国立感染症研究所(感染研)では、国内で流行するインフルエンザウイルスの性状を把握し、インフルエンザ対策およびワクチン株選定に役立てるため、全国地方衛生研究所(地研)で分離・同定されたウイルス株総数の約10%を無作為に抽出し、解析を行っている。
現行の季節性インフルエンザワクチンは、ワクチン原株として選ばれたウイルスを鶏卵で継代して製造している。そのため、継代の間に、ウイルスが鶏卵に馴化することでアミノ酸置換が起こり、抗原性が変化(抗原変異)することがある。その結果、流行株とワクチン製造株の抗原性が一致しなくなる場合があり、世界的に問題となっている。
2024/2025シーズン抗原性解析結果 (データ更新日:2024年 12月24日)NEW
A(H1N1)pdm09 (図1)
2024年9月以降に分離された国内の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した全ての株が、2024/25シーズンのWHOのワクチン推奨株である細胞分離A/ウィスコンシン/67/2022株および卵分離A/ビクトリア/4897/2022株に対するフェレット感染血清とよく反応した。
2024年2月から8月までに分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した多くの株が、2024/25シーズンのWHOのワクチン推奨株である細胞分離A/ウィスコンシン/67/2022株および卵分離A/ビクトリア/4897/2022株に対するフェレット感染血清とよく反応した。
A(H3N2)(図2)
2024年9月以降に分離された国内の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した全ての株は、2024/25シーズンのWHOのワクチン推奨株である細胞分離A/マサチューセッツ/18/2022株と卵分離A/タイ/8/2022株に対するフェレット感染血清とよく反応した。
2023年2月から8月までに分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した多くの株は、2024/25シーズンのWHOのワクチン推奨株である細胞分離A/マサチューセッツ/18/2022株と卵分離A/タイ/8/2022株に対するフェレット感染血清とよく反応した。
B(ビクトリア系統)(図3)
2024年9月以降に分離された国内の流行株2株について抗原性解析を実施したところ、解析した2株とも、2024/25シーズンのWHOのワクチン推奨株であるB/オーストリア/1359417/2021(細胞および卵分離株)に対するフェレット感染血清とよく反応した。
2023年2月から8月までに分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した全ての株が、2024/25シーズンのWHOのワクチン推奨株であるB/オーストリア/1359417/2021(細胞および卵分離株)に対するフェレット感染血清とよく反応した。
B(山形系統)
2020年3月以降、自然界で流行している山形系統の株は検出されておらず、解析されていない。
インフルエンザウイルスは、A(H1N1)pdm09、A(H3N2)、B Victoriaいずれも遺伝子的に多様化が進んでおり、HA遺伝子系統樹内の集団に対しクレード名が付けられている。近年このクレード名が複雑化しているため命名法の変更がWHOにて検討されている[参考: influenza-clade-nomenclature(https://github.com/influenza-clade-nomenclature)]。本稿では、従来のクレード名と新クレード名を併記している。なお、クレード名は流行ウイルスの変化に合わせて追加・変更されるため必要に応じ上記リンク先にて確認することをお勧めする。
A(H1N1)pdm09(図1)
最近の流行株はHA遺伝子系統樹の6B.1A.5a.2a (略名: 5a.2a = 新クレード名C.1)(K54Q, A186T, Q189E, K308R)または5a.2a.1 (P137S, K142R) (= C.1.1) (代表株A/Wisconsin/67/2022)に属している。C.1 (5a.2a)内には、サブクレードC.1.7.2 (K142R)、C.1.8 (V47I, T120A)、C.1.9 (T120A, K169Q)などが派生している。またC.1.1内にはサブクレードD (T216A) (代表株A/Victoria/4897/2022)、D.1 (R45K)、D.2 (R113K)、D.3 (T120A)、D.5 (R45K)が派生しており、世界的にはC.1.9、D.2、D.1が主流となっている。2024/2025シーズンの解析株(2024年12月2日時点:62株)のうち95.2%が5a.2a に、4.8%が5a.2a.1に属した。新クレードの分類では、C.1.9 (95.2%)、D.5 (3.2%)、D.1 (1.6%)であった。
A(H3N2)(図2)
最近の流行株は、HA遺伝子系統樹上のクレード3C.2a1b.2a.2 (Y159N, T160I, L164Q, G186D, D190N)(略名: クレード2 = 新クレード名G)に属している。クレード2内ではさらに2a (H156S) (= G.1)、2b (E50K, F79V, I140K) (= G.2)に分岐している。2a内には現在、2a.1b (I140K, R299K) (= G.1.1.2)、2a.3 (D53N, N96S, I192F, N378S) (= G.1.3)、2a.3a (E50K) (= G.1.3.1)、2a.3a.1 (I140K, I223V) (= J)などが分岐している。2a.3a.1 (J)にはさらに、J.1 (I25V, V347M)、J.1.1 (S145N)、J.2 (N122D, K276E)、J.2.1 (F79L, P239S)、J.2.2 (S124N)、J.3 (V505I)などが派生しており、世界的には2a.3a.1 (J)内のJ.1、J.1.1、J.2、J.2.1、J.2.2が主流である。2024/2025シーズンの現時点での解析株(19株)はすべて2a.3a.1であり、新クレードの分類では、J.2 (73.7%)、J.2.2 (21.1%)、J.2.1 (5.3%)であった。
B (ビクトリア系統)(図3)
近年のウイルスは、成熟HAに3アミノ酸欠損をもつクレードV1A.3(162-164アミノ酸欠損、K136E)(新クレード名A.3)に属しており、ほとんどはその中のV1A.3a.2(略名: 3a.2 = C)(A127T、P144L、K203R)に属している。C内にはC.1 (H122Q)、C.3 (E128K, A154E)、C.5 (D197E)などが派生しており、C.5には更にC.5.1 (E183K)、C.5.4 (V117I, E128K, A154T, K326R)、C.5.6 (D129N)、C.5.7 (E183K, E128G)などが派生している。世界的には3a.2 (C)内のC.5.1、C.5.6、C.5.7が主流である。2024/2025シーズンの現時点での解析株(2株)は C.5.6 (50.0%)、C.5.7 (50.0%)であった
B (山形系統)
2020年3月以降、自然界で流行している山形系統の株は検出されておらず、解析されていない。