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「旅行好き」のドイツ人に「日本の知られざる魅力」を伝えたい(JNTOフランクフルト事務所インタビュー)

「旅行好き」のドイツ人に「日本の知られざる魅力」を伝えたい(JNTOフランクフルト事務所インタビュー)

「旅行好き」のドイツ人に「日本の知られざる魅力」を伝えたい(JNTOフランクフルト事務所インタビュー)

ドイツは中国に次いで世界第2位の海外旅行大国。訪日観光客も増加傾向で、今後はリピーターの増加とともに、「ゴールデンルートだけでなく、日本の知られざる地方を訪問したい」というニーズが高まることが期待されます。本格的なインバウンド再開を迎え、ドイツの訪日旅行者たちは日本に何を求めているのか、そして日本への誘客にはどのような工夫が必要なのかとともに、新たな日本のファンを増やすためのJNTOフランクフルト事務所のさまざまな取組をご紹介します。こちらの記事では、フランクフルト事務所 所長 臼井さやかがお話しします。(注記)所属事務所・役職は取材当時の情報です。

ドイツでは日本に対する関心が高まっている

―はじめに、ドイツ市場の特徴について教えてください。

一言で言うと、ドイツ人は大の旅行好きです。国連世界観光機関(UNWTO)が2019年に発表したランキングでも、人口約8,300万人に対して、延べ人数で1億人強が出国しており、ドイツは中国に次いで世界第2位の海外旅行大国となっています。

コロナ前に、私たちが欧州最大級の観光見本市『ITB BERLIN』でアンケートを実施したところ、「これまでに20回以上海外旅行へ出かけた」と回答した人が全体の約6割を占めました。ドイツは冬になると日照時間が短く寒いため、主な訪問先としてはイタリアやスペインなど近隣諸国のビーチリゾートに出かける人が多いですね。欧州近郊への旅行では1週間未満の滞在型パッケージ商品が数多く販売されていますから、こうした商品を購入される方が多いです。

それに対して日本への旅行はFIT(海外個人旅行)の割合が多くなります。滞在期間が長期になるため、パッケージ化すると価格が高くなってしまうという理由があるのではないでしょうか。FIT客の場合は、航空券、宿泊、JRパス(ジャパン・レール・パス)をドイツ国内で手配・購入するケースが多いですね。特にJRパスはほとんどの方が購入されています。

―コロナ禍を経て、現在、ドイツの日常生活や旅行はどうなっているでしょうか?

ドイツでは公共交通機関やパブリックな施設内ではマスク着用が義務になっているものの、他の欧州諸国同様にコロナ前の日常生活が戻ってきています。国内旅行では、コロナ禍の2020年はキャンピングカーを使った国内旅行がブームになりましたが、2021年になると、海外旅行が 63%、国内旅行が37%と、海外旅行の機運が再び高まっています。

―ドイツの海外旅行者における日本の位置づけについて教えてください。

2019年に「ドイツ人はどれくらいロングホールの旅行をしているか」を聞いた調査があり、ここでのロングホールとは7時間以上のフライトになるのですが、海外旅行者に占める割合はわずか8.4%と少数です。その中で上位を占めるのは北米とビーチリゾートが人気の東南アジアが圧倒的で、東アジアはわずか4%。その4%の中に日本がいるという状況です。

ただ、訪日客数は、JNTOがインバウンドの取組を積極的に開始した2012年には10.8 万人でしたが、その後は毎年10〜15%ぐらいのペースで増加し、2019年には過去最高の23.7 万人を記録しています。

ドイツ国内では、5年ほど前から日本に関する情報が少しずつ増えてきていると実感しています。漫画やアニメなどのコンテンツはとても人気が高く、若者向けのコスプレイベントなども数多く開催されています。また、日本食を提供する店も増えています。メディアでも、日本をテーマにした特集などを目にする機会が増えました。

ドイツ人は旅行を計画する際に、きちんと情報を集め、じっくり検討してから行動に移すという傾向があります。このように日本に関する情報が増えてきたことで、「旅行先としての日本」への関心も高まっていくことでしょう。今後は日本への旅行を検討される方が、よりいっそう増えていくと考えています。

ドイツ人の訪日旅行の基本は「ゴールデンルート+α」

―現在、日本を訪れるドイツ人は、どの地域を訪れているのでしょうか?

