真の芸術は「自分の世界」で創られるもの
2011年03月29日 up
この度、帯広でエッシャー展が開催されるとのこと、私はマウリッツ・エッシャーについてはほとんど知識がありませんでしたが、調べてみたところ興味深い事実が判明しました。
私が今の歌い手としての生活に影響を受けたソプラノ歌手の一人であるErna Sack(エルナ・ザック)とエッシャーが、生没年ともに全く同じ(1898-1972)であること、ザックはドイツ、エッシャーはオランダの出身ですが、両国とも言語的にも文化的にも似ている部分があり、同じ時代を生きた芸術家として、何かしらの共通点があるように思えました。
私が持っているエルナ・ザックのCDの一部。エルナ・ザックはハイCの1オクターブ上(有名なオペラアリア「魔笛の夜の女王のアリア」の最高音ハイFより更に半オクターブ上)までの声域を持つコロラトゥーラ・ソプラノとして名が知られましたが、当初メゾとして勉強していたこともあり、中〜低音域の声も力強くしっかり出ています。同じ驚異的な高音を持つコロラトゥーラ・ソプラノとしてはフランスのMado Robin(マド・ロバン; 1918-1960)が有名ですが、彼女は典型的なコロラトゥーラの声質、両者を聴き比べてみることがお勧めです。私はこの2人のCDをよく聴いています
エッシャーの描いた多くの絵を見て思ったこと、どの絵も技巧的に見事なことは、美術に関しては素人の私でも絶賛するばかりでしたが、「自分の世界」を大切にしているのが良く伝わるということ、ザックの音楽もその点では完全に一致しているように思いました。
エッシャーの絵画は数学の要素も組み込まれているそうですが、馬や鳥の絵が白黒で2次元の世界に少しの空間も残さずに描かれていたりするのを見ると、数学的に計算されているのがわかります。
数学を絵画に交えるとは多くの人は想像もつかないことでしょうが、それがエッシャーの持っていた独自の「自分の世界」で、誰もが真似できない個性的な作品を世に送り出したのだと思います。
数学的要因をつかさどる「左脳」と、豊かな創造力をつかさどる「右脳」の協同作業といったところでしょうか。
一方、エルナ・ザックの音楽も、どの曲を聴いていても見事!と思うのですが、「声楽とはこういうもの」という型にはまらず「自分の世界」で「音符に色塗り」をしているのがよく伝わります。
その驚異的な声域を活かして普通は考えつかないようなカデンツァをつけたり、個性的な歌いまわしからも、聴く方の感性によっては「一般の声楽とは少し異次元の音楽」を聴いているように感じるかもしれません。
これはザックが「自分の世界」で歌という芸術の真髄を創り上げようとしていた証と思います。
残念ながら、全ての芸術家と名乗る方々が「自分の世界」で作品を創り上げているとは言えないのが現実。
コンクールで入賞するため、有名になりお金をもらうため、といった目的が先にたち、何か(主に世間体?)に歩み寄るように自分の個性を犠牲にしてしまっている芸術家も、中には存在するように思います。世間に耳を傾けることで万人受けする作品にはなるのかもしれませんが、それでは芸術の持つ本来の意味からは徐々にかけ離れてしまっていますね。
エッシャーの絵にしても、ザックの歌にしても、共通してその点を全く感じさせるところがなく、「自分の世界」の中で「真の芸術」を表現していることに非常に好感が持てます。
もし将来ヨーテボリでもエッシャー展が開催されることがありましたら、是非とも観に行きたいと思っております。
レポーター「山本 グィスラソン 由佳」の最近の記事
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