思いもよらない胸糞展開

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思いもよらない胸糞展開
著者: ch00bakka ch00bakka
コンテンツ警告: ボディホラー、拷問。


(以下、SCP-JPの規定に則った形式の翻訳クレジット)


タイトル: 思いもよらない胸糞展開
翻訳責任者: C-Dives C-Dives
翻訳年: 2024
著作権者: ch00bakka ch00bakka
原題: Disgusting Things You'd Never Anticipate
作成年: 2023
初訳時参照リビジョン: 8
元記事リンク: ソース


評価: +8
⚠️ コンテンツ警告

第1話: 状況が悪化する時

見つかるまで二年かかった。身を隠して生活し、肩越しに後ろを振り返り、ド腐れオハイオ州クリーヴランドのクソアパートの地下室に引き籠り、最低賃金以下のスポーツバーで働く二年間だった。喫煙休憩のために店の裏手に出て、ピンク色のロールスロイスがゴミ箱の横でアイドリングしているのを見た時には、思わずホッとしそうになったほどだった。車の横に、前回会った時よりも更に見苦しいスーツに身を包み、どこかのアニメの男の娘フェムボーイの抱き枕から図柄を拝借したと思しきネクタイを締めたマーシャルが立っていた。彼はアイリスに軽く手を振ってみせた。

「ミス・ブラック! アイリスと呼んで構わないかな? アイリスと呼ぶことにしよう」 彼は気取った笑みを浮かべた。「逃げ切れたとでも思っていたならお気の毒様。ただ... 君の助けは当時まだ要らなかったのでね」

「へぇ? どういう助けがお望みなのかな」 アイリスはそう訊きながら、目の前のゲス野郎に一撃必殺の呪いをぶち込む準備をした。「魔術に関する相談ならそれ相応の料金で受け付けてるよ。君なら余裕で払えるでしょ。私はあの後結局卒業できなかっ -」

呪文の印相ムドラーが完成する前に、背後にいたもう一人のゲス野郎が力任せに両手首を掴み、邪魔をした。「ああ、マドモワゼルmademoiselle、俺たちのお目当ては君の身体だよ」 この声はカーターだ。ドぎついピンクのトラックスーツを着たデブがいったいどうやってコッソリ忍び寄ってこれたのか、アイリスは訝った。迷彩柄のせいに違いない。「あ、エッチな意味は無いからな、その辺は誤解しないようによろしく。スキッターは女に興味無いし、俺は自主的に禁欲してるんだ、理由は今のところ説明する必要無いと思うけど -」

「黙ってろ、アル」 マーシャルは嘆息し、ロールスロイスのドアを開けた。「さあ、アイリス、丸一日待ってるわけにはいかないんだよ。別に殺したりはしないさ。実際、君を生かし続けるのが非常に重要な点なんだ。ミッション・クリティカルだ」

「私に選択の余地はある?」

「無い」

アイリスは溜め息を吐いた。「私が逃げようとし続けるのは分かってるよね? とっととクスリで眠らせるなりなんなりすればいいじゃんよ、その方がお互いに手間が省...」 首に感じたチクリという感触は、彼女が墳墓の中で目を覚ます前の最後の記憶だった。


最初に気付いたのは臭いだった。死体の血、腐敗、銅、ホルムアルデヒドが、土と埃と澱んだ空気の上に積み重なっている。そして冷気。裸に剥かれた身体の下にある石造りの椅子、手足に嵌められてはいるがまだ肌の温もりを吸ってはいない黄金の枷、鳥肌を誘う湿気。そして静寂 - しかしそれは完全な静寂ではない。静寂とは音が無いことだが、これはその対極だ。彼女にはまだ自分の呼吸や鼓動、部屋のどこかから時折聞こえる息遣いや足音、静かにしようとしつつも上手くいっていない誰かが立てる音が聞こえていた。しかし、そういった物音は全て反響せずに即座に飲み込まれ、その下には金貨がぶつかり合う音もなく、紙幣を数える機械もなく、先祖代々の家を差し押さえる男もおらず、それら全ての音が、いやそれ以上のものがあるべき場所には空虚だけが -

