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日本銀行が直面する金融市場や経済の情勢は、時々刻々と変化しています。このように変化し続ける情勢の中で、金融政策や金融システムの安定化を図るための政策(プルーデンス政策)などを適切に遂行していくためには、的確な調査・分析は欠かすことができません。
このため、日本銀行では、日々、国内外の短期金融市場、債券市場、株式市場、外国為替市場、クレジット市場などの幅広い金融市場を対象として、丁寧にモニタリングを行っています。金融市場の動きを洞察していくうえでは、高粒度の取引データを含めた金融市場のデータや各種統計を活用するほか、国内外の銀行、証券会社、機関投資家といった金融市場の主要な参加者からも丹念に情報収集を行っています。また、海外中央銀行などとも緊密な連携を取り、各国の経験や知見の共有を図っています。
このような多様な情報を基に、時には経済理論やファイナンス理論なども活用しながら、金融市場に現れる様々なサインの意味を読み取るよう努めています。こうしたモニタリングにあたっては、各市場の値動きだけではなく、それと直接、あるいは間接的に連関しているより幅広い事象を深く観察し、その背景にある市場参加者の行動動機やメカニズムの解明などを目指しています。
こうした調査・分析結果は、日本銀行内で適切な政策遂行を行う上で有益な材料を提供するだけでなく、「日銀レビュー」等のリサーチ・ペーパーや各種統計のかたちで、対外的にも積極的に情報発信を行っています。
こうした日本銀行からの情報発信が土台となって、市場参加者との間で建設的な意見交換が交わされることも多くあります。そして、こうした意見交換などを通じて得られる金融市場の知見を活かしながら、より効率的で、安定的な金融市場を目指し、制度設計や市場基盤整備に関する検討を進めています。
金融政策が経済活動や物価に影響を与えるまでには、ある程度の時間を要します。このため、適切な金融政策を行うためには、景気や物価の現状に関する判断はもちろん、先行きについて的確な見通しを持つことが不可欠です。
日本銀行では、わが国のGDP、輸出入、設備投資、個人消費、企業の生産、雇用、物価、海外経済の動向など、様々なマクロ経済データを詳細に分析し、景気情勢判断を行っています。情勢判断にあたっては、統計データに立脚し、経済理論、計量分析手法、過去の経験則などを駆使しながら、仮説の定立・検証作業を重ねていきます。その過程では、伝統的なマクロデータでは捉え切れない経済の動きをいち早く把握するため、個々の企業へのヒアリングにも積極的に取り組んでいるほか、高頻度・高粒度データやテキストデータといったオルタナティブデータ(ビッグデータ)を用いた分析も強化しています。このほか、最新の経済理論や計量分析手法を駆使して、より中・長期的な視点からの理論・実証分析にも力を注いでいます。
こうした調査・分析作業を進めるうえでは、本店が中心となり、全国各地にある支店・事務所や海外駐在員事務所と連携しています。また、海外中央銀行や国際機関、学者、エコノミストなど、幅広い層との意見・情報交換にも努めています。
調査・分析の結果得られた情報は、年8回開催される金融政策決定会合での議論の材料として活用されています。また、「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)や地域経済報告「さくらレポート」、ワーキングペーパーなどのかたちで、広く一般にも公表されています。
日本銀行では、「マネーストック」や「資金循環」といった金融に関する統計、企業のマインドや行動を示す「短観」、物価の動向をつかむうえで注目される「企業物価指数」や「企業向けサービス価格指数」、わが国のあらゆる対外経済取引を取りまとめた「国際収支統計」(政府の委任により日本銀行が作成)など、数多くの統計を作成しています。
これらの統計は、日本銀行自身の政策や業務の企画・運営に活用されるほか、金融市場参加者などの注目度や利用度も高いものとなります。このため、作成後は速やかにホームページなどを通して公表しています。また、日本銀行では、金融経済構造の変化に対応した統計の整備・見直しに取り組んでいます。その際には、統計ユーザーの利便性向上や報告者負担の軽減にも十分に配慮しています。
国内のみならず海外でも"TANKAN"として知られる企業向け統計調査。対象は約1万社の国内企業です。高い回答率に基づいた企業動向の正確な把握、速報性の高さ、企業の業況のほか、売上・収益や設備投資額など、多様な調査項目が特徴として挙げられます。
企業間で取引される商品の価格を集計した物価指数。1897年(明治30年)に日本銀行が「東京卸売物価指数」の名称で公表を開始して以来、100年以上の歴史を有します。
中央銀行における研究活動は、中長期的な観点から金融・経済の問題を解明するうえで支柱的な役割を果たし、政策・業務運営に貢献することが期待されています。
経済学の分野についてみると、非伝統的金融政策の効果や金融システムの安定に向けたマクロ・プルーデンス政策のあり方、経済・物価・金融の変動メカニズムなど研究課題は枚挙に暇がありません。
また、中央銀行の政策・業務運営上、情報技術の発展やグローバル化に伴う金融・経済・社会の変化を把握し、それに適切に対応していくことも重要です。そのためには、金融関連の法律・会計、電子的な金融取引・決済に関わる情報技術、人工知能やビッグデータを用いたファイナンス分析など、学際的分野に関する理解が必要となります。
さらに、「人文科学・社会科学は実験の難しい学問である」と言われますが、現状を的確に分析・理解しようとするうえで、歴史から学ぶことは多くあります。このため日本銀行は、金融・経済に関する歴史研究や、貨幣関係資料を含む歴史的資料の収集・保存・公開にも力を注いでいます。
日本銀行では、研究活動を進める中で、国内外の学界や海外の中央銀行、国際機関、実務家と積極的に交流しています。論文の公表や学会での発表などを通じて研究成果を問うとともに、国際コンファランスを始めとする様々な場での議論や共同研究などを通じて外部の成果の吸収にも努めています。こうした交流は他国の中央銀行でも盛んであり、中央銀行の政策・業務とアカデミックな研究との親和性の高さを表していると言えます。
中央銀行における研究には、好奇心や先見性、問題発見能力、分析能力を活かすという普遍的性質だけでなく、現実の政策・業務とアカデミックな議論との架け橋を担うという特有のダイナミズムがあります。中央銀行を巡る環境が刻々と変化していくもとで、そうした研究活動は重要であり続けています。
<金研・博物館1P23.eps><金研・博物館2P23.eps>貨幣博物館では、日本銀行が所有する歴史的な貨幣などを展示し、国民にお金の歴史や役割、社会・文化との関わりなどについて理解してもらうことに努めています金融政策の伝統的な手段は短期金利の操作ですが、短期金利が非常に低い水準となった場合などにはそれ以外の手段も用いられます。例としては、先行きの政策運営をアナウンスし、期待に働きかけるフォワードガイダンスや、長期金利の操作、様々な金融資産の買入れなどが挙げられます。