プロジェクトリーダー石原教授インタビューバナー
日本で「初めての沖合」洋上風力の持つ意味
――日本ではこれまで主に陸上に風力発電設備が作られてきましたが、 洋上風力発電所もいくつか存在しますね。
石原 今回建設している風車の一番の特徴は、銚子沖と北九州市沖では建設・運転・保守ともすべて沖合の洋上で行うということです。 他の洋上風力発電所でも外洋に面して建設されているものもありますが、建設や保守は陸上から行っています。 すべての作業を沖合の洋上で行っているという意味では今回初めての試みになります。
――多数の洋上風力発電所が建設・運転されている欧州のノウハウを活かすことはできないのでしょうか。
石原 銚子沖は日本でも有数の波のうねりが厳しい海域です。 また、北九州市沖は「台風銀座」と呼ばれるほど、台風の影響を受ける海域です。 このような欧州とは異なる自然条件のもとで、洋上風力発電所の建設、運転、保守のノウハウを蓄積する必要があります。 今回のプロジェクトで得られるデータやノウハウは、今後の洋上風力発電所の設計や運転に利用できます。 実際に、IEC(国際電気標準会議)などの国際標準へ提案しなければいけない項目も整理できつつあります。
今回のデータが将来の礎となる
――世界的に風車の大型化が進んでいますが、日本でも大型化を目指していくのでしょうか。
石原 今回の2.4MWの風車を、日本の技術で実際に建設できたということが重要です。 もちろん、今後は洋上風力のメリットをより活かせる大型化を進めていく必要があります。 今回の洋上風況観測タワーの100mという高さは7MW級風車のタワーの高さと同じです。 また、観測範囲である200mは7MW級風車のブレードの最高点と同じです。今回のプロジェクトで収集するデータは、大型風車の開発にも役立てることができます。
大規模ウィンドファームの実現に向けて
――今後、日本で洋上風力発電が普及していくためには、どのような課題があるのでしょうか。
石原 課題の一つは、海洋利用のためのインフラ整備です。洋上風車の基礎やナセルなどを積み出すためには、港湾設備の整備が必要です。 また、建設のための大型起重機船や作業船も必要です。これらのインフラは、浮体式洋上風力発電が実用化する際にも必要です。 こうしたインフラの整備は、民間だけでは難しく、国の支援が不可欠です。もう一つの課題は国内の開発体制の構築です。 風車が大型になると、部品の調達が難しくなります。国内で部品の開発・試験・製造ができるようにしないと、国際競争力は上がりません。
――今後、NEDOに期待されるのはどのようなことでしょうか。
石原 海外では、国が導入目標を定めて、法整備とインフラ整備を行い、国を挙げて風力発電を産業として育成しようとしています。 また、欧米だけでなく韓国などのアジア圏でも急速に開発を加速させてきています。 日本も欧米のように国が高い導入目標を定めると共に、インフラ整備を含めて技術開発で戦略的に支援をしていく必要があると思います。 NEDOには、グローバル競争を勝ち抜くための強いリーダーシップを期待しています。
- » プロフィール
石原 孟(いしはら たけし) 1962年北京生まれ。東京工業大学理工学研究科土木工学専攻博士課程修了後、清水建設(株)に入社、2000年に 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻の助教授に就任、2008年より現職。専門分野は、風力エネルギー利用のための賦存量評価、 風力発電量のリアルタイム予測、風力発電設備の耐風設計、浮体式洋上風力発電システムの開発など。
(NEDO広報誌「FocusNEDO」第47号より転載)