6月にカナダのカナナスキスでG7サミットが開催されました。11月には南アフリカのヨハネスブルグでG20サミットが開催されます。複雑化する国際情勢の中、G7は地球規模課題への率先した取り組みとともに、グローバル・サウスとの連携の役割が改めて問われています。また、アフリカ大陸で初開催となるG20では、多様な国々の立場や視点を踏まえた議論が期待されています。
主要会合スケジュール
■しかく 首脳会合 G7サミット :2025年 6月15日〜17日
G20サミット:2025年11月22日〜23日
■しかく 環境関連会合 G7エネルギー・環境大臣会合:2025年10月30日〜10月31日(議長サマリー)
G20環境・気候持続可能性大臣会合:2025年10月16日〜17日
本特集ページでは、持続可能性の議論に関する主要な動向や注目すべきポイント、会合の成果に関する解説、関連するIGESの出版物などをご紹介します。
新着情報
G7(Group of 7)は、フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7カ国と欧州連合(EU)から構成され、サミット(首脳会合)のほかに、特定の分野に関する大臣会合を毎年開催しています。
2025年のG7はカナダが議長国を務め、6月16日〜17日にカナダ西部のカナナスキスでサミットが開催されました。議長国カナダのカーニー首相のもと、様々な分野の議論が交わされ、AIをめぐる協力や重要鉱物のサプライチェーンの構築、山火事への対応といった分野ごとに成果文書を発表して閉幕しました。
エンゲージメント・グループの役割
G7には、サミットと大臣会合の他に、G7 政府から独立した様々な分野のステークホルダー(エンゲージメント・グループ)が提言(コミュニケや声明など)を取りまとめています。B7(ビジネス)、C7(市民社会)、L7(労働組合)、S7(科学)、T7(シンクタンク)、W7(女性)、Y7(若者)の7つのグループの提言はサミット・大臣会合のコミュニケにも反映されています。気候変動対策や持続可能な開発目標(SDGs)の達成など、社会にダイナミックな変革を起こす上でエンゲージメント・グループの役割の重要性が高まっています。T7には毎年、複数のIGES研究員が提言に関わっており、今年もT7のポリシーブリーフの執筆に貢献しています。
G20(Group of 20)は、G7加盟国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)に加え、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中華人民共和国、インド、インドネシア、大韓民国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、及び欧州連合(EU)とアフリカ連合(AU)が加盟したグループです。G20は各国のそれぞれの分野の大臣が一堂に会し、様々な課題について話し合う重要な場となっています。
2025年の議長国は南アフリカが務めています。11月22日から23日にかけてヨハネスブルグで開催されるG20サミットに先駆け、9月26日にG20エネルギー移行大臣会合が、そして10月9日にG20気候・環境大臣会合が開催される予定です。
エンゲージメント・グループの役割
G7同様、G20のプロセスにおいても、各国のステークホルダーの代表によって構成されるエンゲージメント・グループがG20の議論に向けた政策提言を行っています。エンゲージメント・グループには、B20(ビジネス)、C20(市民社会)、SU20(イノベーション、起業、協働)、L20(労働組合)、O20(海洋)、P20(国会)、S20(科学)、SAI20(最高監査機関)、J20(最高裁判所)、T20(シンクタンク)、U20(都市)、W20(女性)、Y20(若者)といった様々なものがあります。
本年のT20コミュニケはこちら
研究者の視点
G7エネルギー・環境大臣会合 G7による水危機への対応に向けた「G7水コアリション」の発足
