2022年12月20日
大きな成長が期待される「フィリピン市場」の可能性とは?(JNTOマニラ事務所インタビュー)
訪日フィリピン人観光客は、2013年のビザ緩和の開始を機に、年々着実に増加し、リピーター率の高まりとともに、「もっと日本各地を訪問したい」というニーズも増えています。JNTOマニラ事務所は、この有望市場であるフィリピンでの取組を強化するため、2018年10月に設立されました。本格的なインバウンド再開を迎え、フィリピンの訪日旅行者たちは日本に何を求めているのか、日本への誘客にはどんなアプローチが有効なのか、JNTOマニラ事務所の取組とともにご紹介します。こちらの記事では、マニラ事務所 次長 達賀美咲がお話しします。 ※(注記)所属事務所・役職は取材当時の情報です。
多くの人たちが「日本に行きたい!」と望んでいる
―はじめに、フィリピン市場の特徴・魅力について教えてください。
フィリピンからの訪日者数は、観光目的の数次ビザの発給を開始した2013年以降着実に成長を続け、コロナ前の2019年は、対前年比21.7%増の約61万3000人となりました。これは当時のJNTOの重点22市場の中では8位で、東南アジアではタイに次ぐ数字です(現在は24市場)。
旅行形態については、10人前後での家族・親族旅行が多い点が特徴です。敬虔なキリスト教信者(カトリック)が多く、家族や仲間を大切にするというカルチャーが非常に強いと感じます。大家族で住んでいる家庭が多いこともこの表れではないでしょうか。20〜30代の比較的若い世代になると、「友人同士でアクティブに旅行を楽しむ」という人たちも多い印象です。
なお、2019年時点で、団体ツアーの利用は7%と限定的で、9割以上が個人旅行です。ただ、個人旅行と言っても多くが大人数での家族・親族旅行ですから、小規模な団体旅行と言っても良いかもしれません。
旅行の予約方法については、特に若者を中心に『Agoda』『Booking.com』『KLOOK』など、Online Travel Agency(OTA)の利用が増えています。ただフィリピンでは、大使館に査証代理申請機関として認定された旅行会社を通じてビザを取得しなければいけないという事情があります。そのため、「ビザ申請と併せて旅行予約もしてしまおう」という方も少なくありません。また、特に富裕層の方などは、馴染みの旅行会社を通じて予約される方も多いですね。
インバウンド誘致に取り組むにあたってのフィリピン市場の魅力としては、まず「受入環境整備がしやすい」という点が挙げられます。情報発信をする際の言語は英語でOKであること、9割以上がキリスト教徒なので宗教上食のタブーも少ないことなどから、受入を開始する際のハードルは比較的低いと思われます。
次に、東南アジア諸国の中では、日本に最も近いという地理的なメリットもあります。また、フィリピンは、日本好きな方が非常に多い親日国です。動画配信サービスでは日本のアニメが多く見られていますし、日本食も非常に人気が高く、マニラにも多くの日本食レストランがあります。
さらに、フィリピンの人口は1億人を超え、平均年齢が20代と若く中間所得層が増えていることから、将来にわたってインバウンドの成長が見込まれる、有望な旅行市場と言えるでしょう。
[画像:大きな成長が期待される「フィリピン市場」の可能性とは?]
出典:日本政府観光局(JNTO)国籍/目的別 訪日外客数
―フィリピンの海外旅行需要、その中での日本の位置付けについて教えてください。日本は旅行先としてどれくらい人気があるのでしょうか?
フィリピンは多くの島で構成されていますが、海外旅行需要は人口比率と比例する形で、マニラ首都圏のあるルソン地方が約8割を占めています。第二の都市・セブのあるビサヤ地方が1割、ダバオのあるミンダナオ地方が0.7割ですから、ほぼルソン地方に集中していると言っていいでしょう。
2019年のフィリピンからの海外旅行者数を比較すると、ビザが必要な近隣国の中で日本はトップとなりました。もともと、日本が好きな方が多い国ですが、2013年に、有効期間内に複数回使用できる数次ビザ取得が可能となったことなどをきっかけに、新規の旅行者に加えてリピーターも増加し、日本のプレゼンス、認知度は着実に上がってきていると感じます。
日本の競合となりそうな国としては、韓国、シンガポール、台湾、香港などが挙げられます。特に韓国については、近年フィリピン国内でK-POPや韓国ドラマの人気が上昇しており、ショッピングモールにも韓国系のショップが増えているほか、旅行先としての人気も高まっています。
―コロナ禍において、現在、フィリピンの状況はどうなっているでしょうか?
