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2025年8月 2日 (土)

全国学調の経年調査 「学力低下」判断は慎重に

今年から3段階で結果発表することになった全国学力・学習状況調査(全国学調)について7月31日、第2段が発表された。学習指導要領の改訂が検討されている折、経年変化分析調査のスコア低下を「学力低下の深刻な結果」と即断してはいけない。

今回、経年調査で公表されたのは2016・21・24年度の結果概要。グラフだけ見せられれば6年間ほぼ横ばいだった国語と算数・数学が小中学校とも落ち込み、とりわけ21年度と比べた中学校英語の落ち込みが激しい印象を受ける。

文部科学省の塩見みづ枝総合教育政策局長は1日に開催された「全国的な学力調査に関する専門家会議」の冒頭あいさつで、当日朝刊の報道を引用して▽家庭での勉強時間が減少していること▽テレビゲームやスマートフォンの使用時間が大きく増加していること――を要因に挙げながら「重く受け止め、真摯(しんし)に向き合って改善していく必要がある」との考えを示した。

もっとも発表資料自体が「全国の本調査のスコア分布の状況に関する変化の有無は中長期的に継続して分析する必要があり、次回(令和9年度予定)以降の結果もあわせて引き続き分析していくこととする」と注記していることを、見逃してはならない。ちなみに24年度の分析対象はペーパーテストによる調査(PBT)分だけであり、27年度はコンピューター使用型テスト(CBT)に全面移行を予定していることにも注意を要する。

21年度前後には新型コロナウイルス禍で休校措置とオンライン授業が続く一方、現行指導要領が小学校で20年度、中学校で21年度から全面実施に入っている。前回の改訂趣旨が徹底されているかも含めて、検討が不可欠だ。

ところで文科省資料でも専門家会議でも、「スコアの低下」という慎重な言い回しをしている。それが記事にも反映しているのだが、おそらく世間は「学力低下」としか受け止めないだろう。

そもそも経年調査の対象問題は非公開なので、どのような「資質・能力」が問われているのか分からない。コロナ禍も相まって解法テクニックの有無が影響した可能性もあれば、逆に対面授業で行われるはずの本質的理解に至らなかった可能性もある。いずれにしても専門家会議座長の耳塚寛明・お茶の水女子大学名誉教授が言う通り、現段階では「仮説の域を超えない」。国立教育政策研究所の詳細な分析が期待される。

経済協力開発機構(OECD)が2022年に実施した「生徒の学習到達度調査」(PISA)で日本が「3分野全てにおいて世界トップレベル」(文科省資料)であり、コロナ禍にも「レジリエントな(耐性のある)国・地域」に認定されたことを忘れてはならない。しかもOECDは長期トレンド分析で、日本には調査開始以来コンピテンシー(資質・能力)の「低下」はみられなかったと判断している。

次期改訂では、各教科で「中核的な概念」に基づく目標・内容の構造化が課題となる。個別的知識も入れ替え可能であり、本質的で転移可能な理解こそ重視されよう。そのためにも、中教審教育課程企画特別部会(企特部会)主査の貞広斎子・千葉大学副学長が専門家会議で述べた通り「過剰反応して、詰め込み式の学びに揺り戻すのは適切ではない」ことを肝に銘じたい。

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2025年8月 2日 (土) 社説 | 固定リンク
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