地方自治体の新規就農支援が"地獄への案内人"になっている悲劇とは
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新型コロナウイルスの影響で「働き方」「人生設計」など自身の人生を見直し、さまざまな気持ちの変化が訪れた方も多いはずだ。その中で、都心の若者を中心に地方移住への関心が高まっている。しかし、日本の法律上、地方でいきなり農業をするにはさまざまな壁が存在する。連載『農業 大予測』の#3では、持続可能な農業の将来像を示すとともに、問題解決の鍵となる「新規就農者向けのプログラム」や「都市部の農地活用」の可能性について私の考えを述べる。(マイファーム代表取締役 西辻一真)
コロナで副業としての「半農半X」に脚光!
「専業農家」至上主義が変化した理由
マイファームでは、アグリイノベーション大学校という社会人向けの農業学校をやっている。入学生に入学の動機を話してもらうと、近年は皆「コロナ禍によって」と言う。農業の世界に入ってくる人たちは、コロナによってビジネスの地形が変わったと思っている。
そして、それを悲観的に捉えることなくポジティブに捉えている人たちが集まっている印象だ。
農業以外の分野で人が集まってくると言われているのが、金融や健康マーケットだ。農業、金融、健康に共通するのは、国や自治体に頼らずに地に足をつけて、生きていくためにはどうしたらいいんだろうという思考が根底にあることだと思う。
その点でいうと農業には、これからどういう生き方をしたいのかという探求心を持った人たちが集まっている。
最近の一般的な傾向で、20代〜40代の人たちの半数以上が地方移住を求めている。「地方で暮らし、生きていくためにはどうしたらいいのか」を考えた結果、「就農」を希望するようになっている。いきなり地方移住が難しいのなら、例えば東京に住んでいる人なら千葉、静岡、山梨などの周辺部に引っ越すのでもいい。都市部の利便性も得ながらの農業を勧めたい。こういう考えをもった半農半X組(半分農業、半分別の仕事=Xを持つ生き方)というケースが非常に多くなるだろう(既存農家からすると「半農半X組は甘い」と思われることが多いのだが、それについては後述する)。
アグリイノベーション大学校は、いきなり「100%農家になりましょう」ではなく、農を暮らしや仕事に取り入れながら少しずつシフトしましょうという姿勢を大切にしている。
地方移住して農業に100%突っ込むと生計が立てられないと思う人は多いし、実際にそうなることは少なくない。資金・技術・経営力がない素人が飛び込むにはハードルが高いのだ。自分が食べる分プラス、お世話になっている人へのお裾分け程度の規模から始めるのが現実的だ。そういった人が農業に夢中になったら専業農家になればよい。今までは、専業農家になるのかならないのかの二択しかなかったが、選択肢が増えてそれを世の中が許容するようになっているのは大きな変化だと感じている。
実際に自治体の農政もこれまでは専業農家の育成に主眼を置いていたが、世の中の変化に合わせて半農半Xの農家も誘致し始めているところが多い。
農業を始めたい人に対して、ビジネスをする上で気を付けていることがある。最も注意していることは"地獄への案内人"にはならないということだ。
自治体が行っている農業塾や新規就農者向けのプログラムは、一歩間違えれば地獄への案内人になりかねないと思っている。その理由について、次ページで詳しく述べる。
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