水資源は地球上の生命体にとって欠かせないものであり、国際社会は水問題の深刻化に対して枠組みやパートナーシップを通じて様々な取り組みを行っています。国連は、SDG6グローバル・アクセラレーション・フレームワークによる取り組みを展開し、2023年の国連水会議にて「水行動アジェンダ」を公表しました。また、G20は、2020年に持続可能な水資源管理を促進させるためのプラットフォーム「水に関する対話」を立ち上げ、国際的な取り組みが強化されつつあります。
こうした流れの中で、G7は、2024年(イタリア議長国)にG7内の協力を進めるための「G7水コアリション」を立ち上げました。G7水コアリションは、SDG6およびその他の水関連の国際目標・ターゲットの達成に向け、効果的・効率的かつ包括的で公正な政策を支援するとともに、水問題に関する主要な国際会議や水問題が議論・交渉テーマとなるイベント等において、G7メンバー間の意見調整を図ることを目的としています。今回、2025年のG7(カナダ議長国)では、その作業計画が策定され、共同行動と技術交流の概要が示されました。
共同行動:
- 国際的な水関連の取り組みを支援するG7の協調的行動
- 世界のフォーラムやプロセスにおける水問題の主流化
- 水関連災害へのレジリエンスと適応
- 技術とイノベーション
- 自然と水行動の連携
- 水質汚染対策
- 水とファイナンス
- 包括的行動
IGESは、これまでも、アジア水環境パートナーシップ(WEPA)を通じた水質汚濁防止や水環境保全の取り組みや、G20の枠組みを活用した海洋プラスチック廃棄物管理に関する活動等を実施しています。これらの活動を通じて、国際的な水関連イニシアティブの推進に貢献するとともに、水危機の解決に向けた効果的な政策形成や実践的な行動を支援していきます。
「G20は公正なエネルギー移行に不可欠な重要鉱物のバリューチェーンの構築に貢献できるか?」
エネルギー移行に不可欠な重要鉱物(CETMs)は、再生可能エネルギーへの移行やネット・ゼロ目標を達成するために欠かせません。しかし、これらの重要鉱物を供給しているグローバル・サウスの国々は、その利益を十分に享受できていないのが現状です。グローバル・サウスの国々は、、重要鉱物の採掘・加工活動に伴う環境汚染、地域社会の分断、健康への悪影響など深刻な課題に直面しています。一方で、経済的便益の大部分は、CETMsを利用してエネルギー移行を進める国々で享受されています。この不均衡を解決しなければ、エネルギー移行は不平等なものとなってしまいます。
本ポリシー・ブリーフでは、この深刻な課題に対するいくつかの解決策を提示しています。特に、G20が主導する公正な移行のための基金は、グローバル・サウス諸国や先住民コミュニティを支援するための利益分配メカニズムの構築において、重要な役割を果たすことができると論じています。
利益分配の課題に対処する一つの方法として、鉱物資源が豊富な国々は、原材料の輸出から脱却して、加工や製造による付加価値をつけることで、、より低炭素型の成長と社会的・経済的なコベネフィット(共通便益)をもたらすことが期待されます。さらに、地域社会に焦点を当てた利益分配モデルにより健康、教育、インフラ、生計において具体的な改善もが可能です。
同時に、グローバルサプライチェーンにおける透明性の確保や説明責任も重要です。CETMsが倫理的に調達され、企業と政府が地域社会と環境面の両方に対して責任を果たすことができる信頼性のある世界的なグローバルな採掘基準とトレーサビリティの確立が必要です。公正な取引のメカニズムは、利益配分において生産国側の交渉力を強化するため上でも必要です。
最も重要なのは、人を中心としたアプローチであることであり、地域社会と住民がバリューチェーンに実質的に関与し、自らの経済発展に繋がるような発言権、権利、資源を確保することです。このような仕組みは倫理的であるだけでなく、持続可能で社会的に公正な成果に不可欠です。CETMsのバリューチェーンにおける利益配分は任意の選択肢ではなく、真に公正なグローバルなエネルギー移行の中核をなす不可欠な要素です。
「G20サステナブルファイナンス報告書とシナジーアプローチ」
