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アメリカ児童文学『百まいのドレス』の文具 〜筆箱事情調査シリーズ〜
このブログでは、野沢松男氏が、『文房具の歴史』(文研社)の中で、
筆箱は日本生まれのようだが...
・ 欧米の学童は筆入れというものを持っていない。
・ 欧米では筆記具とインクは机に付随するものであり、筆記具を携帯するのは巻紙と筆文化の日本の特性ゆえに、筆箱文化は日本で発達したもの。
という考察をされているのを、本当にそうなのかなと調査をしています。
今回とりあげるのは、『百まいのドレス』(著:エレナー・エスティス 訳:石井桃子)です。
戦後、『百まいのきもの』という題で翻訳されたアメリカの児童文学が、2006年、『百まいのドレス』という名前で再び刊行されました。
この作品がアメリカで発表されたのは、1944年のことです。
この話は、ワンダ・ペトロンスキーというポーランド移民の女の子が、貧しくていつも同じ服しか着ていないのに、「家に百枚のドレスを持ってる」と言ったことから、それはどんなドレスなのだとずっとからかわれ続けることになる話です。
あまり裕福でない女の子マデラインは、それをよくないと思いながらも、やめさせることができない。
どこにでもある差別や、いじめになってしまう状況や心の動きをとらえた作品です。
そして、ある日、突然、ワンダは転校してしまいます。
ワンダの残していったもの、教室の壁という壁を埋め尽くした百枚の絵は、いつもワンダが話していた通りの色形をしたドレスのデザイン画でした...
...まだ話は続くのですが、作品に興味を持ってくださった方にはぜひ読んでいただきたいと思います。
マデラインが悩んで考えて決めたこと、それは現代にも通用する普遍的な大切なことだと思います。
さて、この中に出てくる文具に注目してみましょう。
この話の中にも筆箱は出てきません。
しかし、子どもが学校で使っている文具は、ペンではなく鉛筆です。
マデラインは、小さな、赤い鉛筆けずりのなかに、鉛筆をいれ、ゆっくりまわしながら、けずっていました。けずりくずは、ちゃんと紙の上にうけて、しんの粉が、算数の白いところにとばないように、気をつけながら。
(同書P.24 より)
マデラインは、鉛筆のけずりくずを紙につつんで、教室の前の、先生の机のそばにある、くずかごにすてにいきました。
(同書P.37 より)
この子どもたちが何年生なのかは書いてありませんが、意地悪を言ったりそれに答えたりする言葉づかいや、デザイン画のコンクールがあったりすることを考えると、低学年ではないと思います。
学校の中で鉛筆を削っている場面があるのですから、学校で使っていた筆記具は鉛筆が多そう。
となると、インク壺のように、必ずしも机に付随している必要はなさそうです。
ただ、よく挿絵(当時の作家のもの)を見ると、机の端には丸いくぼみがあるので、学校でインクを使う場合もあり、その置き場所も確保されていたようです。
(家で手紙を書く場面では、ペンとインク瓶を使っている挿絵もあります)
また、1944年当時、鉛筆を削る道具はナイフでなく携帯用鉛筆削り器であるのも興味深いところです。
ナイフを使っていなかったというわけではないと思いますが、携帯用鉛筆削り器が普及していたようですね。
マデラインは、「ワンダの家ほどびんぼうではありませんでしたが、でも、やっぱり貧しかったのです。」(同書P.22)で、友人のおさがりの服をもらって母が縫い直した服を着ているのです。
なので、携帯用鉛筆削り器は、普及品だったと思われます。
鉛筆と携帯鉛筆削り器、出てきませんがこれに消しゴムが加われば、小さなものがなくならないようにまとめて収納する筆箱があったほうがよさそうだと思うのですがどうでしょう。
(考察) 1944年頃のアメリカの学校文具
・学校の筆記用具として鉛筆が使われていた。(他の筆記具がどうであったかはこの話では不明。ただし、ペンは使われた可能性大)
・個人で鉛筆を削るための携帯用鉛筆削り器が普及していた。
(ただし、地域差などもあると思われる)
余談ですが、ワンダの描いた絵は「目もさめるような色どり」(同書P.45)とありますので、色数の限られたクレヨンよりは、少ない色でも混ぜて多色の作れる絵の具かなあと勝手に想像しています。
そのほか「(絵をとめてある)びょう」(画鋲)、「赤と白のチョーク」も使われています。
※(注記) このシリーズは資料が見つかったときに書いています。
【筆箱事情調査シリーズ】
→ 明治の舶来木製筆箱の図版 〜『伊東屋営業品目録』より〜 その3
→ 『文房具の歴史』(野沢松男)の筆箱考察 〜続・明治の舶来木製筆箱の図版〜
2009年5月 6日 (水) 絵本・児童書, 文具〜切る・削る〜, シリーズ:筆箱事情調査 | 固定リンク
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