国立感染症研究所 実地疫学研究センター
感染症疫学センター
2024年4月15日現在
(掲載日:2024年10月23日)
薬剤耐性アシネトバクター感染症は、広域β-ラクタム剤、アミノ配糖体、フルオロキノロン系統の薬剤に対して耐性を示すアシネトバクター属菌(Multidrug-resistant Acinetobacter spp.: MDRA)による感染症である。薬剤耐性アシネトバクター感染症は、2011年2月から感染症法における五類感染症定点把握疾患に、2014年9月19日からは五類感染症全数把握疾患となった。薬剤耐性アシネトバクター感染症の届出対象となる症例は、症状や所見から薬剤耐性アシネトバクター感染症が疑われ、届出基準に規定された検査材料、検査方法により薬剤耐性アシネトバクター感染症と診断された症例であり、臨床症状を示さず薬剤耐性アシネトバクターを保菌しているだけの者は届出の対象外となっている(届出基準、届出票についてはhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-140912-4.html参照)。なお、感染症法に基づく届出の基準として示された薬剤耐性アシネトバクターの判定基準値は、病院で用いられている判定基準値と異なることがある(文末参考)。
2023年1月5日現在、2022年疫学週第1週〜第52週(2022年1月3日〜2023年1月1日)に薬剤耐性アシネトバクター感染症と診断され、報告された症例は13例であった(図1)。年間報告数は、全数把握疾患となり初めて年間の症例数を把握できるようになった2015年の38例が最も多く、その後は毎年減少、2021年は6例になったが、2022年は13例であった。届出時点の死亡例はなかった。性別は男性が8例(62%)、診断時年齢の中央値は59歳(範囲17-91歳)であった(図2)。2022年の70歳以上の症例の割合は46%であり、概ね50%台で推移していた2019年以前と同様であった。
2022年の届出時点の診断名*は、肺炎が7例(54%)と最も多く(表1)、菌が分離された検体は喀痰が6例(46%)と最も多かった(表2)。これらの割合は、概ね50%前後で推移していた2020年以前と同様であった。報告は、8都道府県、11医療機関からあり、千葉県が3例(23%)、東京都、神奈川県、香川県が各2例(15%)、埼玉県、京都府、沖縄県から各1例(8%)あり、香川県からの届出は2014年に全数把握疾患となって以来、初めてであった。全数把握開始以降、34都道府県から報告があり、東京都(32例)、埼玉県(28例)、千葉県(17例)、神奈川県(16例)の順に多く報告されていた。推定感染地域を国外とした症例は毎年、3例程度認めていたが、2022年は1例(中華人民共和国)であった。