G20 サステナブルファイナンス作業部会(SFWG)は、パリ協定と2030アジェンダの目的達成に向けてより多くの官民資金を動員するため、制度や市場における障壁を特定し、これを克服するオプションを提示する役割を担って設立されました。毎年G20サステナブルファイナンス報告書を作成しており、2021年にイタリアで開催されたG20では、G20サステナブル・ファイナンス・ロードマップが首脳コミュニケで承認されました。同ロードマップでは、気候変動やその他のサステナビリティに関し、5つの重点分野と19のアクションが示されており、その進捗は毎年のG20で報告・確認されています。重点分野は、サステナビリティに関する金融市場開発、情報開示、リスク評価と管理、国際開発金融機関や公的ファイナンスの役割、トランジションファインスなどです。
2025年版のG20サステナブルファイナンス報告書(注1)では、同ロードマップの進捗状況をレビューするとともに、今後の重点課題として、グローバルなサステナブルファイナンスシステムの強化、気候適用ファイナンスの拡大、カーボン市場の改善を取り上げています。その理由として、これらがサステナブルファイナンスのシステム課題の解決につながるとともに、持続可能な開発において複合的な効果(コベネフィット)を生み出すことを挙げています。例えば、気候変動対策は、温室効果ガス削減や気候変動適用対策だけでなく、大気汚染の改善、グリーンジョブの創出、公衆衛生の向上、生物多様性の保全などにも寄与します。このような、異なる目標の同時達成や相乗効果を生み出すアプローチ(シナジーアプローチ)が、近年国際的に注目されており、2024年2月に開催された第6回国連環境総会では、日本政府が提案した「シナジー・協力・連携の国際環境条約及び他の関連環境文書の国内実施における促進に関する決議」(注2)が採択されています。
こうした国際的な動きを受け、IGESは、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)、国連環境協力(UNEP)、アジア開発銀行(ADB)と連携して「アジア・シナジーレポート」の作成を進めており、本レポートでも、シナジーを促進するための資金メカニズムについて触れています。現在の市場には、グリーンボンド、インパクト投資、債務削減と自然投資のスワップ、成果に基づくファイナンスなど様々な金融手法がありますが、シナジーアプローチも取り入れられつつあります。こうした取り組みを拡大していくためには、プロジェクトレベルを超え、国レベルで関連するステークホルダーを結集し、シナジーアプローチを統合した投資目標と優先事項の調整・整合を図る仕組みや、シナジー効果の評価方法、指標づくり、データ確保などの課題への対応も必要になってくると考えられます。IGESは、今後も、国際的な議論へ貢献しつつ、シナジーアプローチに関する調査研究を進めていきます。
注1:https://g20sfwg.org/wp-content/uploads/2025/10/2025-G20-SFWG-Presidency-and-Co-chairs-SustainableFinance-report-1.pdf
注2:https://www.env.go.jp/content/000204210.pdf
「気候変動とエネルギー安全保障のリスクについてT7ポリシーブリーフを執筆し、G7へ政策提言を行いました」
T7(Think7)は、シンクタンクが研究成果をもとにG7に対して政策提言を行うエンゲージメントグループです。今回は、IGESが実施しているアジア太平洋気候安全保障事業(APCS)の成果をもとに、ドイツのシンクタンクであるadelphi、及びパキスタンの研究機関であるManzil Pakistanとの共同で提言を行いました。T7では、例年、議長国の意向を反映してテーマが設定されますが、今年は、変革をもたらす技術(AIと量子技術)、グローバル経済のデジタル化、環境・エネルギー・持続可能な開発、およびグローバルな平和と安全保障の4つがテーマとして設定されました。私たちの「未来の安全を確保する:気候変動とエネルギー安全保障のリスクおよびG7の役割」は、環境・エネルギー・持続可能な開発への提言で、主要なメッセージは以下のとおりです。
- ・ 気候変動は、G7を含む世界中で、特に脆弱な地域において、生計の崩壊や移住、食料・水資源の不安定化、資源競争といった間接的な経路を通じて、国家の安全保障と人間の安全保障を脅かしています。