ドイツ人訪日客の7割が「初めて日本を訪れる人」です。そのため、東京、箱根、京都のゴールデンルートを巡るパッケージツアーが基本で、これに「+広島」や「+長野」というコースを選択する人が多いというのが現状です。このため、私たちは日本の地方にある多彩なデスティネーションの情報を発信して、リピーターを増やすと同時に、地方への誘客を促すよう努めています。

地方への誘客という点においては、現状ではいかにして「ゴールデンルート+α」の「α」になれるかが重要です。その意味では「なぜ、敢えてゴールデンルート以外に、その場所を訪れる価値があるのか」という「目的」に加え、「どうやったらそこへ行けるのか」という「手段」を明確にすることが大切です。

また、ドイツの旅行会社の方は「日本の鉄道ルートはすごく分かりやすい」と言っています。エリアごとの連携によってその土地の魅力を発信し、同時に「ゴールデンルートから、この鉄道を使って〇時間で到着できる」などのきめ細かな情報提供を行うことによって、誘客の可能性は高まっていくと思います。

―ドイツの方々に人気の観光スタイルには、どのような特徴があるでしょうか?

ドイツ人は普段の週末でも、近所で散歩や森林浴、ハイキングなどのアウトドアアクティビティを楽しむ人が多いです。旅行においても同様の傾向が見られます。2022年の1月に、ドイツの調査会社が「ドイツ人が海外旅行に何を求めているか?」というレポートを発表しているのですが、上位に挙がったのが、「リラクゼーション」「太陽」「自然体験」「アウトドア」「自分へのご褒美」などでした。

ただ、訪日旅行について言えば、「10時間以上かけて日本を訪れる」ということ自体がドイツ人にとっては特別なことですから、国内や欧州近郊でもできるようなことを日本に求めているわけではないと思います。コロナ前のある調査で、「ドイツ人が訪日時に求めるものは何か?」という質問に対する回答で上位に挙がったのは「日本食」「日本の歴史」「伝統文化体験」「自然・景勝地」などでした。

―ドイツ人はアウトドア好き、というお話がありましたが、「アドベンチャー・ツーリズム」は、どのように受け入れられているでしょうか?

多くのドイツ人は、そもそも「アドベンチャー・ツーリズム」という概念ではなく、もっと日常的な楽しみとしてアウトドアアクティビティを楽しんでおられる方が多いように感じます。何をもってアドベンチャーと感じるかは年齢層によっても異なりますが、たとえば50代以上の方々にとっては、「中山道の古い町並みを3時間かけて楽しむ」ことも立派なアドベンチャーです。本格的なアウトドアアクティビティを楽しみたいという人は、リピーター、あるいは「コアなアウトドア愛好者」なのではないでしょうか。

ドイツ人には、中山道がとても人気があるのですが、その理由を考えてみると、「自分たちが好きなトレッキングの世界と、日本らしい古い街並みが一緒にあり、そして途中の休憩所などで地元の人々との交流も楽しめる」ところだと思います。もともと好きなものにプラスして「日本らしさ」がある点が強みとなるのですから、例えば北アルプスの山を訪れる旅行商品を企画するなら、「トレッキング+温泉+松本城」などの組み合わせが、ドイツ人にとって魅力的なポイントとなるのだと思います。

[画像:JNTOフランクフルト事務所インタビュー]

