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勤務中の事故によって四肢麻痺となり、首から上と左手の薬指しか動かなくなった元ニューヨーク市警・科学捜査部のリンカーン・ライムに仕事が舞い込んできた。すでに民間人となっているライムだが、その知性を頼られてのことである。
犯人は狂人である。凶惨主義者並みに狂っている。
肉体は衰える。肉は朽ちる。だが、骨は朽ちない。骨こそ完全な、あるべき姿なのである。
骨に魅せられた奴。それが犯人(ボーン・コレクター)だった。
ボーン・コレクターに言わせれば、これは殺人を犯しているのではない。むしろ不完全な状態から他人を"解放"してやっているのだ。
「解放の論理」ってやつか。狂人にはどこか、左翼の腐臭が漂うものだな。人権派弁護士(失笑)が大好きそうな輩だ。
幸いにも自分はこれの映画版を見ていないから、よけいな映像が浮んでこなくて好かった。出来の悪い映画を先に見てしまうと、その画が頭にこびり付いてしまってやっかいなのだ。
しかしまぁ、もはや刑事事件を"足で解決"する時代じゃないんですな。ライムはベッドに寝たまま、現場にいる部下に的確な指示をだし、証拠を集めまくる。分析しまくる。めまぐるしく頭が回転し、犯人を追いつめていく。自らは動かずして。
犯罪学者とはまさにルネッサンス的教養人だ。
植物学、地質学、弾道学、医学、化学、文学、工学に通じていなければならない。ストロンチウムを多く含む灰はおそらく高速道路の照明のものであること。「ファサ」とはポルトガル語でナイフの意味であること、エチオピア人は食事のときナイフやフォークを使わず、右手だけで食べること、右回りの溝と山が五組刻まれた弾はコルトから発射されたものではありえないこと―犯罪学者がそれらの知識を備えていれば、犯罪現場と犯人の接点を見出すことができる。
犯罪学者なら例外なく通じている分野が解剖学だ。(p138,第2部 ロカールの原則)
ジェフリー・ディーヴァーは巧いわ。四肢麻痺で、動きの制限されているという難しい個性を主人公にするってのは、その主人公が動き出さない分、物語の魅力は半減されると思ったのだが、彼の手足となって活躍する美人警官を通して"彼の凄さ"が伝わってくるのだ。
じりじりとボーン・コレクターを追いつめていく。奴が何ものなのか、プロファイルされていく。
この奇怪な犯人には、先行する"模範"があったのである。そして、この犯人にも犯行に及ぶきっかけがあった。
おもしろい。読みごたえあり。途中で飽きさせない。
評価:☆☆☆
犯人を追いつめるだけじゃない、もう一つの物語もあるのだ。
生きることに疲れたライム自身の、人生を閉じようとする意思の物語が。
彼を変えるものはなにか。
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