- ・ G7は、エネルギー安全保障の必要性とグローバルな気候目標を調和させる必要があり、重要な鉱物資源のサプライチェーンを確保しつつ、エネルギー転換と脱炭素化を加速化する必要があります。
- ・ 重要鉱物は、その分布が不均衡で集中しているため地政学的な関心が極めて高く、G7は、外交関係と貿易関係を強化し、地政学的リスクを軽減しつつ、世界規模での持続可能な採掘実践を促進する役割があります。
- ・ G7は、グローバル・サウスに対する気候正義のコミットメントを履行し、多国間主義と国際的な連帯を強化する必要があります。
アジア太平洋気候安全保障事業では、エネルギー、食料、人の強制移住など、気候変動に関する多様なリスクを研究しています。今回の提言では、この事業で得られた知見を踏まえて、グローバルサウスの気候変動脆弱性に対処するにあたってのG7の役割として特にエネルギー安全保障と重要鉱物の偏在などがもたらす地政学的なリスクに対応すべきことを主張しました。これは、従来の気候変動の緩和・適応の取り組みでは必ずしも十分に取り扱われてこなかった点で、気候行動の強化と持続可能な発展の実現には欠かせない観点と考えています。今回私たちの提言が、多くの政策担当者の目にとまり、実際の行動に繋がることを期待します。
「プラスチック条約策定に向けた国際的な議論とG20の役割」
プラスチック汚染に関する政府間交渉委員会(INC)において、プラスチック汚染に関する条約[DS1] の策定に向けた議論が進められています。海洋プラスチック汚染は2025年10月に開催されるG20環境・気候持続可能性大臣会合の主要な議題の一つとなることが予想されます。2019年には大阪で開催されたG20サミットで、2050年までに海洋プラスチックごみの追加的な汚染をゼロにする「大阪ブルーオーシャンビジョン」が採択されました。
プラスチック汚染は、それが発生する場所から見て大きく陸域から発生するものと海洋上で発生するもの[t2] に分けられます。後者は、主に船舶から投棄されるプラスチックごみや、海洋に流出してしまった漁網・ローブ・浮きなどの漁具です。海中に放置された漁具は、海岸に漂着して景観を損なう、航行する船のスクリューなどに絡んで事故につながる、海中に浮遊したまま魚を捕獲して(「ゴーストフィッシング」と呼ばれます。)漁業資源を減少させる、あるいはウミガメ・海鳥をはじめとする希少種を含む海生生物に危害を加えるなど、様々な悪影響を与えます[1][2]。海洋起源のごみに対しては、船舶による汚染の防止のための国際条約(International Convention for the Prevention of Pollution from ShipsまたはMARPOL)によって規制されており、漁具についても、使用者を明確にするマーキングの義務化などの対策が検討されていますが、陸域起源のごみに比べて対策が遅れている印象があります。
しかし、INCの議論を見ても、海洋起源を含むプラスチック汚染防止の規制について国際社会の足並みが揃っているとは言えず、G20の中でどのように意見の統一を図っていくか、さらに、「大阪ブルーオーシャンビジョン」のような取り組みに多くの国を巻き込めるかも、今後の課題であると思われます。
G20の2025年の議長国である南アフリカ共和国は、重要な海運ルートの要所であると同時に、海洋汚染対策にも積極的に取り組んでいます。同国では、2025年初めに、海洋汚染に関する法律が修正され、海洋を汚染した場合の罰金の増額など、規制がより強化されました。2023年10月に中東で起こった軍事衝突によりスエズ運河が通行できなくなって以来、南アフリカ沖(喜望峰)を回るルートの船舶の運航が急増し、こうした船舶からの汚染リスクが増大したことも、このような動きに関係していると考えられます。G20環境・気候持続可能性大臣会合でも、議長国のリーダーシップにより、海洋プラスチックごみを含む環境汚染防止の強化に向けた実質的な議論が進展することを期待しています。
[1] prsp_020_2021_toyoshima.pdf
[2] ゴーストギアレポート++++.indd
※(注記)「研究者の視点」の内容は執筆者の見解であり、必ずしも IGES の見解を述べたものではありません。