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【内田雅也の追球】組織に必要な「哲学」

[ 2024年11月25日 08:00 ]

若林忠志が編集・発行した雑誌『ボールフレンド』(左)と新聞『少年タイガース』の各創刊号
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稲盛和夫は「経営には哲学(フィロソフィ)が必要だ」と説いた。創業者として「京セラフィロソフィ」、再建した日本航空には「JALフィロソフィ」を策定した。

4要素から成る。「規範、規則」「目指すべき目的」「社格を与える」、そして「人間としての正しい生き方、あるべき姿を示す」である。

稲盛は経営の原点として「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する」を掲げていた。稲盛和夫オフィシャルサイトで読める。

では、阪神タイガースにフィロソフィはあるか。「球団の基本姿勢」と題し、球団公式サイトの片隅に掲載されている。「常に立ち返る拠(よ)り所として、球団の使命や将来のあるべき姿を明確に定義」。基本理念として「優れたエンタテインメントで夢・感動・喜びをお届けし、豊かな人生の実現に貢献します」とうたい、スローガンは「最高の夢・感動をファンと分かち合う」だ。

2003年、リッツ・カールトンの価値観、信念を説いた「クレド」を参考に策定された。言葉遣いは変わったが骨子はそのままだ。

プロ野球のあり方を示す立派な姿勢である。これを戦後間もない頃に説いていたのが当時阪神の監督兼投手だった若林忠志である。1947(昭和22)年、戦後初優勝を遂げた時にむなしさを感じたと書き残している。

「同じ勝つでも何でも勝てばいいのではない。人びとに愛されながら勝つことが重要だ」

同じ趣旨の話を今月、阪神球団社長・粟井一夫、本部長・嶌村聡から聞いた。「勝つという目標は当然。そのうえで何ができるか。地域貢献、社会貢献こそ目指す道だ」

若林は誰もが貧しかった当時、身銭を切って慈善活動、ファンサービスに全国を駆け回った。奈良少年刑務所で更正への説話を行い、優勝カップを贈って所内野球大会が開催された。タイガース子供の会(今の公式ファンクラブKIDS)を創設した。雑誌『ボールフレンド』を創刊し、プロ野球のあるべき姿を提唱した。阪神には社会貢献というフィロソフィが当時から根づいていた。

グラウンド外の活動をたたえる阪神・若林忠志賞は、その哲学を象徴する制度と言える。13回目を数えた今年は岩崎優が選ばれた。チーム内に広がり、候補者はまだまだいる。フィロソフィが生きている。 =敬称略= (編集委員)

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