ドイツ語ウェブサイトでのアドベンチャー情報発信

―ドイツからの旅行客を受け入れるにあたって、受入地域が注意すべきことがあれば教えてください。

注意すべきこととしては、サステナビリティへの配慮です。ドイツの調査会社が行った「海外旅行に求めるものは?」というアンケート結果で、「リラクゼーション」や「健康に良いこと」と並んで多かった回答が「サステナビリティ」です。ドイツ人は日本人が考える以上に、環境問題を自分ごととして深刻な問題として捉えている人が多いのです。

具体的には「環境にやさしい手段での旅行」や「地域社会に負担をかけず、経済的な貢献をする旅行」を望む旅行者が増えています。例えば、宿泊施設は環境認証を受けている施設を選ぶ、またフライト予約の際には、カーボンオフセットができるフライトを選ぶ人が多いです。カーボンオフセットとは、そのフライトによって発生するCO2排出量を、森林再生プロジェクトの支援や、バイオ燃料事業への投資などによって相殺するものです。料金は多少高くても、「よりよく選ぶ」意思を明らかにすることを重視する人が多いです。また、訪問先では文化や伝統を継承しているコンテンツや、自然保護や生態系保護の観察なども好まれる傾向にあります。

環境への意識の高さは食事においても同様です。ドイツ国民に占めるベジタリアン、ヴィーガンの割合は約10%と欧州の中でもトップクラスです。また、特にベジタリアンやヴィーガンでなくても、「環境に配慮して牛肉は週に一度しか食べない」という人は珍しくありません。これは単に環境に対する意識が高いといったレベルではなく、環境問題を自分事として捉えている証なのです。

今年の夏に「ドイツ旅行会社による訪日市場セミナー」を開催した際に、旅行会社の方からは、「日本のホテルはサステナビリティの取組に関する情報が少ない」という話を聞きました。海外では、サステナブル認証を受けたホテルは、ホテルのウェブサイトに記載されているのが一般的ですが、日本ではそうした表示がないので、選ぶ際の判断基準が少ないということですね。

また、受入側の取組に対しても疑問の声が上がっています。前述したドイツ旅行会社の方は「日本のホテルを訪れた際、歯ブラシなどのプラスチック製アメニティが豊富に揃っていて、それらがすべて使い捨てだと知って驚いた」と話していました。このあたりの認識は改める必要があると思います。

[画像:JNTOフランクフルト事務所インタビュー]

旅行会社によるプレゼンテーションの一事例。
サステナビリティについて社会的、環境的、経済的な側面から様々な要素を組み込んだモデルで取組を行っている
(「ドイツ旅行会社による訪日市場セミナー」内資料から抜粋)
https://www.youtube.com/watch?v=yu6ayKgobxA

新たなアプローチで「日本ファン」を増やす

―フランクフルト事務所では現在、どのようなテーマに注力しているのでしょうか?

BtoCでは、新たな「日本ファン」の創出に力を入れています。アウトドア好きなドイツ人向けに、日本がいかに魅力的なアウトドアフィールドであるかを伝えるため、アウトドアアクティビティに関するコンテンツの拡充に力を入れています。

ひとつは、2022年10月から2023年2月までヨーロッパ各地で開催される、欧州最大規模のアウトドアフィルム・フェスティバル『EUROPEAN OUTDOOR FILM TOUR』への広告出稿です。この映画祭は、世界各国からハイクオリティなアウトドアフィルムが一堂に会するもので、ヨーロッパでは約400の会場すべてが満員となるほど人気の高いイベントです。JNTOでは今回初めてスポンサーになりました。日本の美しい自然の中でカヌーやトレッキングを楽しむ姿、パウダースノーの中でスキーを楽しむ姿に加え、日本の祭りの映像などを交えて30秒のCM映像を制作し、映画祭のスクリーンで上映しています。

二つめは、「アウトドアアクティビティを紹介する冊子」の制作です。冬の北海道のタンチョウ観察、中山道のトレッキング、しまなみ海道のサイクリングなど、全国各地の魅力的なアウトドアアクティビティを、体験記のようなストーリー仕立てにして紹介します。ドイツ人は活字を読むことを好む国民なので、じっくりと読んで、旅行情報として役立てていただこうという狙いです。

