最終更新日: 2025年06月03日
グローバル文化専攻・現代文化システム系 モダニティ論コース
国民国家という政治原理であれ市場という経済原理であれ、あるいは小説という文学形式であれ遠近法という絵画技法であれ、西欧近代に由来するこれらの社会的・文化的な装置は、現代世界の基本的な枠組みをかたちづくってきました。ところが現在、この西欧近代の原理(モダニティ)は、グローバル化の進展ととともに根底から揺らいでいます。こうしたなかで求められているのは、あらためて「モダニティ」の意味を問いなおし、激動する世界のゆくえを的確に読み解くことだといえるでしょう。本コースでは、近現代の社会思想・経済思想・政治思想・科学思想・倫理思想など多岐にわたる言説群を丁寧に分析することをつうじて、アクチュアルな課題に応えうる足腰の強い思考力を養成することをめざしています。
| 就職実績 | (前期課程) 外務省(専門職)、西宮市役所、神戸大学(職員)、日本山村硝子、高知新聞社(記者)、共同通信社(記者)、イオン、がんこフードサービス、オーケー株式会社、金蘭中学校・高等学校(教員)、JNC、兵庫県高校教員(英語)、宝塚市役所ほか (後期課程) 神戸大学大学院国際文化学研究科助教、中国河南省新郷学院専任講師、トルコ・チャナッカレオンセキズマルト大学日本語教育学科専任講師、三重大学人文学部専任講師、松山大学経済学部特任講師ほか |
|---|---|
| 在籍学生数 | (前期課程) 4名 |
| 論文テーマ | (前期課程) (後期課程) |
| 所属教員の紹介 | 上野 成利 教授 近代政治思想系譜論特殊講義ほか 田中 祐理子 教授 近代科学思想系譜論特殊講義ほか 箱田 徹 准教授 近代思想文化系譜論特殊講義ほか 新任教員(2025年10月着任予定) 近代社会思想系譜特殊講義ほか |
山本 楓真さん(博士課程前期課程2年)
法政大学文学部哲学科卒業
研究テーマ:「マックス・ホルクハイマーの社会哲学」
私の研究対象は、マックス・ホルクハイマーという20世紀のドイツで活躍した哲学者です。彼はいわゆる「フランクフルト学派」の創設者のひとりとして知られていますが、彼の哲学の全貌は意外にも明らかとなっていません。私の長期的な目標は、これを明らかにすることです。そのために現在は、1930年代のホルクハイマー哲学の解明を試みています。特にホルクハイマーによる「言語批判」を参照軸に、修士論文を執筆する予定です。
モダニティ論コースでは、政治哲学・社会理論・精神分析・ジェンダー理論・美学・科学史など、多彩なテーマのゼミが設けられ、そこで形成される知識や思考は、私の(無謀な?)修士論文執筆の手助けをしてくれています。ゼミは少人数で行われるため、気軽に教員や学生に質問し、討論することができます。ただし、ゼミの参加者の専門領域は、教員も含めて、自分の領域とは全く異なる場合があります。そのため、ゼミの中で自分は研究分野の第一人者として発言することになります。つまり、他分野の人間から質問されたときには、責任を持って解答しなければならないということです。これがモダニティ論コースの難しさと同時に楽しさでもあります(他のコースでも事情は同じでしょう)。
また、モダニティ論コースのゼミでは、英語・ドイツ語・フランス語等の原典テクストを地道に精読しています。そのため、目に見える成果がすぐに得られるとは限りません。ですが、テクストに書かれている単語一つひとつを粘り強く丁寧に解釈するという営為は、私たちに新たな知識と批判的思考を与えてくれます。テクストの中に確かに存在する思想を、あたかもひとつの「判じ絵」を読み解くように解釈すること、これがモダニティ論コースでテクストを読む意義であると、私は確信しています。
白石 江里香さん(博士課程前期課程2年)
東京外国語大学国際社会学部
研究テーマ:「橋川文三の青年論について」
私は、戦後の政治思想家・橋川文三を手がかりに、日本におけるファシズムや愛国主義と文化の関係について研究しています。現在、世界各地で極右勢力の台頭や社会の分断が進むなか、またメディアの著しい発達によってイメージの拡散が容易になった時代において、こうしたテーマを再考する意義はますます高まっていると考え、この研究に取り組んでいます。
私が所属するモダニティ論コースの魅力は、近代社会以降の歪みや課題を批判的に研究する場として、多様な思想・哲学・文化の先生方が集っている点にあります。特に、近代以降の思想・哲学に関心を持っていた私にとって、この環境は非常に魅力的でした。また、本研究科はカリキュラムの自由度が高く、モダニティ論に限定されることなく、自分の関心に応じて他コースの講義や演習を履修することができます。私自身も、先端社会論コースをはじめ、越境文化論コースや日本学コースなど、幅広い授業を受講し、視野を広げることができました。
学部時代と比較して、私自身が大学院生活を通じて最も大きく変化したのは、「わからないことは自分で考える」だけでなく、「わからないことは他の人に聞く(本を読む)」という姿勢を身につけたことです。このように考えられるようになったのは、院生研究室での異なる専攻の仲間たちとの交流や、多くの書籍との出会いのおかげです。当大学院はこのような場として皆さんに開かれていると思います。
