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陸域生態系火災起源のバイオマス燃焼による
全球の微量気体等放出量のデータセットを公開しました
(筑波研究学園都市記者会、環境記者会、環境省記者クラブ同時配付)
国立研究開発法人国立環境研究所
地球システム領域
国立環境研究所GOSAT-2プロジェクトチームは、物質循環および気候変動研究を推進し、また、それらの研究の基盤情報を提供することを目的として、森林火災を始めとする陸域植生のバイオマス燃焼による全球の二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)放出量の月別データセットを公開しました。地域・全球両規模の現象に対応するために、空間分解能※(注記)1は1 kmおよび緯度・経度1度格子の2種類を作成し、対象期間は2001年から2021年までとなります。
空間分解能1 kmのバイオマス燃焼による放出量データは、現時点において世界でも極めて高分解能となります。また、大気輸送モデルを介した大気CO濃度場のシミュレーション結果を用いることにより、これまで困難であったバイオマス燃焼による放出量の検証にも成功しました。
1.データセットについて
今般、国立環境研究所(茨城県つくば市)は、森林火災を始めとする陸域植生のバイオマス燃焼による二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)放出量の、2001年から2021年までの21年間分の月別データセットを国立環境研究所地球環境研究センターの運営する地球環境データベースから2023年1月24日に公開しました (図1:データの例)。
森林火災によるバイオマス燃焼は、その燃焼過程においてCO2等の温室効果気体やブラックカーボン等のエアロゾルを大気中に放出します。放出された温室効果気体やエアロゾルは地球規模での物質循環に影響を与えるとともに、気候変動の原因となります。
CO2放出量については、衛星観測から得られた土地被覆情報※(注記)2、地上バイオマス、火災燃焼面積情報に基づいて推定しました(Shiraishi et al., 2021)。しかし、これらの衛星観測データには不確実性が含まれていることから、Shiraishi et al. (2021)ではそれぞれ2種類の土地被覆情報、地上バイオマス、火災燃焼面積情報を使用することで、合計8種類のCO2放出量データを作成し、使用する衛星観測データの違いがCO2 放出量の推定結果に及ぼす影響を評価しました。
また、CO2放出量推定と同じ手法を用いてCO放出量を推定し、大気輸送モデルを介した大気CO濃度場のシミュレーション結果を地上観測および衛星観測データと比較・検証することで、統計的にもっともらしい大気CO濃度場を再現する土地被覆情報、地上バイオマス、火災燃焼面積情報の組み合わせの評価を行いました (Saito et al., 2022)。火災によるCO放出量の検証を、モデルを介した大気CO濃度を用いて行う研究は、世界的に見ても新たな試みです。今回公開するのは、このような検証を行ったデータセットです。応用研究として、これらの推定結果を基に、2019年から2020年にかけてオーストラリアで発生した大規模火災に伴うCO2放出量を評価し (Shiraishi and Hirata, 2021)、2021年5月6日に別途報道発表しました[1]。
本データセットは今後、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)、同2号機(GOSAT-2)観測データを使用したCO2およびCH4収支の推定に使用される予定です。今後は、今回公開するCO2、CO、CH4にブラックカーボン放出量を追加するとともに、毎年、前年のデータを追加していくことを予定しています。また、入力データや計算方法、検証方法の精査などデータの高精度化にも務めていく予定です。
2.データベースについて
【タイトル】白石ら(2022)、陸域生態系火災起源のバイオマス燃焼による全球の微量気体等の放出量のデータセット、ver.2022a、国立環境研究所
【作成者】白石 知弘、平田 竜一、齊藤 誠
【データ管理者】山田 裕子
【所属】国立環境研究所
【DOI】DOI:10.17595/20230124.001
【URL】https://doi.org/10.17595/20230124.001
3.参考文献
Shiraishi T. and Hirata R. (2021) Estimation of carbon dioxide emissions from the megafires of Australia in 2019–2020. Scientific Reports, 11, 8267, doi:10.1038/s41598-021-87721-x. Shiraishi T., Hirata R., Hirano T. (2021) New Inventories of Global Carbon Dioxide Emissions through Biomass Burning in 2001-2020. Remote Sensing, 13 (10), 1914, doi:10.3390/rs13101914. Saito M., Shiraishi T., Hirata R., Niwa Y., Saito K., Steinbacher M., Worthy D., Matsunaga T. (2022) Sensitivity of biomass burning emissions estimates to land surface information. Biogeosciences, 19 (7), 2059-2078, doi:10.5194/bg-19-2059-2022.
4.参考情報
[1] 2019〜2020年のオーストラリアの森林火災は過去20年で同国において最も多くの火災起源の二酸化炭素を放出した(2021年5月6日国立環境研究所報道発表) https://www.nies.go.jp/whatsnew/20210506/20210506.html
5.用語説明
※(注記)1 空間分解能: 近い距離にある2つの物体を2つのものとして区別できる最小の距離。 ※(注記)2 土地被覆: 地球の表面が生物・物理的に何に覆われているかの情報で、森林、草地など各種植生や都市、水面、裸地などに分類される。
6.問い合わせ先
国立研究開発法人国立環境研究所 地球システム領域
陸域モニタリング推進室
主任研究員 平田 竜一
高度技能専門員 白石 知弘
物質循環モデリング・解析研究室
主任研究員 齊藤 誠
【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
e-mail:kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
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