そして彼女は目を開け、絶叫した。

祭壇の上には何も無かった。黄金の鉢、銀の皿、ブラッドダイヤモンドと黒真珠を散りばめたナイフや鉤ややっとこがあった。そして中心には、皿や鉢や破壊器具に囲まれた中心には、何も無かった。或いは"何も無い"があった。空気も光も音も空間さえも拒絶する、あまりにも具体的な空虚があった。それが暗闇ダークだった。それは彼女を見つめており、その目は黒かった。

アイリスは気を失った。そして再び目覚めた時、室内にマーシャルとカーターがいるのを見た。彼らは見るだけで苦痛を呼ぶ難解な印章が刺繍された分厚い革のエプロンを着ており、顔には大青と黄土で目くるめく色の渦巻きが描かれていた。一方で、完璧に仕立てられたスーツと、シルクのネクタイと、一万ドル相当の腕時計も身に着けていた。マーシャルがナイフを、カーターが黄金の鉢を掲げた。ダークは命令を下さず、彼らは作業に着手した。

二人はまず彼女の目と舌を取り除いた。そして次に心臓と肺を、肝臓と腎臓を、睾丸と脳を。アイリスはその全てを感じた。彼女の両目は墳墓の石造りの天井を見つめ、彼女の舌は銅めいた血液と澱んだ空気を味わい、彼女の肺は切り刻まれている間ずっと無音で叫んでいた。そして二人が切開するたびに、彼女の生ける屍に新たな穴が開くたびに、そこにダークが溢れた。それは彼女の傷口を押し開き、内臓をまさぐる百の手だった。身体の中や外や周囲を這い回り、彼女の流血する肉を数千本の鋭い脚で刺し貫く一匹の巨大な蜈蚣だった。それは彼女の痛み以外のあらゆる感覚を取り去る痺れだった。それはアイリスに、彼女の身と心に縛り付けられ、新たな祈願と冒涜が行われるたびに、その束縛は引き締められていった。

そして、それは終わった。彼女は依然として苦痛の内にあり、依然として空っぽの目を通して見ており、依然として引き裂かれた心臓から虚無を送り出していたが、それらは全て古い苦痛であり、新しいものではなかった。儀式は完了し、獣は彼女に縛られ、彼女をこんな目に遭わせた奴らの息子たちか孫たちによって次の不運な誰かさんが引き裂かれるまで、彼女はこの墓所に留まり続けるのだ。

彼女の身体は玉座の背にもたれかかり、頭を横にがっくり傾けていた。それが、身の内に宿ったダークによって動かされ、背筋を伸ばした。そして、歪んだ笑みを浮かべた。

「感謝するぞ、諸君。実によくやってくれた」 それはほとんど彼女の声のように響いた。彼女の喉から聞こえる声だったが、ダークは彼女の唇も舌も喉頭も使ってはいなかった。(彼女の舌は祭壇の上にあり、彼女の唇は数本の筋で顔からぶら下がり、彼女の喉頭は銀の釘で刺し貫かれていた。) 「契約は忠実に履行された。貴様らは儀式を、一つ一つ段階を踏みながら、たった一人だけ残っていた子孫に施した...」

それはほんの一瞬だけ間を置き、その瞬間に、マーシャルとカーターは遂に先祖が交わした契約の何たるかを理解した。

「しかし、私は今、己がジュシュールの 息子に 縛られておるとは思わんのだ」

そして、アイリスは自分の身体が立ち上がるのを感じ、その瞬間に彼女が感じた恐怖は、儀式中に彼女が感じていたあらゆる感情を凌駕した。それは祭壇を、彼女の眼球を見下ろし、その目はただの黒、目があるべき空間に開いた穴だった。

「悪いが、相当痛むぞ」

それは腕を伸ばし、アイリスの眼球を鉢から摘み上げた。もしもまだ喉を制御できていたら、彼女はそれが眼球をぐるりと回して持ち上げた時に吐いていただろう。スーツの股間に湿った斑点が広がりつつあるマーシャルと、跪いて手を組み合わせ不在の神に祈りを捧げるカーターの姿が見えた。そして、最初と同じくらい鮮烈な苦痛が押し寄せ、目の前が真っ暗になった。

