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- 第7回 脱温暖化2050プロジェクト 〜低炭素社会を実現するための方策とは?
研究最前線第7回「脱温暖化2050プロジェクト〜低炭素社会を実現するための方策とは?」
2050年までに日本のCO2排出量70%削減することは可能
2004年4月から5ヵ年計画で始まった脱温暖化2050プロジェクトは2009年3月をもって終了する。
その間に「低炭素社会」という言葉がだいぶ広まった。われわれも2005年3月頃から徐々に「脱温暖化社会」から「低炭素社会」に言い換えた。ただし、発音しづらく「ていさんそしゃかい」と言ってしまうこともある。「低炭素社会」は息苦しくない社会にしたいものである。
政治をめぐる状況も大きく変化した。2008年7月のG8洞爺湖サミットをにらみ、2007年5月に安倍元首相が「クールアース構想」を打ち上げ、2050年までに世界の温室効果ガス排出量を半減する目標を掲げた。2008年6月には「福田ビジョン」が出され、低炭素革命を通じて日本の二酸化炭素(CO2)排出量を2050年までに60〜80%削減する目標が閣議決定された。
これらの科学的根拠を与えたものの一つとして、2007年2月に脱温暖化2050プロジェクトシナリオチームが発表した「2050日本低炭素社会シナリオ:温室効果ガス70%削減可能性検討」報告書があろう。結論から言うと、適度な経済成長(一人あたりGDPを年率1〜2%上昇)を想定しても、エネルギー需要部門における省エネ対策の徹底的な普及と再生可能エネルギー・原子力・炭素隔離貯留などCO2をほとんど出さないエネルギー供給の対策を組み合わせることで、GDPの1%程度の投資で70%削減は可能である。とくに重要なメッセージは、2000年に比べてGDPが1.4倍から2倍に増えても、エネルギー需要を40%削減するポテンシャルがあることだ。
家庭部門を例にもう少し具体的に見ていこう。わが国の住宅平均寿命は35年程度であり、2050年には現存する住宅のほとんどが建て替えられる。このため、今後の建て替え需要のタイミングを逃さずに、寒くなく過ごしやすい省エネルギー型高断熱住宅へと誘導することで、快適性の高い居住空間と省エネルギー性能が両立した良質の住宅ストックに変えることができる。屋根の上では、太陽光発電、太陽熱温水器、屋上緑化などの対策が可能だ。家の中では、最高性能のエアコンや照明、冷蔵庫等を利用することで必要なサービスを得るのに必要なエネルギー投入量を少なくすることができる。家庭内で使うエネルギーやCO2の排出量を見える化することで、人びとの行動を適切にナビゲートすることも大切だ。このようにすでに知られている対策の効率を向上させ、徹底的に普及させることで2050年のエネルギー需要を2000年に比べて50%削減することができる(下図)。
さらに、エネルギー供給側も劇的に変わる。2000年には約4割が灯油、2割が都市ガス、6割が電気、1%が太陽熱・光だが、2050年になると灯油や都市ガスなどの化石燃料の割合が劇的に減少する。分散して存在する需要地で化石燃料を燃やしてCO2を排出してしまうと回収できないためである。それに変わり、電気、太陽光・熱、水素の割合が増加する。これらを組み合わせると、家庭部門からはほとんどCO2が出ないことになる。低炭素住宅ならぬ、ゼロカーボン住宅だ。しかし、こんなことは本当にできるのだろうか?
70%削減を実現する12の方策
どの時期に、どのような手順で、どのような技術や社会システム変革を導入すればよいのか、それを支援する政策はどのようなものがあるか。それをまとめたのが、「低炭素社会に向けた12の方策」(2008年5月)である(上図)。これらの方策をすべてとることで、70%削減が実現できる。
家庭部門に直接関連する方策として、「快適さを逃さない住まいとオフィス」と「トップランナー機器をレンタルする暮らし」の二つを提案している。上図で示したような家を実現するためには、住みやすく環境性能の良い住宅をデザインする建築家、そのような家を建てる建設会社・大工、選択する消費者が必要だ。政府は、住宅エネルギー性能評価による見える化、それに基づくラベリング制度の導入、デザイナー・コンストラクター養成の機会、高性能住宅購入へのインセンティブ付与などの対策を適切なタイミングで打つ必要があるだろう。デンマークやドイツでは、住宅エネルギー性能評価を受けていない住宅は売買・賃貸できない仕組みができている。
詳細についてはホームページをご参照ください。
低炭素社会に向けて
今後、炭素税や排出量取引による炭素の価格づけにより低炭素社会実現に向けたカジが取られよう。そのときに大事になるのが、低炭素以外の便益である。人びとにとって「快適さを逃さない住まいとオフィス」によってCO2排出量を削減し、光熱費を節約することよりも、快適な居住・仕事環境が得られることの方が、より価値が高いだろう。低炭素社会実現に向けて日本人の知恵が問われている。
目次ページの図表は、低炭素社会実現に向けた12の方策の名称
- 研究最前線
- 第16回 日本における洋上風力発電実現に向けて
- 第15回 気候変動枠組条約締約国会合に参加して〜研究機関の役割を考える
- 第14回 生物多様性を育むマングローブ林の現実
- 第13回 リモートセンシングを利用した絶滅危惧種の分布マップ作り
- 第12回 中国の水環境の現状と日本からの技術協力支援
- 第11回 ミジンコを用いたバイオアッセイ
- 第10回 リサイクル法の見直しをめぐって
- 第9回 越境大気汚染〜広域的な光化学オゾン汚染の現状と要因
- 第8回 ライダーネットワークによる黄砂の3次元構造と輸送状態の把握
- 第7回 脱温暖化2050プロジェクト 〜低炭素社会を実現するための方策とは?
- 第6回 国立環境研究所のアウトリーチ活動 〜研究成果をいかに一般市民に伝えるか
- 第5回 地球温暖化をめぐる国際交渉
- 第4回 地球温暖化が日本にもたらす影響〜温暖化影響総合予測プロジェクト
- 第3回 オゾン層回復が気候に与える影響
- 第2回 日本のカエルが危ない?〜カエルツボカビ症の現状
- 第1回 紫外線をとりまく国内外の情勢
- ふしぎを追って
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2015年6月30日報道発表「使用済み電気製品の国際資源循環
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国立環境研究所「環境儀」第57号の刊行について
(お知らせ)(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時配付) -
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