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2025年6月 5日 (木)
教員免許取得の「憲法」必修問題 迷走の所在はどこか
阿部俊子・文部科学相が3日に行った閣議後会見で一見、奇妙なやり取りがあった。ある記者が、教員免許状授与の必修となっている日本国憲法など一般教育科目(4科目8単位)について4月の中央教育審議会教員養成部会で委員から見直しを求める発言があったことをただした。これに対して阿部文科相は「引き続き憲法を学ぶことは必要。具体的にどのように位置付けるかを含め学びをどのように再構築していくか、中教審の議論を踏まえて必要な検討を進めてまいりたい」と答えたのだ。
なぜ4月の発言を6月になって蒸し返すのか、文科省ホームページ(HP)の会見録だけ見た人にはさっぱり経緯が分からないだろう。まず5月30日の東京新聞「こちら特報部」が「あくまでも1人の委員の意見」として、識者のコメントを交えながら憲法必修廃止問題を報じた。同紙にも配信している通信社記者の質問は、直接的にはこの報道を受けたものだろう。3日の教育新聞電子版は会見記事の中で「一部報道を受けSNSで」「批判の声が上がっていた」と背景を補足している。
ただし日本教育新聞は2日付1面で、日付を明示せずに「教員養成部会は」「廃止を含めて見直すことを決めた」と報じていた。東京新聞にしても、単なる1委員の発言を針小棒大に取り上げたわけではあるまい。
4月8日の社説で文科省事務局が前日の養成部会で教員免許状の標準を1種から2種相当に引き下げるよう提案したことを批判した本社としても、補足をしておかねばならない。5月7日の会合では別の委員が2種相当化に改めて明確な反対の立場を表明すると、賛同する委員もあった。すると同23日の会合で事務局が提案から「2種相当」の文言を削り、「質を落とさないことを前提として」標準的な免許状を再構成するという極めて抽象的な文言に訂正した。
2種相当を巡る迷走ぶりに、中教審をはじめ文科省の諸会議体に携わってきた有識者は「(教員養成・採用・研修を担当する)教職員課の力が落ちているみたいだね」と漏らした。本社も教員免許更新制の導入論議以来、感じていたことだ。長らく教員養成論議をリードしてきた重鎮の学者や文科省OBが引退したことも、遠因にあるだろう。更新制が中教審等で突っ込んだ議論もなくあっさり廃止されたことも含め、やり切れない。
実は5月7日の段階で、免許法施行規則66条の6の規定について「廃止も含めて見直しを図るべきではないか」との一文が付け加わった。もちろん前回の「1委員」発言を受けたものだ。同23日段階でもこの部分に異論は出なかったから、日本教育新聞が養成部会を主語にして報じたことにも無理はない。
教育職員免許法とそれに基づく教職課程の規定は非常に複雑であるだけでなく、そもそも「大学での教員養成」と「開放制の原則」という戦後教員養成の理念をどう捉えるかも問題となる。昨年12月の諮問で免許制度を含めた検討を求めた際、そのことをどれほど意識していただろうか。
先の社説でも指摘した通り、コンテンツ主義の教員免許状取得を見直すこと自体に反対はしない。しかし、それには相当な覚悟が必要になる。採用・研修も含めるというなら、なおさらである。
確かに免許取得のため通り一遍の憲法学習で単位が取れれば終わり、という学修では意味がない。だが「改正」教育基本法も「日本国憲法の精神にのっとり」(前文)としている通り、憲法と教育法規の密接な関係は今も続いている。憲法で保障された権利主体としての市民性を育成することが今後ますます公教育に求められるとしたら、ますます憲法学修を「真正の学び」にしなければならない。学校の働き方改革がいつまでたっても解決しないのも、教組の退潮に伴って教職員の権利意識も後退してしまったことの現れではないか。
戦後以来の改革を担う骨太の議論を積み重ねてこそ、学習指導要領の改訂と両輪を成す養成・採用・研修改革にふさわしい。しかし開催案内が見つかりにくく飛び飛びでオンライン傍聴している限り、そんな雰囲気は感じられない。理論や実践の蓄積がある教育課程改革論議とのギャップは、開くばかりだ。
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2025年6月 5日 (木) 社説 | 固定リンク
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