さらに、フランクフルト事務所としては初めて、スキー旅行をテーマとしたファムトリップを開催します。ドイツ人にとってスキーはポピュラーなスポーツで、普段は近郊で楽しむ方が多いのですが、やはり「パウダースノーは特別」と感じているようです。そこで、スキーを専門に取り扱う旅行会社の方に、日本のパウダースノーのすばらしさを体験していただき、誘客につなげようというものです。

また、現在(2022年)はW杯カタール大会が開催されていますが、新たな試みとしてドイツのプロサッカーリーグ ・ブンデスリーガ 1部に属するアイントラハト・フランクフルトと連携し、11月の日本遠征『ブンデスリーガジャパンツアー2022』を契機とした訪日旅行推進のためのパートナーシップ事業を展開しました。フランクフルトは、日本の長谷部誠選手、鎌田大地選手が所属するチームです。具体的には、長谷部選手とチームメイトによる日本旅行に関する対談、訪日時の動画撮影・配信のほか、フランクフルト側のSNSやブンデスリーガ公式戦でのスタジアムプロモーションなどを通じて、ドイツ市場における効果的な情報発信を行いました。ドイツは国民の6割以上がサッカーに高い関心を寄せているという調査結果もあることから、サッカーを通じて日本の魅力を発信し、日本を身近に感じてもらう入り口とする企画です。

BtoBでは、各種招請の他、マッチング機会の創出に注力しています。2023年3月に開催される『ITB BERLIN』に、日本ブースを設置する予定です。来年度以降も地方自治体やセラーの方々を対象に共同出展を募集していきますので、ぜひご検討いただければと思います。

[画像:JNTOフランクフルト事務所インタビュー]

【左】アウトドア冊子『Japan – Outdoormagazin』【右】ITB Berlin 2019の様子

―コロナ禍を経た現在、一般消費者や旅行会社からの問い合わせ状況はいかがでしょうか?

2022年6月10日に訪日外国人観光客の受入が再開されて以降、一般消費者からの問い合わせは確実に増えました。具体的には「自分はいつ行けるのか?」「しろまる月の航空券を持っているんだけど、その時はどうなっているのか?」「ビザの申請など、日本に行くためにはどうしたらいいのか?」などの問い合わせが相次いでいて、私たちもその対応に追われる毎日でした。現在は、具体的な旅行手段や訪問先についての問い合わせにシフトしました。オンラインで日本の旅行パンフレットを請求できるサービスも提供しているのですが、こちらも問い合わせが殺到していてパンク寸前の状態です。旅行会社も販売を再開していますが、消費者からの反応は非常にいいと聞いています。

―最後に、ドイツからの訪日客誘致を検討している自治体・DMOの方々に向けてメッセージをお願いします。

ドイツ市場をメインで取り扱われている自治体・DMOはまだ限られていると思いますが、ドイツは世界屈指の旅行大国です。ドイツ人にとって旅行は「人生に欠かせない楽しみ」なのです。そのため、ポストコロナの現在においても、自然体験、リラクゼーション、アクティビティを求めて次の旅行を計画されている方が多い国です。現在はウクライナ危機の影響もあって近隣諸国に旅行される方が多いですが、日本のファンは確実に存在し、「いつか行ってみたい国」としてバケットリストに入れている人が多いです。

今後、フランクフルト事務所としては、BtoC向けはもちろん、自治体・DMO向けのBtoBの交流機会も積極的に設けていきたいと思っています。こうした私たちの情報発信や、皆さまとの交流の場を通じて、一人でも多くのドイツ人に日本各地の魅力を知ってもらいたいと思っています。ぜひ、ドイツ市場をターゲットに加えていただきたいと思います。

[画像:JNTOフランクフルト事務所インタビュー]

(後列左から)神吉次長、Lukas Brehm、Bettina Kraemer、居石上席次長
(前列左から)Angela Troisi、臼井所長、鶴木氏

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