【鉄鋼業界決断の時】(01) 「愕然とした」

"鉄冷え"の再来と、脱炭素政策に喘ぐ鉄鋼業。その最前線を追う。

20210429 02
先月5日午前10時過ぎ、『日本製鉄』本社14階。取締役会で社長の橋本英二は問いかけた。「ご質問があれば頂戴したい」。居並ぶ取締役17人に示したのは、2025年度までの経営計画。橋本の落ち着いた様子とは対照的に、内容は大胆だった。東日本製鉄所鹿島地区(茨城県鹿嶋市)では基幹設備の高炉を1基休止。他の拠点と合わせ、生産能力を2割減らし、協力会社を含め1万人規模を合理化する。経営陣には概要を説明してあり、会議は円滑に進んだ。一方、その数時間後に本社9階の会議室で橋本たちから正式に知らされた従業員側への衝撃は大きかった。「驚きを禁じ得ない」。同日中に会社が受け取った労働組合の意見書には、こう記された。無理もない。1年前にも瀬戸内製鉄所呉地区(広島県呉市)の閉鎖等、大規模な合理化を発表。高炉休止を2年続けて決める異例の事態となったからだ。衝撃は製鉄所のお膝元に広がる。「愕然とした。市の人口が更に5000人ほど減ることも覚悟しなければ」。一報に接した鹿嶋市の市長、錦織孝一も項垂れた。日本の近代化を支えた鉄鋼業と、再編を繰り返しながら国内では最大手として君臨し続けた日本製鉄。内需低迷と中韓勢の台頭で、嘗てない苦境に追い込まれている。合理化の予兆はあった。「構造改革を断行する年になる」。1月、橋本は新年の挨拶で社員に危機感を訴えた。4315億円と過去最悪の最終赤字だった2020年3月期に続き、2021年3月期も1200億円の最終赤字を見込む。

特に本丸の国内製鉄事業は厳しい。在庫評価損益を除く真水の単独営業損益は、2020年3月期まで3年連続で赤字だった。以前は単独の損益を知るのは限られた部署のみ。それを橋本は2019年5月に社内に危機感を植え付ける為、初めて公表した。その翌月、本社で1つの部署が本社12階から13階に移った。"生産設備企画"。製鉄所の設備計画を中長期で考える部門だ。同時に、所管は技術を統括する部署から経営企画に移管。生産設備企画と経営企画が連携し、今回の計画を纏めた。日鉄は事務系が経営企画を牛耳る一方、設備計画は技術系や製鉄所に任せる傾向が強かった。「(自分は企画部門で)珍しがられている」。2019年4月に名古屋製鉄所(愛知県東海市)所長から経営企画担当の常務執行役員に就いた今井正も当初、そう感じる程に組織の壁は厚かった。結果として両者の情報共有は遅れがちに。現場で目立つのは生産性が落ち、補修費が嵩む設備。その稼働を維持する為に安値で売る悪循環に陥った。今井は「事務だ、技術だといってる時代じゃない」と訴える。『住友金属工業』や『日新製鋼』との統合を重ねた日鉄。各地での設備の老朽化は、操業トラブルという形でも出ていた。「足場が狭く、危ない」。2019年8月初旬、呉の拠点を訪ねた橋本は現場で胸騒ぎを覚えた。直後の8月末、予感は的中する。中核設備で火災が発生。自動車用鋼材の供給に支障が出た。最近では名古屋製鉄所でも火災が起きている。採算改善に向け、余剰設備の集約は予て課題だった。ただ、製鉄所は地域経済の要であり、"鉄は国家なり"との自負もある。アベノミクスで事業環境が好転し、実力値が見え難くなっていた。「作れば売れるとの発想か抜け切れなかった」。旧住金出身で統合後に副社長も務めた本部文雄は嘆く。そこに政府の脱炭素政策が追い打ちをかける。政府は2050年ゼロにむけ、炭素排出に値段をつけるカーボンプライシング(CP)も検討する。今の製鉄法は、石炭を使い、二酸化炭素が多く発生する。その為、CPは日鉄にはコスト増と同じ。「CPは市場を歪める」。橋本は2月に官邸で首相の菅義偉に反対を訴えたが、CP構想が止まる保証はない。技術革新で対応しようにも、切り札の水素製鉄等の実現には4兆〜5兆円かかり、1社で負担できる範囲を超える。内外に強まる逆風に、日鉄の橋本は呟く。「脱炭素の競争にも遅れたら、日本の鉄鋼業は存亡の危機に陥る」。《敬称略》


キャプチャ 2021年4月5日付掲載

テーマ : 経済ニュース
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  • 2021年04月29日(01:21:23) :
  • 経済 :
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