いている各決済システム運営主体が作成したものを、日本銀行で取り纏めて公表している。
決済システム環境の変化に適切に対応し、ユーザーの利便性向上を図っていく観点から、本年入り後、「決済動向」について若干の見直しを実施。具体的には、本年3月分の計数(5月公表分)をもって、国庫金取扱高および銀行券関連の掲載を中止する一方、本年5月分(7月公表分)から、民間証券決済システム関連計数の掲載を開始。掲載を中止した計数は、他の統計や資料等である程度代替できるものや、相対的にニーズが乏しいと思われるもので、ユーザーサイドで問題がないことを、パブリック・コメントを通じて確認。新規に掲載を開始した計数は、資料の9頁にある「日本証券クリアリング機構」の「取引所取引DVP決済」および「日銀当座預金決済」、10頁の「ほふりクリアリング」の「株式等の一般振替DVP決済」および「日銀当座預金決済」、11頁の「証券保管振替機構」の「短期社債決済」の各計数。これらの決済システム運営主体とは、事前に各計数の定義や公表フォーマットを確定するに当り協力を頂いたほか、毎月の計数提供面でも協力を頂いている。
「決済動向」については、今後も、改善を図っていきたいと考えているので、新規掲載の要望等があれば、是非お寄せ頂きたい。また、現在協力頂いている各決済システム運営主体には引き続き、協力をお願いするほか、今後、新規掲載を依頼することがあれば、是非、理解・協力を頂くようお願いしたい。
以上
別添1
第8回 決済システムフォーラム出席者(敬称略)
- 青木 嘉孝 全国信用協同組合連合会(SANCS運営)決済業務部長
- 荒井 三郎 東京銀行協会 CDセンター所長
- 新井 純一 中央三井信託銀行(信託協会<SOCS運営>会長行)事務管理部長
- 粟野 紀夫 債券決済ネットワーク 業務部長
- 石田 久也 三井住友銀行(全国銀行協会会長行)事務統括部決済事業グループ長
- 一柳 幹男 信金中央金庫(しんきんネットキャッシュサービス運営)決済業務部長
- 沖津 正恒 日本国債清算機関 代表取締役社長
- 清田 辰巳 東京証券取引所 決済管理部長
- 小谷 剛 日本マルチペイメントネットワーク運営機構 事務局長
- 齋藤 宗孝 証券保管振替機構 企画部長
- 佐方 裕 東京銀行協会 外国為替円決済制度管理室長
- 戝津 耕造 東京銀行協会 全銀センター所長
- 島野 隆 新生銀行(LONGS運営会長行)システム企画部次長
(座長)
- 白川 方明 日本銀行理事
- 鈴木 伸治 ほふりクリアリング業務管理部長
- 染谷 止水 農林中央金庫(全国農協貯金ネットサービス運営)市場業務管理部副部長
- 高田 勝隆 労働金庫連合会(ROCS運営)事務企画部長
- 冨田 信篤 第二地方銀行協会(SCS運営)業務部次長
- 頓田 毅夫 みずほ銀行(全国銀行協会市場国際委員会委員長行)証券部企画チーム参事役
- 長谷川 芳完 全国地方銀行協会(ACS運営)業務部長
- 花村 信 東京電力 総務部防災グループマネージャー
- 平井 賢一 東京銀行協会 事務システム部次長
- 藤澤 廣一 日本証券クリアリング機構 事務統括長
- 宮崎 誠 東京三菱銀行(全国銀行協会事務委員会委員長行)決済事業部長
- 諸節 潔 CLS 東京事務所代表
- 矢部 伸 東京銀行協会 東京手形交換所長
- 福知 真 東京金融先物取引所 業務部次長
- 米倉 早織 日本デビットカード推進協議会事務局長
(事務局)
日本銀行金融市場局