現行の季節性インフルエンザワクチンは、ワクチン原株として選ばれたウイルスを鶏卵で継代して製造している。そのため、継代の間に、ウイルスが鶏卵に馴化することでアミノ酸置換が起こり、抗原性が変化(抗原変異)することがある。その結果、流行株とワクチン製造株の抗原性が一致しなくなる場合があり、世界的に問題となっている。
2017/2018シーズン抗原性解析結果
A(H1N1)pdm09 : 解析した全ての A(H1N1)pdm09 流行株が、WHOのワクチン推奨株であるA/ミシガン/45/2015(細胞分離株)、および国内のワクチン製造株で、A/ミシガン/45/2015と抗原的に類似しているA/シンガポール/GP1908/2015(ワクチン製造株)と抗原性が類似していた(図1)
A(H3N2) : 2017年9月以降の分離株の約8割は、2017/18シーズンワクチンA/香港/4801/2014株に類似の抗原性を示すA/香港/7127/2014細胞分離株と抗原的に類似していた。細胞分離の参照株として、A/香港/7127/2014細胞分離株を用いたのは、A/香港/4801/2014株よりもA/香港/7127/2014株のほうが安定した結果が得られたためである。一方で、分離株の9割以上が国内ワクチン製造株であるA/香港/4801/2014(X-263)に対する抗血清との反応性低下が認められ、ワクチン抗原と流行株の抗原性相違が推定される。これは鶏卵での増殖能獲得過程で鶏卵馴化に伴い、元株からの抗原性変化が生じたことに起因している(図2 )。
B(ビクトリア系統) : 解析数は少ないが、2017年9月以降の流行株は、ワクチン株B/テキサス/2/2012(細胞分離株およびワクチン製造株)と抗原性が類似していた(図3)。
A(H1N1)pdm09:解析した株は全てHA遺伝子系統樹上のクレード6B.1(共通アミノ酸置換:S84N, S162N, I216T)内のS74R, I295V群に属していた(図1)。ほとんどのウイルスはS74R, I295V群内に分岐したS164T群に属した。さらに、S164T群にはP137S, I267T, I372L群、L161I, I404M群、S183P群など複数の集団が形成されている。NAタンパク質にH275Y置換を有するオセルタミビル耐性株は散発的に検出されているが、耐性株の流行は確認されていない。
A(H3N2):最近の流行株はHA遺伝子系統樹上のサブクレード3C.2a(L3I, N144S, F159Y, K160T, Q311H, D489N、代表株:A/Hong Kong/4801/2014)に属している(図2)。3C.2a内にはサブクレード3C.2a1(N171K, I406V, G484E、代表株:A/Singapore/INFIMH-16-0019/2016)、3C.2a2(T131K, R142K, R261Q)、3C.2a3(N121K, S144K)、3C.2a4(N31S, D53N, R142G, S144R, N171K, I192T, Q197H)が形成されている。3C.2a1はさらに、3C.2a1a(N121K, G479E, T135K, N122D)、3C.2a1b(N121K, K92R, H311Q)に分かれている。また、3C.2a1b内には3C.2a1b+135K(E62G, R142G, T135K)および3C.2a1b+135N(T135N)が、3C.2a2内にはA212T群が形成されており、遺伝子的に多様化が進んでいる。国内においては1月以降3C.2a2に属するウイルスの割合が多い。
B (ビクトリア系統):解析した株は全て、HA遺伝子系統樹上のクレード1A(共通アミノ酸置換N75L、N165K, S172P、代表株:B/Brisbane/60/2008、B/Texas/02/2013)内の、N129D, I117V, V146Iを有する集団に属していた(図3)。その中で複数の群が形成されており、遺伝子的には多様化が進んでいる。なお、北米を中心に海外から報告されている抗原性変異株のサブクレード1A.1[共通アミノ酸置換I180V, R498Kおよび2アミノ酸欠損(162, 163)、代表株:A/Maryland/15/2016]、サブクレード1A.2(香港で最初に検出された抗原性変異株[共通アミノ酸置換K209N, I180Tおよび3アミノ酸欠損(162, 163, 164)]およびラオスで検出された抗原性変異株[3アミノ酸欠損(162, 163, 164)])、および中国を中心に報告されている抗原性変異株[2アミノ酸置換:K165N, T221I]の今後の流行が注目される。世界的には、2月以降では2アミノ酸欠損をもつ1A.1に属するウイルスの割合が多い。現在までに日本ではサブクレード1A.1が3株、2アミノ酸置換に属する抗原性変異株が1株、検出されている。
B (山形系統):解析株は全て、HA遺伝子系統樹上のクレード3(共通アミノ酸置換S150I, N165Y, N202S, S229D)内でB/Phuket/3073/2013株を代表とする群(共通アミノ酸置換N116K, K298E, E312K)内のL172Q, M251V群に属した(図4)。また、共通アミノ酸を持たない集団も多く形成されており、遺伝子的に多様化が進んでいる。