【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策香川県金融経済懇談会における挨拶要旨
日本銀行政策委員会審議委員 安達 誠司
2024年10月16日
1.はじめに
日本銀行の安達でございます。この度は、香川県の行政、財界、金融界を代表される皆様とお話をさせて頂く貴重な機会を賜り、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃から私どもの高松支店の様々な業務運営にご協力頂いておりますことを、この場をお借りして改めて厚く御礼申し上げます。
本日は、わが国の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営につきまして、私の考えを交えつつお話しします。その後、皆様から、香川県経済の動向や日本銀行の業務・金融政策に対する率直なご意見をお聞かせ頂ければと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
2.経済・物価情勢
(1)経済情勢
まずは、国内経済情勢の現状についてお話しします。私としましては、総じてみれば、日本経済は好調とまではいえないものの、底堅く推移していると考えています。この点について仔細に見るために、以下では家計部門と企業部門に分けて考えていきたいと思います。
家計部門についてですが、個人消費は今一つさえない状況が続いているとの声が聞かれています(図表1)。もっとも、その多くの部分は、様々なアクシデントにより、自動車生産が滞っていたことによる耐久財消費の不振によって、ある程度は説明が可能だと考えています。これを一時的な要因として控除すれば、私としては、個人消費は概ね想定されるトレンドに沿って推移していると判断しています。確かに物価上昇によって、財の中でも食料品や日用品等を中心とする非耐久財では節約志向が強まり、非耐久財消費は減速傾向にあるようです。例えば、スーパーマーケット等では、低価格のPB商品へ需要がシフトしているとの話も聞かれます。しかし、その一方で、サービス消費は堅調に推移しており、外食産業の業績が好調との声も聞かれます。
大変興味深いのは、実質賃金の減少が続き、所得環境が厳しい中において、家計は「選択的支出」を削減するのではなく、「基礎的支出」の部分について様々なやりくりを行って削減している点です。これは、各家計はそれぞれの事情に応じて抑えるところは支出を抑え、使うところは支出をするといったより「メリハリ」をつけた消費スタンスに移行しつつあることを意味しています。また、企業側も家計の消費スタンスの変化に対応するために、自社の製品やサービスの販売戦略を多様化させることで、販売価格帯に広がりが出ているように感じます。つまり、日本経済は物価高によって低迷している点もあるとは思いますが、一方で、こうした状況下において、家計や企業が日常活動の中で創意工夫を生かす余地が生まれつつあるという点では、むしろ、経済の正常化の方向へ向かっていると捉えることも可能ではないかと思われます。
続いて、企業部門についてですが、生産や輸出、そして設備投資ともに底堅く推移してはいますが、今一つ力強さに欠けている印象があります。まず、設備投資ですが、日銀短観の設備投資計画をみる限りでは、企業の設備投資に対する意欲は非常に強いのですが、実際の設備投資の実績からは設備投資の状況は一進一退の展開が続いているように感じています(図表2、3)。具体的な設備投資の案件をみますと、円安や経済安全保障の意識の高まりに伴う製造業における生産拠点の国内回帰の動きのほか、都市の再開発や気候変動関連の投資等、枚挙にいとまがない程です。また、実質金利が歴史的な低水準で推移し、好調な企業業績と堅調な株価という設備投資環境であることも踏まえると、企業の設備投資はもっと増加してもよいのでないかと思われます。
それでは、企業に設備投資を躊躇させている理由について考えてみますと、以下の2つが考えられます。1つ目の理由ですが、設備を設置するため、または工場や店舗等を建設するための技術者や労働者が不足しているという人材面のボトルネックが挙げられます。そして、これは、実は企業の生産面にも影響が出ている可能性があります。つまり、企業は本格的な人手不足から事業の再編や集約を断行せざるを得なくなり、不採算部門は人件費の安い新興国などへ生産拠点をシフトしたり、外国企業を含む他社への売却を進める等のリストラを行っているとの話も聞かれます。この結果として、生産指数はコロナ禍前の水準を下回る状態が続いていると考えられます。