フィリピンでは、2020年の3月から世界最長とも言われるロックダウンが行われましたが、現在はほぼ日常を取り戻しており、街中は非常に賑わっています。マスク着用は個人の判断に委ねられていますが、フィリピンの人はコロナに対する衛生観念が高いため、ほとんどの方がマスクをつけていますし、手指消毒なども徹底しています。
旅行への意欲は非常に高く、フィリピン観光省の積極的なPRもあり、国内旅行は活発です。また、高中所得層を中心に海外旅行意欲も依然として高く、マニラ事務所でも「いつ日本へ旅行できるようになるのか」といった問い合わせを毎日のようにいただいていました。2022年10月11日以降、入国制限が緩和され、ようやく個人旅行が可能となった今、再び多くの人たちが日本を訪れてくれるものと期待していますし、当所としても今こそより積極的に訪日旅行のあらゆる魅力を発信していきたいと考えています。
「SNS映えする風景」や「アニメ」が大人気
―現在、マニラ事務所ではどのような取組を行っているのでしょうか?
BtoC向けには、まずマニラ事務所のウェブサイトやSNSを通じて、日本各地の魅力や水際対策などに関する正確な情報を継続的に発信しています。また、メディアやインフルエンサーを活用した情報発信のほか、フィリピンの旅行業協会が主催する旅行博へのブース出展、また、JNTOマニラ主催のイベント実施などを通じて、直接消費者に訪日魅力を届ける取組を行っています。
BtoB向けには、フィリピン側と日本側の業界関係者のネットワークを構築し、商品造成や販売促進に繋げるべく、旅行会社向けのセミナーや商談会の開催、フィリピンの旅行会社招請を通じた旅行商品造成の促進、航空会社・旅行会社と連携した共同広告などの取組を実施しています。また、日本側でフィリピンからの誘客を検討している自治体に向けたコンサルティングや、MICE需要の発掘に向けて、国際会議の誘致を希望されている自治体との連携なども行っています。
マニラ事務所では、これまでにお伝えしたフィリピン市場の特徴を踏まえて、大きく分けて2つのターゲットを定めています。
一つ目は、高・中所得層の夫婦・パートナー、家族・親族というカテゴリーで、この層の特徴は、食事やお酒、ショッピングへの関心が非常に高いということ。こうしたコンテンツは日本の各地方に存在していますから、地方分散やリピーター化の観点でも有効と考えています。また、「写真映えする風景や街並みが人気」などの特徴があります。
二つ目は、20〜30代の友人・同僚層です。彼らの大きな特徴として、SNSの利用頻度が高く流行に敏感という点があり、SNS映えが重要なポイントとなってきます。また、アニメやテーマパーク等の根強い人気に加え、サイクリングや雪といった自然の中で楽しむコンテンツも人気が上昇しています。
高・中所得層へのアプローチとしては、例えばターゲット層が読むようなメディアを通じた情報発信や富裕層が訪れるショッピングモールでのイベント開催など、20〜30代の若年層に対しては、その層に人気のインフルエンサーの活用を通じた発信などを行い、それぞれの傾向を意識したプロモーションを実施しています。
[画像:大きな成長が期待される「フィリピン市場」の可能性とは?]
インフルエンサーを活用した、関西地方のオンラインプロモーション(2021年度)
[画像:大きな成長が期待される「フィリピン市場」の可能性とは?]
訪日促進イベントJapan Fiesta 2019の様子
―フィリピンの方々に人気の観光コンテンツには、どのような特徴がありますか?
人気コンテンツのキーワードとして「フォトジェニック」「食」「買い物」「テーマパーク」「雪」などが挙げられます。これらはターゲットの別に関わらず人気のコンテンツですね。特に、フィリピン人は写真を撮ることが大好きで、風景だけではなく自分自身も被写体となって映える写真や動画を撮りたいというニーズが高いため、フォトジェニックは大きなキーワードの一つです。また、ラーメンやとんかつをはじめとした日本食や、日本の雑貨店などは、フィリピン国内でも非常に人気で、「いつかは日本で本物を楽しみたい」という人が多いですね。
若い人には「アニメ」も刺さるコンテンツだと思います。『鬼滅の刃』『ハイキュー!! 』『進撃の巨人』などは多くの若者が親しんでいますし、大分県日田市が行っているような、自治体とアニメ作品とのタイアップなども、誘客の大きな可能性がありそうです。
ほかにも、フィリピンには雪に憧れを抱く人たちが多く、特に訪日旅行の経験者からは「次は絶対に北海道に行きたい」という声がよく聞かれます。いまのところは雪遊びをしたり、かまくらの中で食事したりといったライトなアクティビティが中心ですが、今後は若い世代を中心に、スキーやスノーボードなどの人気も高まってくるかもしれません。
リピーター増加とともに高まる「地方への関心」
―日本国内ではどのような地域に人気がありますか?