下中 隆太郎さん(2021年度博士前期課程修了)
研究テーマ:「ハンナ・アーレントによるカントの政治哲学解釈」
現在、外務省職員(専門職)
修士課程では、ドイツ出身のユダヤ系政治思想家ハンナ・アーレントの思想、とりわけカント解釈を中心に研究しました。振り返ってみると、アーレントの研究を中心に据えつつも、様々な思想家や分野の文献読解を通じて西洋社会の根本にある思想を深く学んだ大学院時代だったと思います。モダニティ論コースでは、英独仏語原文も含めテクストを精読する能力が鍛えられました。またテクストを解釈する上で、社会や時代の背景、思想史といった文脈を考慮することの重要性も学びました。加えて、様々な専門分野でご活躍される先生の授業を受けることで、複数の視点からモダニティをめぐる思想について検討することができました。先生それぞれのご研究の蓄積にもとづくアドバイスや指導を頂き、幾つもの重要な着想を得て、それらを練り上げて最終的に修士論文という形にすることができました。
公務員として働き始めて約2年と仕事経験は浅いですが、仕事と研究という観点で改めて振り返ると、現在の自分自身の在り方を形成する上で大変意義のある大学院時代であったと思います。難解なテクストに向き合うことで培った論理的思考に基づき、複雑な物事を理解し、言葉を用いて説明することは、日々の業務にも活きていると思います。さらに、西洋社会や文明を成り立たせている根本的なものを思考する姿勢が身につきました。数年ぶりに、今回は仕事として欧州に滞在していますが、大学院での学びを通じて、言ってみれば社会を見る際の「感度」が上がったと実感します。国際情勢や社会が目まぐるしく変動する今日ですが、そのような時代だからこそ、目先の表層的な事柄にとらわれない姿勢は重要であると思います。モダニティ論コースは、研究者を目指す方はもちろん、例えば本を熟読するのが好きな方、物事を本質から理解したいと望む方、(西洋)近代社会について深く考えてみたい方などに向いているコースであると思います。
野上 俊彦さん(2019年度博士後期課程修了)
研究テーマ:「エルンスト・ユンガーとドイツの国民的アイデンティティ」
現在、松山大学経済学部特任講師
私の研究対象は、エルンスト・ユンガーという20世紀ドイツの思想家です。この人は作家(言語芸術家)ですが、その著作の内容は政治、哲学、歴史、宗教、科学、技術、芸術など多岐にわたるので、はじめのうちは彼の言葉に圧倒されるばかりでした。
そのような私にとって、モダニティ論コースの環境はとてもありがたいものでした。本コースには、社会思想・政治思想や美学・芸術学など、複数の分野の専門家による学際的な指導体制が整っており、数多くの貴重な助言を得ることができました。また学内外の研究者を集めて実施される研究会や、院生同士の自主的な読書会などから、思いがけない学びや気づきが得られるということも少なくありませんでした。そして本コースでは、普段の授業・演習でも論文指導でも、テクストを徹底的に精読することが重視されます。地道でたいへんな作業ですが、そこから得られる知的刺激はテクスト読解の醍醐味であり、なによりこれが、思想家の難解なテクストにアプローチするための最適の方法でもあります。
私が大学院修了後もなんとか自力で研究を進められているのは、本コースでさまざまな知的刺激を受けながら基本的な研究姿勢(絶えず視野を広げるよう努めつつ、事柄を丁寧に観察し、かつ概括的に把握すること)を学べたからだと思います。この経験は、研究にかぎらず、広く課題一般に取り組む際にも活きてくるものです。大学に職を得て学生教育にも注力するようになった現在、このことを強く感じています。
研究テーマを絞り込むのではなく、広く「モダニティ」全般について学ぶことは可能でしょうか?
可能です。むしろ近現代の思想的諸問題について広く学べることが、モダニティ論コースの強みともいえます。とりわけ前期課程のキャリアアップ型プログラム履修生の場合には、モダニティ論コースで開講される思想関連の科目群を中心に履修しながら、幅広い分野について知見を深めることが望ましいでしょう。研究者養成型プログラム履修生の場合には、もちろん適切にテーマを絞り込まなければ修士論文を執筆することは不可能ですが、従来型の大学院では扱いにくい学際的な主題を正面から取り上げることができる点が本コースの最大の特長といえます。
フランス思想やドイツ思想を研究したいのですが、仏語や独語の知識はどれくらい必要でしょうか?
前期課程「研究者養成型」プログラム志望者でフランス思想やドイツ思想を研究対象とする人の場合には、仏語や独語の読解力をある程度そなえていることが望ましいといえます。とはいえ(外国籍学生特別入試ではない)一般入試の場合には英語で受験することになりますから、受験に臨んでまずは英語の読解力に磨きをかけ、前期課程のあいだに仏語や独語の読解力を鍛えてゆけばよいでしょう。むろん英米思想の研究志望者の場合には、独仏語の代わりに英語のテクスト読解にいっそう注力してください(なおキャリアアップ型プログラム履修生の場合には独仏語をかならずしも必要としないと考えてもらって差し支えありません)。