2つ目の理由ですが、将来についての不確実性の高さです。例えば、日銀短観の「企業の物価見通し」における物価全般の見通しでは、約4割強の企業が「先行きについて不確実性が大きいためイメージを持っていない」と回答しています(図表4)。この回答結果は過去と比較してかなり高い割合です。企業にとって、販売価格の設定を行うことは重要な経営戦略の一つです。物価全般の見通しがわからず、将来の販売価格の見通しが立たない状況下では、将来の収益見通しも立ちにくく、当然のことながら、企業にとっては大きな固定費の負担となる設備投資に躊躇しているのではないかと推察いたします。
次に輸出についてですが、力強さに欠く中国経済や欧州経済の影響を受けて、円安が進行している割には、一進一退の状況で推移しているようにみえます(図表5)。日本の輸出は、円安という価格面よりも、世界経済の動向に伴う海外需要という数量面の要因に強い影響を受けています。そこで、輸出動向を考える際には、世界経済の動向をみることがより重要になりますが、世界経済についても当面は不確実性が無視できない状況だと考えます。本年11月には米国大統領選挙が行われますが、次期大統領が誰になるかといった点だけでなく、併せて実施される議会選挙結果を受けた上下両院の勢力図次第では、米国の経済政策が大きく変わる可能性があります。さらには、地政学的なリスク要因にも大きな変化があるかもしれません。このような国際情勢の変化は、日本の企業部門の行動を大きく変えるリスクを孕んでおり、これらの動向には、より目が離せない状況になっていると思います。
(2)物価情勢
わが国の物価を巡る状況
続いて、わが国の物価情勢についてお話しします。現状の物価情勢をみますと、「賃金と物価の好循環」がようやく機能を発揮しつつあると考えており、ここまでの道のりはオントラックである、すなわち、日本銀行が従来から想定してきた「基調的な物価上昇率の2%の実現」に向けた経路を着実に歩んでいると思われます。ただし、今後については、まだ見通しを変更するほどではありませんが、やや注意を要する点が出てきたと考えています。
まず始めに、私の物価に関する見方について述べさせていただきたいと思います。私は、従来から消費者物価をみる際には、サービス価格を中心とする、価格の改定頻度が比較的低い項目で構成した「粘着的な消費者物価」と、財価格を中心とする、価格の改定頻度が比較的高い項目で構成した「伸縮的な消費者物価」の二つに分けて、物価動向を考えています1。このうち、前者である粘着的な消費者物価は、主に賃金動向に強い影響を受ける一方で、後者の伸縮的な消費者物価は、主に円建ての輸入物価の動向に強い影響を受けます。
この分類に基づいて、これまでの消費者物価の動きを簡単に整理してみますと、国際商品市況の上昇が一服したことを主因に、伸縮的な消費者物価の伸び率が大きく減速する一方で、粘着的な消費者物価は、人件費の上昇を反映した形で上昇はしていたものの、その上昇ペースは緩やかなものにとどまっていました。その結果、消費者物価指数でみたインフレ率は低下傾向で推移してきました2(図表6)。そして、直近ではようやく、本年の春季労使交渉の結果をある程度反映した形で粘着的な消費者物価の上昇が始まりつつある状況です。さらに言えば、円安の影響を受ける形によって、伸縮的な消費者物価も底打ちの兆しをみせつつあります。
以上より、足もとの状況から、先行き、粘着的・伸縮的な消費者物価の両方が上昇する形により、物価が上振れする可能性が高まっていることなども踏まえ、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現という観点から、日本銀行では金融緩和の度合いを調整することが適切であると判断し、本年7月に政策金利を引き上げることにしました。
- より正確には、「粘着的な消費者物価」と「伸縮的な消費者物価」は、価格変動の大きさに「閾値」を設定して機械的に分類しており、必ずしも「粘着的な消費者物価=サービス価格」、「伸縮的な消費者物価=財価格」と明確に分類ができない点には注意が必要です。
- ここでの消費者物価指数は、主に「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコア)」で考えています。
今後のわが国の物価をみる上での注意点
ただし、私は今後の物価動向についても、以下の理由から引き続き、やや注意を要する状況になると考えています。
