ソニーとシャープが半導体で起こした"家電革命"、米国の支援で「成功し過ぎた」日本
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電子機器にこそ世界経済の未来がある。小型で電力消費の少ないトランジスタは、まちがいなく家電製品に革命を巻き起こす、と盛田昭夫は悟った――。半導体を巡る国家間の攻防を描いた世界的ベストセラー、クリス・ミラー著『半導体戦争』では、電子立国と呼ばれた日本の隆盛と凋落も浮き彫りにしている。特集『半導体戦争 公式要約版』(全15回)の#7では、ソニー(現ソニーグループ)やシャープを急成長させた半導体の家電革命を描く。
「日本をトランジスタのセールスマンに」
米国に日本をつなぎとめる冷戦戦略
1962年11月、日本の池田勇人首相は、豪華絢爛なエリゼ宮殿でフランスのシャルル・ド・ゴール大統領と会談した際、小さな贈り物を持参した。ソニー製のトランジスタ・ラジオだ。
ド・ゴールは会談のあと、池田はまるで「トランジスタのセールスマン」みたいだった、と側近に愚痴をこぼした。しかし、全世界が日本に羨望の眼差しを向ける日はそう遠くなかった。その後、半導体のセールスに成功した日本は、ド・ゴールの想像をはるかに超えるほど裕福で強力な国になっていく。
第二次世界大戦が終結すると、一部のアメリカ人は、残酷な戦争を始めた罰として、日本からハイテク産業をむしり取ろうと考えた。しかしアメリカ政府の国防当局者たちは、「弱い日本よりも強い日本のほうがリスクは少ない」という政策を正式に採用する。
最大の難問は、日本をアメリカ中心の体制へとつなぎとめたまま、日本の経済復興を支援するという点にあった。日本をトランジスタのセールスマンにするというのは、アメリカの冷戦戦略の肝だった。
1953年、ニューヨークに向けて羽田空港を発ったのが盛田昭夫だった。彼は日本の由緒ある造り酒屋の15代目の跡継ぎだったが、幼少期からの機械いじりへの愛情と物理学の学士号が、別の道へといざなった。戦時中、彼はこの物理学の専門知識のおかげで、前線ではなく研究所に配属され、命拾いをしたともいえる。
盛田の物理学の学位は、戦後の日本においても役立った。1946年5月、彼は元同僚の井深大と一緒に電機メーカーを創業する。その会社はラテン語のsonus(音)と英語のsonny(坊や)にちなんで、ソニー(Sony)と名づけられた。
1948年、彼はベル研究所の新たなトランジスタについて読み知るなり、即座にその潜在性を感じ取った。「奇跡」に思えた、と彼はその革命的な消費者向け装置について振り返った。
1953年にアメリカへと降り立った盛田は、貧困にあえぐ戦後日本とは比較にならないほどの消費者の豊かさにショックを受ける。ニューヨークで彼と会ったAT&Tの幹部たちは、トランジスタ製造のライセンスを供与することに合意したが、これでつくれるのはせいぜい補聴器くらいのものだろう、と彼に告げた。
しかし、盛田は、ド・ゴールが理解していないことを理解していた。電子機器にこそ世界経済の未来がある。そして、近い将来、シリコン・チップに埋め込まれるトランジスタは、想像を超える新たな装置を実現するだろう。小型で電力消費の少ないトランジスタは、まちがいなく家電製品に革命を巻き起こす、と彼は悟った。
こうして、彼と井深は、そうした家電を日本の顧客だけでなく、世界一豊かな消費者市場であるアメリカにも販売することに、社運を託すと誓ったのである。
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