地方衛生研究所におけるHIV確認検査に関するアンケート調査結果
(IASR Vol. 45 p165-166: 2024年10月号)背景と目的
これまで長くHIV確認検査に使用されてきたウエスタンブロット(WB)法試薬が2022年6月末に終売になり, 新たにイムノクロマトグラフィー(IC)法を測定原理とした新しい確認検査試薬(確認IC法)が発売された。そこで全国の保健所で実施されている無料匿名HIV検査の確認検査の実施状況について, 地方衛生研究所と衛生試験所(地衛研)を対象にアンケート調査を実施した。
方 法
地方衛生研究所全国協議会に加盟している全85カ所の地衛研を対象に, 2023年8月21日〜9月27日まで調査を実施した。調査票である記名・自記式のアンケートの電子ファイルは同協議会が運用するメーリングリストを通じて配布した。
結 果
調査期間中にすべての地衛研からメールによる回答を得た。保健所HIV検査の確認検査は, 33カ所(38.8%)の自治体で地衛研が担当していた。また, 3カ所(3.5%)の自治体は地衛研ではなく保健所が確認検査を担当していた。一方, 49カ所(57.6%)の自治体では, 確認検査を民間の臨床検査会社などに外部委託していた(調査時点, ほぼすべての臨床検査会社において確認検査は確認IC法に切り替わっている1))。
以下, 自施設で確認検査を実施している33カ所の地衛研の状況を主に記述する。
抗体確認検査法: 33カ所の地衛研すべてにおいて, 抗体確認検査法としてWB法に替わり確認IC法が用いられていた。
専用読み取り装置の導入状況: 33カ所の地衛研のうち, 納品待ちの1カ所を含む14カ所(42.4%)が確認IC法試薬の専用読み取り装置(リーダー)を入手していた。また1カ所(3.0%)はリースで使用していた。購入を検討している施設が1カ所(3.0%), また購入を希望しているが予算が付かず未入手の施設が2カ所(6.1%)あった。残る15カ所(45.5%)では購入予定はなかった。
確認IC法の結果判定方法: 33カ所の地衛研のうち, 11カ所(33.3%)が結果判定にリーダーのみを使用し, 3カ所(9.1%)がリーダーと目視の両方により総合的に判定していた。また, 調査時点でリーダーの納品待ちであった1カ所を含む19カ所(57.6%)が目視のみで結果を判定していた。委託先のすべての臨床検査会社がリーダーのみを使用していると仮定すると, 地衛研設置自治体全85カ所中, 60カ所(70.6%)がリーダーのみで結果を判定していることになる(図)。
判定困難事例の経験: 33カ所の地衛研のうち, 試薬デバイスの不具合やリーダーで判定保留となる, などといった検査結果の判定が困難な事例を5カ所(15.2%)が経験していた。
追加スクリーニング検査の実施: 33カ所の地衛研のうち, 14カ所(42.4%)が搬入されたスクリーニング検査陽性検体に対し, 確認検査実施前に追加スクリーニング検査を実施していた。その方法の内訳は, ゼラチン粒子凝集(particle agglutination methods: PA)法3カ所, IC法2カ所, 酵素免疫(enzyme immunoassay: EIA)法8カ所, PA法とEIA法の両方実施が1カ所であった。
核酸増幅検査の実施: 33カ所の地衛研のうち, 22カ所(66.7%)がHIV-1の核酸増幅検査(NAT)を実施していた。また4カ所が導入を検討中であった。
考 察
全国の自治体が保健所等で実施する無料匿名HIV検査における確認検査は, すべて確認IC法に切り替わっていた。一方, 確認検査の外部委託が進み, 確認検査を実施している地衛研は4割程度にまで減少していた。またリーダーを導入している施設は, 確認検査を実施している地衛研の半数以下であった。近年, HIV-2陽性例が国内で散発的に報告されていること2), HIV-1とHIV-2の鑑別にリーダーが有用であること2)から, リーダーのさらなる普及が望まれる。
確認検査を実施している地衛研の3分の2以上がNATを導入し, さらに12%が導入を検討していた。現在HIV-1のP24抗原を検出可能な第四世代スクリーニング検査法が普及しており, 確認検査で抗体陰性の場合, NATの実施が推奨されている3)。地衛研におけるHIV-1 NATのさらなる普及が期待される。
本調査は, 厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策政策研究事業「HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究」により実施した。
謝辞: 本調査にご協力くださいましたすべての地方衛生研究所および衛生試験所のHIV確認検査・ウイルス検査担当の皆様に深謝いたします。
参考文献
- 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究, 「HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究」令和5(2023)年度 総括・分担研究報告書
- 草川 茂ら, IASR 44: 157-158, 2023
- 日本エイズ学会・日本臨床検査医学会, 診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン2020版, 2020
川畑拓也 阪野文哉 浜 みなみ
東京都健康安全研究センター
長島真美 河上麻美代 貞升健志
神奈川県衛生研究所
佐野貴子
株式会社ハナ・メディテック
加藤眞吾 須藤弘二 近藤真規子
東京都立駒込病院
今村顕史