まず、1つ目の理由ですが、今後、円安の状況が是正される動きが、より強まる可能性が挙げられます。特に、米国の金融政策が本格的な利下げサイクルに入ると、ドル/円レートでの円安是正の動きが強まる可能性があります。これは、タイムラグを伴って、輸入物価の低下要因となり得ますので、結果として、財価格を中心とする伸縮的な消費者物価の低下圧力となる可能性があります。
2つ目の理由ですが、私としては来年も十分な賃上げが持続するかについて、やや慎重な見方をしており、賃上げの動向を十分に見極める必要があると考えている点です。本年の春季労使交渉の日本労働組合総連合会における賃上げ率(定昇相当込み)の最終結果は、5.10%と予想を大幅に上回るものでした。また、よりカバレッジが広い統計である法人企業統計季報(令和6年4から6月期)でみても、人件費が全規模全産業(金融業、保険業を除く)で前年同期比+4.8%であるほか、主に中小企業だと想定される資本金10百万円から1億円未満の企業規模でも同+6.7%と伸び率を高めました。
このように、確かに本年は大幅な賃上げが実現したわけですが、法人企業統計季報(同)の全規模全産業(金融業、保険業を除く)の経常利益をみますと、前年同期比+13.2%となっており、企業は賃上げ率を大幅に上回る収益をあげています。すなわち、賃上げはあくまでも業績拡大の範囲内で実施されており、その結果、労働分配率はなお低下しています(図表7左図)。
労働分配率と賃上げ率の推移を比較すると、両者は概ね逆相関の関係にありますが、2013年以降のデフレーション解消局面においても、賃上げのペースは労働分配率の低下ペースに大きく劣後しています(図表7左図・右図)。さらに、企業の売上高人件費比率は製造業、非製造業、そして企業規模での違いがほとんどない形で下げ止まりつつあるものの(図表8)、過去のトレンドを大きく変えるものではありませんでした。このことは、本年の春季労使交渉における大幅な賃上げは、マクロでみる限りでは、決して「大盤振る舞い」をしたわけではなく、良好な企業業績を反映したことによるものという側面が強いことから、必ずしも企業が賃上げスタンスをデフレーション期から明確に変えたわけではないことを示唆しています。
ただ、誤解しないでいただきたいのは、これは企業の賃上げが不十分であるということを、決して意味しているわけではない点です。企業が業績の伸び率を上回るような無理な賃上げを行い、その結果として労働分配率が上昇した場合には、過去の労働分配率と株価の関係を考えると、株価下落を誘発しかねません。株価動向は、企業の設備投資スタンス等に影響を与えるため、結果的に景気を悪化させることになりかねません。つまり、結局のところ、来年以降の賃上げは企業の業績、ひいては経済状況に依存しているということです。私が先ほど述べましたように、世界情勢を中心とした不確実性が高いことを考慮すると、来年の賃上げ動向にもまだ相応の不確実性があり、その動向を慎重に見極める必要があると思われます。
もっとも、悲観する必要は全くありません。法人企業統計から算出される企業の損益分岐点売上高比率をみると、大幅に低下しています(図表9)。このことは、企業の「稼ぐ力」が大きく向上しており、従来よりも利益を上げやすい構造への体質改善が進んでいるということを示しています。すなわち、このことは、企業は「稼ぐ力」が向上した分だけ、より賃金を上げやすい体質になっているということでもあります。
以上のように考えると、来年の賃上げの程度を決めるのは、結局は今年度の企業業績であり、これは外需や設備投資の拡大余地が今後広がっていくかという点にかかっていると思われます。
3.金融政策運営
金融政策の正常化プロセス
これまで経済・物価情勢についてお話をしてきましたが、ここからは日本銀行における足もとの金融政策運営についてご説明をした上で、マイナス金利やイールドカーブ・コントロールを解除して以降の金融政策スタンスについて私なりの考えをお話しします。
足もとの金融政策運営ですが、日本銀行では、本年3月の金融政策決定会合において、マイナス金利政策およびイールドカーブ・コントロールの運用を撤廃し、短期金利の操作を主たる政策手段として金融政策を運営することとしました。また、本年7月の金融政策決定会合では、主たる政策手段である短期金利を0.15%引き上げて「無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.25%程度で推移するように促す」こととしたほか、長期国債買入れについて段階的に減額し、2026年1から3月に3兆円程度とする計画を決定しました(図表10、11)。このように、日本銀行では2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を目指して、金融政策の正常化に向けた取り組みを進めています。
