コーランを初めてポルトガル語に訳したエジプト出身の教授
2012年08月02日 up
ブラジルでコーランを初めてアラビア語からポルトガル語に訳したヘルミ・ナスル氏
1500年にポルトガル人カブラル一行がブラジルに到着して以降、ブラジルは先住民をはじめ、世界各国からの移民が発展させてきたという歴史があります。
1822年のブラジル独立までは、イベリア半島を中心とした西欧からの人々が、ブラジルに移住したり出入りしていました。ブラジル独立直前の1819年からは、公式移民の第一号としてスイス人移民が到着したのを皮切りに、世界各国からの移民がブラジルに渡ってきました。ブラジル地理統計院(IBGE)のデータでは、1820年から1975年に世界中から560万人以上がブラジルに移民したという記録があります。
今日、ブラジルが世界最大の日系コミュニティーを擁するように、アラブ系コミュニティーも世界最大規模となっています。日系移民の子孫は現在約150万人といわれていますが、アラブ移民の子孫は約1500万人といわれています。
コーランのポルトガル語とアラビア語の対訳書
アラブ移民といっても、ブラジルのアラブ移民の出身国はレバノンやシリアが突出しています。ブラジル生まれのレバノン人といえば、代表的な日本での有名人はカルロス・ゴーン氏です。レバノン移民の子孫が約800万から1000万人といわれ、残りの大半がシリア移民の子孫、そしてごく少数のパレスチナ人、エジプト人、モロッコ人などがいるといわれます。
ブラジルに移民したレバノンやシリアからのアラブ移民は大半がキリスト教徒です。例えば、レバノン系移民の子孫は9割がキリスト教徒、1割がイスラム教徒ということです。
現在、出身国を問わず、ブラジルのイスラム教徒は約100万人と推定されているようです(ブラジルの人口は約1億8000万人)。興味深いことに、現在のブラジルに120あるというメスキータ(イスラム寺院)の多くに、エジプト人のシェイク(カトリックの神父のような存在)が就任しているということです。
イスラム教といえば、聖典はコーランです。コーランの原典はアラビア語です。ブラジルでもコーランの教えを知ってもらうため、そして、ポルトガル語しか分からないイスラム教徒のために、一念発起してブラジルでコーランをアラビア語からポルトガル語に翻訳したエジプト出身の大学教授がいます。ヘルミ・ナスル氏(87歳)です。
今回、ナスル氏にお話を伺う機会を得ました。日本人とも交流したことがあるナスル氏が最も好んで使う日本語は「おかげさまで」。同席したエジプト出身のご友人の勧めで、十勝毎日新聞社の名刺を持って写真のポーズも取っていただけました!!
十勝毎日新聞社の名刺を持って写真撮影に応じてくれたヘルミ・ナスル氏
エジプト生まれのナスル氏はカイロ大学で哲学を専攻して卒業後、博士号を収得するためにフランスの大学で3年間勉強していたそうです。ところが、1956年にエジプトとフランスやイギリスの間で勃発したスエズ戦争(第二次中東戦争)のために、エジプトに強制帰国させられました。
公用語のアラビア語の他、英語、フランス語にも堪能でもあるということで、1960年にブラジル政府からサンパウロ大学の哲学科の教授として招かれ、1962年にブラジルに渡り、以後30年、哲学やアラビア語の教授としてご活躍されました。
ポルトガル語が公用語のブラジルでもその優秀さが認められ、ナスル氏の人生をかけての一大事業となるコーランの翻訳に取り組み始めたのが1984年のことだそうです。
ナスル氏はコーランの翻訳を終えるまで4年間、家からほとんど外に出ることなく仕事に没頭したということです。翻訳を終えたコーランは、さらに1989年から15年の歳月を費やしてサウジアラビアの国王直属の研究機関で特別編成チームを組織して入念な検査が行われたそうです。そして、2004年にサウジアラビアで42000部が印刷され、ブラジルのサウジアラビア大使館からブラジルの人々に無料で配布されたということです。
公式にアラビア語からポルトガル語に訳されたコーランはナスル氏の訳書が世界で第一号です。現在、コーランは世界42ヵ国語の翻訳書があるそうです。
ナスル氏は87歳の今も、ブラジル・アラブ・商工会議所の副会頭を務められるなど、元気でブラジルとエジプトやアラブ諸国の友好親善に努められています。
ポルトガル語とアラビア語のコーランの中表紙
サウジアラビアが発行したナスル氏の翻訳したポルトガル語とアラビア語のコーランの対訳書
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