彼女は誰かがすすり泣く声で目を覚ました。恐らくカーターだろう、フランス訛りのアヴェ・マリアが差し挟まれている。すると、引っ掻いたり叩いたりする音は、マーシャルが扉を開こうとしているのだ。勿論、開きはしない。彼女が厳重に封印しておいたのだから。

ちょっと待て。彼女は何もしていない。扉を封印したのは奴だ、ダークだ、アイリスじゃない。

我らを単一の存在として考えた方が遥かに気楽だとすぐに分かろうさ。 それは彼女に話しかけてはいなかった。一つの考えとして頭に浮かんできたのだ。 ここには魂は一つしかない、望むならば見るが好かろう。

そこで、彼女はそうした。呪文はごく単純で、ほとんど反射神経並みにすぐ使えた。必要なのは思考だけ、チャンネルを切り替えれば奇跡術に伴う特別な感覚で見ることができる。悪魔残渣と合成天罰に半ば毒されたマーシャルの魂と、十二人の他人の魂から啜ったりかじったりした分で膨満したカーターの魂と、かつて墳墓の壁に刻まれており今はズタズタに裂けている古い結界と、彼女自身が扉に施した真新しい結界が見えた。そして彼女はその視界を内側に向けて、自分の魂を見た。

奇跡術師は誰しもそうだが、アイリスも自分の魂を知っていた。彼女の魂は、ピンクの大理石で彫られた彼女の理想の身体だった - 或いは、少なくとも、それが根源的に非物質なものを解釈する際に彼女の視覚野が用いた比喩だった。魂は日々、自己イメージの変化や、彼女が善かれ悪しかれ下す選択によって変化した。しかし、ここまで大きく、ここまで劇的に変化したことはかつてなかった。

マーシャルとカーターによって切り刻まれた肉体の傷は、彼女の魂にも同じように傷として現れていた。胴体は引き裂かれ、両目はえぐられ、肌には死語が彫り込まれていた。そして、それらの傷の一つ一つが、ダークによって埋められていた。それは今や彼女の一部だったが、彼女がそれの一部なのだと言っても意味は全く同じだった。二つは一つだった。彼女は一つだった。アイリスこそがダークであった。

アイリス・ダークは目を開けた。無我夢中で扉をこじ開けようとしているマーシャルがいた。床で泣いているカーターがいた。そして、未だに全裸のまま、未だに自分の血と胆汁に塗れている彼女がいた。これは宜しくない。

再び玉座から立ち上がった彼女の四肢の周りで、闇が織られていった。闇はうねり渦巻きながら、幾つもの装いを提示した。トーガ、ボールガウン、トレンチコート、ダブレット。やがて闇は凝縮され、それが不定形の雲として存在していた場所には、完璧な仕立てのスーツが残された。彼女が片足を、続いてもう一方の足を上げると、影が黒革のウィングチップを形作った。彼女が煙を吐き出すと、それは黒の口紅、アイライナー、マスカラになった。彼女の髪はひとりでに動き出し、きつく結い上げられた。一つ咳払いすると、彼女はたちまち注目の的になった。

「ミスター・マーシャル。ミスター・カーター」 前者は扉に背中を押し付け、後者は胎児のように身体を丸めた。「これからは経営方針をちょっぴり変えていこうと思うんだ」

アイリスが片手を振ると、扉が開かれた。マーシャルが慌てて道を空け、二人の男が黄金の鎖で彼らの王を縛り上げてから実に八千年ぶりに、ダークは世界に足を踏み入れた。彼女は微笑んだ。稼ぐべきカネが、待っていた。

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思いもよらない胸糞展開」著作権者: ch00bakka、C-Dives 出典: SCP財団Wiki http://scp-jp.wikidot.com/disgusting-things ライセンス: CC BY-SA 3.0

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ページリビジョン: 4, 最終更新: 20 Nov 2024 15:47
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