この足もとの金融政策運営につきましては、そもそも日本銀行の金融政策が段階的な利上げという正常化プロセスに入るタイミングが早すぎるのではないか、また、正常化プロセスに入ることによって、再度デフレーションに陥るリスクはないのかといったことに疑問を持たれている方もいらっしゃるように思います。そのため、まずはこの点について私の考えをお話ししたいと思います。
結論から先に申し上げると、金融政策が正常化プロセスに入る条件は既に満たしていると考えています。この条件ですが、過去の事例を基に考えてみますと、第一に消費者物価指数を構成する品目別の価格の前年比上昇率の分布がもはやデフレーション期特有の形状ではなくなっていること、第二に消費者物価の「水準」がデフレーション期以前のピークを超えていること、が重要であると考えており、既にこれらの条件は満たしています(図表12)。そして、正常化に向けたプロセスを進めていくうえでは、もう1つ重要な条件があり、これは「再度のデフレーション入りのリスクを意識させるようなドラスティックな政策変更は避ける」ということです3。実は、この条件こそが、これからお話をさせていただく、金融政策の正常化の際には段階的な利上げというプロセスを経ることが適当であると、私が考える理由です。
そこで、段階的に利上げを進めていく場合に注意すべき点ですが、基調的な物価上昇率が目標値である2%を持続的・安定的に実現するまでは、基本的には緩和的な金融環境を維持しつつ、極めて緩慢なペースで政策金利を引き上げていくという点です。基調的な物価上昇率が2%を持続的・安定的に実現する前段階で政策金利の引き上げが必要な理由は、インフレ目標を達成してからの急ピッチでの政策金利の引き上げは、実体経済に大きなショックを与えかねない点にあります。このような急ピッチな利上げによる実体経済へのショックの程度は事前に推し量ることが困難ですが、例えば、基調的な物価上昇率が目標値である2%近傍を安定的に実現するまではゼロ金利を維持し、目標実現後に非連続に、急激に政策金利を引き上げた場合、景気を悪化させ、再度、デフレーションを意識させるようなデフレレジームへの転換となってしまうリスクも無視できないと考えます。これを避けるためには、むしろ、実体経済にショックを与えない範囲でという限定条件に注意しつつ、その中で段階的に政策金利を引き上げていった方が、よりスムーズな金融政策の正常化が可能になると思われます。これは、一種の金融政策のリスクマネジメントと言えます。
そして、この際に最も重要なのが、政策金利は段階的に引き上げていくけれども、緩和的な金融環境を維持するという点です。ここでいう緩和的な金融環境とは、実質政策金利が自然利子率を下回っている状態のことを指します。
ここで問題となるのが自然利子率の水準です。自然利子率の議論は、最近の金融政策を考える上での重要なロジックとなっていますが、残念なことに、現時点では、信頼性の高い数値を実証的に特定することが困難です。日本銀行でも様々な手法を用いて自然利子率の推計値を算出していますが、その数値(2023年1Q時点)は推計手法によってマイナス1%程度から+0.5%程度のばらつきがあり、試算の域を出ません4。ただ、私自身は、現時点では、インフレ抑制のための急ピッチな利上げを実施する必要はなく、むしろ、拙速な利上げは回避すべきだと考えていますので、最も慎重な推計値で考えてよいのではないかと考えています。そして、この場合でも、現時点での実質政策金利は自然利子率を十分に下回っており、緩和的な環境は維持できているものと考えています。
そして、基調的な物価上昇率が持続的・安定的に2%を実現し、インフレ目標を達成した後、仮に、基調的なインフレ率が2%を超えて上昇する可能性が高まった場合には、インフレを制御すべく、物価上昇率の上昇ペースを上回るペースで政策金利を引き上げていくということになります。また、物価上昇率が2%程度で持続的・安定的に推移していれば、その時の政策金利が中立金利とほぼ同水準であると推測できますので、その水準を維持することを意識した金融政策運営を行うことになります。