訪問先については、東京・大阪などの大都市が中心ですが、2019年にはリピーターが約6割となり、コロナ前には地方への分散も始まりつつありました。
例えば、北海道については、フィリピンで北海道を舞台とした映画が制作されたり、2018年にはフィリピン航空がマニラ〜新千歳便を就航(現在はコロナ禍により運休)したりするなど、人気が高まっていました。他には、富士山のエリアも人気がありますし、またフィリピン人労働者が多い愛知県も主に親族訪問を兼ねて訪れる人が多くいます。
福岡についても、航空各社が直行便を就航させていますし、九州は更に伸ばしていけるエリアだと考えています。例えば、長崎などはキリスト教関連のコンテンツも多いですから、福岡を起点に近隣エリアへも足を延ばしていただけたらと考えています。
また、コロナ禍を経て、フィリピンではサイクリングを楽しむ人が増えているので、例えば大阪から足を延ばして、しまなみ海道のある広島県や、琵琶湖のある滋賀県などでサイクリングを楽しむ、というような旅行者も増えてくれるといいですね。
―フィリピン事務所から「地方の観光地の魅力発信」などは行っていますか?
日常的に、ウェブサイトやSNSを通じて、日本各地の魅力発信を行っています。また、旅行会社向けのセミナーにおいても、日本各地のテーマパークやサイクリングに関する情報を紹介するなど、BtoC、BtoB両方に向けた発信を行っています。
ここ数年は、コロナ禍により主にオンラインを通じた発信となりましたが、視聴者からは「日本にこんな素敵なところがあるなんて知らなかった」「バケットリスト(死ぬまでにやりたいことリスト)に入れます!」など、ポジティブな反応を多く頂きました。
その一方で、アクセス等に関する質問も多く、新しい地域を紹介する場合は、大都市からのアクセス方法などの情報が必要であることを改めて感じました。例えば、「○しろまる○しろまるからわずか◯分で、こんなに素敵なところがあります」といったアプローチの仕方も有効かと考えます。
―地方において、旅行者の消費単価アップを狙うためのアプローチなどは行っていますか?
食を含めた各地域の特産品、アクティビティも絡めた情報提供を行うことで、消費促進に繋がる発信を心がけています。
ショッピング以外にも、地域の魅力を感じられるさまざまな体験コンテンツを通じてお金を使っていただくことが重要だと思います。そのために、今後も、地域での消費に繋がるようなアクティビティなどの紹介も増やしていきたいと考えています。特に高・中所得層の方々に対しては、よりラグジュアリーな宿泊体験や食事体験を楽しめるようなスポットなども紹介していけたらと思っています。
―フィリピンから訪日旅行客を受け入れるにあたって、地域が注意すべきこと、積極的に売り出した方がよいことがあれば教えてください。
やはり、「その土地でしかできない体験」を、市場の特性を見ながら積極的にアピールしていただくことが重要かと思います。特に美しい写真やアクティブな動画を使った情報発信は効果的だと考えます。
また、これはフィリピンに限らないことですが、旅行者にとっては「自分がウェルカムされているという感覚」が何よりうれしいものだと思います。基本は英語対応でOKですが、余力があればタガログ語の挨拶などを添えていただくと喜ばれるのではないでしょうか。
―最後に、フィリピンからの訪日客誘致を検討している自治体やDMOの方々に向けてメッセージをお願いします。
フィリピンは今後、インバウンド市場として大きなポテンシャルを秘めたエリアです。フィリピン人の方々は本当に日本が大好きで、日本に行きたいという思いを強く持っています。また、リピーターが増えるに従って「地方への関心」も高まっています。東南アジア市場への取組を検討される際には、ぜひフィリピンを選択肢に入れていただければと思います。フィリピンでの訪日プロモーションをご検討の際には、ぜひマニラ事務所にお気軽にご連絡ください。
[画像:大きな成長が期待される「フィリピン市場」の可能性とは?]