エンテロウイルスD68(EV-D68)感染症とは

(2015年10月22日掲載) EV-D68はエンテロウイルス属のウイルスの一つである。エンテロウイルス属には、ポリオウイルスや、無菌性髄膜炎の原因となるエコーウイルスや手足口病の原因となりうるエンテロウイルス(EV)71型などが含まれる。エンテロウイルス属はさらに分子系統解析によりEnterovirus A〜JおよびRhinovirus A〜C (species)に分類され、EV-D68はEnterovirus Dに属する...

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エンテロウイルスD68による重篤な喘息様の病態で集中治療管理を要した小児例―東京都

(速報掲載日 2024年10月30日)
はじめに

エンテロウイルスD68(EV-D68)は1962年に初めて分離され、2014年以降の流行ではEV-D68による重篤な呼吸器感染症の増加が注目され、また急性弛緩性麻痺(AFP)または急性弛緩性脊髄炎(AFM)の増加との関連も示唆されている1)。本邦においても喘息様患者や、複数例のAFP・AFMの患者から本ウイルスが検出された事例が報告されている2)。今回、同時期に重症喘息発作で集中治療管理を要した小児の2症例からEV-D68が検出されたため報告する。

症例1

喘息の既往のない6歳男児。入院当日の未明より喘鳴、チアノーゼが出現し、前医に入院した。気管支喘息大発作と肺炎の診断となりβ刺激薬の吸入、プレドニゾロン投与が行われたが呼吸状態が悪く、当院小児集中治療室(PICU)に搬送された。FilmArray®呼吸器パネル2.1検査ではhuman rhinovirus/enterovirus(HRV/EV)が陽性であった。入室時点で両側呼吸音減弱、呼気性喘鳴、陥没呼吸を認めており、高流量鼻カニュラ(high-flow nasal canula: HFNC)酸素療法を実施したが、高度の呼吸努力が持続したため挿管人工呼吸管理となった。喘息に対する治療としてメチルプレドニゾロン1mg/kg 1日4回、β刺激薬吸入を開始した。胸部単純X線は両側中下肺野に濃度上昇を認め、細菌性肺炎の合併も考慮しアンピシリン50mg/kg 1日4回での治療を開始した。症状、HRV/EVを認めていたことからEV-D68の可能性を考え自施設にてreal-time PCRを実施したところ、EV-D68が陽性であった。その後呼吸状態は徐々に改善し、入院翌日には抜管となり以後HFNC管理となった。メチルプレドニゾロンも漸減終了し、肺炎に対するアンピシリンは6日間で終了した。入院9日目に退院となった。本症例は、これまでのところAFP・AFMを示唆する所見を認めていない。

症例2

代謝性疾患に対して生体肝移植を受けた既往のある4歳男児。免疫抑制剤としてタクロリムスを内服中。入院の前日より咳嗽、鼻汁、呼吸苦、嘔吐、下痢が出現し、入院当日になっても症状が改善せず、両側呼吸音減弱と呼気性喘鳴、腹式呼吸を認め、気管支喘息大発作と考えられ、PICUに入室となった。既往歴として約9カ月前に気管支喘息発作様の病態で入院歴があり、以降モンテルカストを内服していた。FilmArray®ではHRV/EVが陽性であった。HFNC 30L/min、FiO2 0.4で呼吸サポートを開始し、メチルプレドニゾロン1mg/kg 1日4回、β刺激薬吸入を開始した。症状、HRV/EV陽性からEV-D68の可能性を考えreal-time PCRを実施したところ、EV-D68が陽性であった。その後呼吸状態は徐々に改善し、入院2日目には呼吸サポート終了、入院3日目にはメチルプレドニゾロンは終了した。入院8日目に退院となった。本症例は、これまでのところAFP・AFMを示唆する所見を認めていない。

考 察

同時期に集中治療管理を要したEV-D68の2症例を経験した。EV-D68感染症そのものが感染症法に基づく届出疾患には指定されておらず、その流行の把握が難しい。今回の2症例はともにFilmArray®でHRV/EVが陽性であった。本検査ではHRVとEVの弁別はできず、EV-D68かどうかも判別不可だが、重篤な呼吸器感染症やAFP・AFMの症例では本検査でHRV/EVが検出されている場合、EV-D68の可能性があることをこれらの症例が示していると考えられる。本稿執筆時点では、東京都において東京都感染症週報にて2024年7月以降、定点医療機関から搬入された検体の検査情報に散発的にEV-D68が検出された患者が報告されているものの3)、明らかな増加は確知されていない。今回の2症例では、現時点でAFPをきたしていないが、海外ではイタリア北部でEV-D68の症例が2024年8〜9月に急速に増加していることが報告されており4)、本邦においても今後、EV-D68に関連した重症急性呼吸器感染症やAFPの増加を認めないか注意深いモニタリングが必要であり、今後、開始される急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランス5)においても病原体検出がされうる体制構築が重要であると考えられる。

参考文献
  1. Jorgensen D, Grassly NC, Pons-Salort M, Global age-stratified seroprevalence of enterovirus D68: a systematic literature review, Lancet Microbe 2024: 100938
  2. 国立感染症研究所, エンテロウイルスD68(EV-D68)感染症とは
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/ev-d68.html
  3. 東京都感染症情報センター, 東京都感染症週報(TIDWR)27週-40週
    https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/weekly/
  4. Pariani E, Piralla A, Pellegrinelli L, et al., Enhanced laboratory surveillance of respiratory infection disclosed the rapid rise of enterovirus D68 cases, northern Italy, August to September 2024, Euro Surveill 2024: 29(41)
  5. 厚生労働省, 急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランスに係る具体的な方針について(報告), 第90回 厚生科学審議会(感染症部会)2024(令和6)年10月9日
    https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001314356.pdf
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エンテロウイルスD68(EV-D68)感染症【更新情報】











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