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2017年9月27日 (水)
政権の「教育無償化」に注意を
28日、衆院が解散される。安倍首相は理由の柱の一つに「人づくり革命」を挙げ、消費増税分で幼児教育や高等教育の無償化を実現するという。とりわけ高等教育の無償化は首相が5月に憲法改正とからめて表明して以来、さまざまな議論を呼んできた。
ただ25日の記者会見での首相発言に、よくよく注意してほしい。「真に必要な子どもたちに限って高等教育の無償化を必ず実現する」「必要な生活費を全て賄えるよう、今月から始まった給付型奨学金の支給額を大幅に増やす」と言っている。
現行の給付型奨学金は、自宅外通学の場合でも国公立で月3万円、私立で月4万円を支給するものである。返還不要はありがたいだろうが、生活の足しにしかならない。これで「意欲さえあれば大学に進学できる」と胸を張ることはできないだろう。
首相が表明した「真に必要な子どもたち」が何を指すかも、よく分からない。ただ、その上限は給付型奨学金の2018年度新規対象者2万人を超えることはないだろう。少なくとも、大多数の学生には関係ない。これで「高等教育の無償化」を標榜するのは、誤解を招く。あるいは国民をミスリードする意図があると疑われても仕方がなかろう。実際、無償化に反対する人はあたかも大学進学者全員の授業料が無償化されると勘違いして論じている人が少なくない。
残る無償化は、幼児教育だ。これには保育も含む(いわゆる幼児期の教育)。幼児教育の段階的無償化は、既に政権の方針になっている。首相が表明した3〜5歳の完全無償化には年7300億円、0〜2歳の「所得の低い世帯」では600〜3800億円かかると試算されている。
確かに2%の増税分で、5兆円余りの税収が見込める。「無償化」表明は、むしろこちらがターゲットだとみてよい。しかし、「全ての子どもたち」(首相)の無償化が、本当に必要なのだろうか。
経済協力開発機構(OECD)のアンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長も、「図表で見る教育2017」の日本向け発表会見で、質の高い幼児教育への投資が最も効果が高いことを指摘した。ここでも注意したいのは、「質が高い」という部分である。そのためには「力のある教員を充てることだ」とも付け加えた。
OECDの統計によると、幼児教育の在学率は2015年時点で3歳児80%、4歳児94%に達する。残り20%や6%の子どもをどう手当てするかが、最重要課題であろう。シュライヒャー局長は私費負担の高さも指摘したものの、全額無償化が即、質の向上につながるなどとは一言も言っていない。
待機児童問題の解消は喫緊の課題だが、そうであれば集中的な投資がなおのこと求められよう。幼稚園教諭や保育士の待遇改善も確かに重要だが、これまで低賃金に抑えて経験の浅い若手を使い回してきた経営モデルこそが問われなければならない。
このように安倍政権の「無償化」方針には、すり替えが多すぎる。うがった見方をすれば、18歳にまで広がった有権者に高等教育無償化の幻想をばらまき、その実は有力支持母体である幼児教育関係者を利するだけではないか。
もとより本社は、幼児教育から高等教育までの完全無償化に反対するものではない。しかし、それは憲法を改正しないと実現できないものでは決してない。むしろ改正と同時に違憲状態となるような条文改正など、噴飯ものだ。だからこそ逃げずに政策と財源を国民に問わなければいけないのに、その姿勢は全く感じられない。「丁寧な説明」とは、丁寧な言葉遣いでも印象操作でもなかろう。
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2017年9月27日 (水) 社説 | 固定リンク
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