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2025年6月21日 (土)
指導要領改訂論議 あえて「余白」への違和感
16日に開催された中央教育審議会の教育課程企画特別部会(企特部会)第9回会合は、翌日の日刊紙でもちょっとしたニュースになった。教育課程の実施に伴う負担や負担感を軽減するために多様な面で「余白」を設けるという考え方に、異存はない。個別テーマはいずれも重要なので、それぞれ別に論じたい。ここでは、会合でも記事でも語られない点についての違和感をあえて表明しておく。
まずは、授業時数について。文部科学省事務局は「学校の働き方改革」以来、標準総授業時数(1015単位時間)を大幅に上回って授業を計画する学校を問題視して見直しを求めている。それ自体に、けちをつけるつもりはない。問題は、そうした状況がなぜ常態化したかだ。
議論の中で、象徴的な発言があった。戸ヶ崎勤・埼玉県戸田市教育長が語った、自作の用語で言うところの「平成15年ショック」だ。戸ヶ崎教育長は2003年12月の学習指導要領一部改訂を巡って「標準を下回って教育課程を編成することは通常考えられないというようなことが示されて以後、学校現場は時数の確保に向かって奔走してきた経緯があることを忘れてならない」と述べた。さらに「当時、中堅教員だった教員が今まさに学校の管理職や教育委員会の幹部になっており、そのことがしっかりと頭にまだ残っている」と指摘したのも重要だ。
「生きる力」と「ゆとり」を打ち出した1998〜99年告示の指導要領は、完全学校週五日制にも対応する格好で02年度は異例の小中学校同時、高校は03年度入学生から全面実施というスケジュールが敷かれた。それまで標準時数はあくまで「標準」であって、下回っても誰も気にしなかった。しかし00年に入って激しい「ゆとり教育批判」にさらされると文科省は突然、指導要領が「最低基準」だと言い出した。そこから学校現場がどうなったかは、戸ヶ崎教育長が振り返った通りだ。
週2コマ以上にもなる授業計画が大きく広がったのは、新型コロナウイルス禍の後だった。しかし大規模災害があっても授業時数を確保しなければならないという強迫観念にも似た感覚がはびこったのは、間違いなく学力向上対策が契機だ。当時、文科省はそうした状態を放置した。土曜日の活用まで打ち出したことも、忘れてはならない。それが今に至る多忙化につながっているのに、そのことに対する反省は決して語られない。
もう一つ、語られないことがある。「厚すぎる教科書」だ。スリム化を求めること自体は、指導要領の目標・内容を「概念」で構造化し個別的知識より資質・能力の確実な育成を目指すことからの必然でもあり歓迎したい。問題は、誰が「教科書を厚くしろ」と言ったかだ。
もちろん教科書が厚くなったのは、児童生徒の実態に配慮した学校現場の要請に応えて大判化・ビジュアル化していった側面が一番大きい。しかし下村博文・前衆院議員(落選中)は文部科学相に就任して「自学自習できる教科書」を掲げ、コスト削減のため多色刷りをやめるよう勧めたほどだった。結果的には教科書単価が引き上げられただけで、むしろ少子化に伴う採択冊数減に悩む教科書会社にとっては朗報となった。
下村氏をはじめとした保守派は、検定教科書の記述にこだわる。要するに、教科書で内容を教え込む発想から抜け切れていない。次期指導要領で目指す授業改善と教科書・教材等の方向性が、旧態依然とした教科書観しかない政治家たちと鋭く対立する部分が残されていることは指摘されない。
もちろん、そうした政治家の説得に永田町を回るのが文科官僚の役目である。当然その覚悟を持っての、事務局提案だろう。ただ戸ヶ崎教育長を除いて過去の経緯も忘れ、もろ手を挙げて賛成する声ばかりになっては後で足元をすくわれかねない。企特部会で現在行われている議論はそれだけ「過激」なのだということを、受け止める側も覚悟する必要があろう。そうした語られない事柄に違和感を抱えた上で本社は、中教審の方向性に賛同している。
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2025年6月21日 (土) 社説 | 固定リンク
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