このように、基調的な物価上昇率が持続的・安定的に2%を実現し、インフレ目標を達成した状態の下での政策金利水準が「中立金利」に近い水準であるといえますが、現時点では将来にわたる不確実性の存在ゆえ、具体的な水準および時期は見通せないというのが正直なところです。どのような要因が中立金利および自然利子率の水準を決めるかについては、アカデミアや各国中央銀行のリサーチャーによって様々な論文が発表されています5。それらの論文には様々なファクターの存在が指摘されていますが、やはり大前提としては潜在成長率の行方、その意味では人口動態や技術進歩率の動向が重要な鍵を握っていそうです。また、貯蓄投資バランスや長期金利の水準等も決定要因であるといわれています。自然利子率の推計手法の精緻化を進める努力を続けることも重要ですが、自然利子率の個々の決定要因についての定性的な評価も含め、今後さらに継続的に議論を進めていくことが重要であると考えます。
- 3Gauti B. Eggertsson and Benjamin Pugsley, "The Mistake of 1937: A General Equilibrium Analysis," Monetary and Economic Studies, vol. 24, no. S-1 (December 2006): 151-190, https://www.imes.boj.or.jp/research/papers/english/me24-s1-8.pdfでは、米国が大恐慌からの出口に失敗した理由として、政策変更によって政府(FRB)の将来のインフレ目標政策についての信認(belief)が大きく変わったことを指摘しています。
- 4杉岡・中野・山本(2024)「自然利子率の計測をめぐる近年の動向」(日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No.24-J-9)を参照のこと。
- 5例えば、IMF "The Natural Rate of Interest: Drivers and Implications for Policy," World Economic Outlook, ch. 2 (April 2023)を参照のこと。
4.おわりに ――香川県経済について――
最後に、香川県経済について、お話ししたいと思います。
香川県は全国で最も面積が小さい都道府県でありながら、その土壌には多様な資源を持ち合わせています。穏やかな瀬戸内の気候に恵まれ、風光明媚な景観は、万葉集にも歌われています。その豊かな自然に惹かれて多くの芸術家が集い、著名な彫刻家がアトリエを構えたことでも知られています。また、讃岐うどんやオリーブといった食文化、手袋や団扇といった地場産業の発展はもとより、大規模な地震の発生が少ないなど、災害にも強く、近年ではデータセンターをはじめとした重要拠点の立地もみられています。
さらに、瀬戸大橋で道路、鉄道とも本州と繋がる香川県は、四国の玄関口として、官公庁の出先機関や大企業の支店機能が集中するなかで経済発展を遂げてきました。こうした好条件のもとで官民の連携が進み、その魅力が一段と高まっています。
現在、高松中心市街地の整備や再開発が行われ、新しい駅ビルの開業、県立アリーナの建設に加え、外資系高級ホテルを含めた宿泊施設の整備などが段階的に進められています。これに伴い、交流人口の拡大や大型コンベンションの開催による地域経済の活性化が見込まれます。
そして、来年は瀬戸内国際芸術祭が開催されます。2010年に始まり6回目を迎える祭典ですが、関係者の尽力もあって、国内外から注目を集めるアートイベントとなっています。また、アジア圏からの国際線の就航・増便により当地へのアクセスの充実が図られる中、来春には直島に新たな美術館の開業も予定されており、多くの観光客で賑わうことが期待されます。
もちろん、全国に先駆けて人口減少が進み、人手不足が深刻化するなど、当地経済が置かれた状況は必ずしも楽観視できるものではありませんが、多様な資源のもとで産業が育まれ、様々な分野で日本一・世界一のシェアを誇る、いわゆるニッチトップ企業が多く存在するなど、香川県経済は直面する課題を乗り越えていく力を持っていると考えています。足もとの県内景気についても、コロナ禍を乗り越え、緩やかに持ち直しています。雇用・所得環境の改善が続くもとで、個人消費は物価上昇の影響を受けつつも、底堅く推移しています。また、成長投資や環境対応に積極的な企業が多く、設備投資は増加しています。賃金については、本年の春季労使交渉において高水準の賃上げが実現され、所得から支出への前向きの循環が維持されているとみています。
今後も、オープンマインドな県民性に根差した各方面での連携が一層進展し、皆さまの前向きな取り組みが実を結ぶもとで、香川県経済がますます発展していくことを期待しています。日本銀行としましても、高松支店を通じて金融経済の動向を把握・分析するとともに、中央銀行として地域経済のさらなる発展に少しでも貢献できるよう努めて参ります。ご清聴ありがとうございました。