病原微生物検出情報システムに登録されたエンテロウイルス属及びエコーウイルス11の記述疫学、2018-2024年(2024年11月28日現在)

詳細

感染症疫学センター
地方衛生研究所全国協議会
2024年11月28日現在
(掲載日:2024年12月11日)

エンテロウイルス属は、ピコルナウイルス科に分類される小型の一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。エンベロープを持たず、カプシドと核酸からなる。エンテロウイルス属には、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エコーウイルス、エンテロウイルスが含まれ、さらに60種類以上の血清型に分類される(1)。感染経路は糞口感染や飛沫感染が一般的であるが、垂直感染も報告されている。主な病型としてヘルパンギーナ、手足口病、無菌性髄膜炎、発疹症などがあり、稀に脳炎・脳症、心筋炎、肝炎を起こすことが知られている。

2022年7月から2023年4月にエコーウイルス 11 型(E11)による急性肝不全を伴う敗血症性ショックの9例の新生児例がフランスから報告された(2)。さらにイタリア(3)、スペイン(4)、英国(5)を含むヨーロッパ各国でE11による新生児での死亡例を含む重篤な感染症が報告された(6)。フランスおよびイタリアで報告されたE11は系統樹解析ではD5亜型のnew lineage1としてクラスター化していたが、スペインではnew lineage 1のみならず lineage 2およびlineage 3も検出されており、ゲノムサーベイランスの重要性が指摘された(4)。世界保健機関(WHO) は、欧州諸国における新生児の E11 感染例をうけてリスク評価を行っており、一般住民の公衆衛生上のリスクは低いと評価する一方で、引き続き症例の監視と報告を奨励している(7)。日本においても、エンテロウイルスによる新生児の重症感染症例が、2024年8-11月の4ヶ月間に単一の医療機関から4例(うち3例がE11)が病原微生物検出情報(IASR)に報告された(8)

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づき、届出が規定されている疾患のうちエンテロウイルス属が起因ウイルスとされているものは表1の通りである。地方衛生研究所等において、これらの感染症に対して実施された病原体検査結果は、病原体検出情報システムに登録される。

2018年1月1日から2024年11月28日までに検体が採取され、病原体検出情報システムに登録されたエンテロウイルス属について集計した(2024年11月28日時点)。最も登録が多かったのは2019年で3513件であり、次いで2018年(3094件)、2023年(1879件)であった。COVID-19パンデミックの間は減少した(2020年:343件、2021年:596件、2022年:810件)。2024年は1418例が登録されている。

エンテロウイルス属の診断名別報告数をみると、上位2つが手足口病、ヘルパンギーナであり、それぞれ4541件(39.0%)、1958件(16.8%)であった。検体採取月別では、COVID-19パンデミック期を除くと5―7月に多く(図1)、同疾患の定点当たり報告数が増加する時期と一致している(9)。2024年は手足口病の登録が多く、1418例中860例(60.6%)であった。診断名のうち重篤と考えられるものを抽出すると、髄膜炎や脳炎・脳症が多い。2023年はショックが37件報告された(表2)。肝炎の登録は、2023年が9件、2024年が7件であった。

血清型別では、手足口病の代表的な起因病原体であるコクサッキーウイルスA6, コクサッキーウイルス A16が多かった(図2)。

2018-2024年までのE11の登録数は354件であった(図3)。検体採取月別にみるとエンテロウイルス属でみられたような流行パターンは明瞭ではない。2024年のE11登録数は、2018, 2019年に次いで多く、2024には44件が登録されており、5月以降増加傾向にある(注:2024年10月の登録数は追加登録により増加する可能性があるため、解釈に注意が必要である)。

2018-2024年におけるE11登録例の年齢中央値は1歳、四分位範囲は0〜3.5歳であった。0か月児が37例(10.4%)、1歳未満児が156例(43.9%)であった(表3)。2023年および2024年の0か月児が全体に占める割合は、それぞれ15.4%、13.6%と全体よりも高いが、解釈には、登録数が少ないことや年の途中の集計であり追加報告の可能性があることを考慮する必要がある。性別は2018-2024年では男性が209件(59.0%)と優位であった。2023年および2024年は男性が76.9%、59.1%であり、2023年は特に男性が多かった。

E11における診断名の上位3つは無菌性髄膜炎、感染性胃腸炎、上気道炎であった(図4)。診断名のうち重篤と考えられるものを抽出すると髄膜炎や脳炎・脳症が多い(表4)。肝炎は、2024年に2件が登録されている。

地域別の検証では、登録数の多い2018, 2019, 2024年は、本州のほぼ全ての地方から報告された。2024年は北海道をのぞく東日本からの報告が多い(45%、20/44)。自治体により検体の収集数や検査項目にばらつきがあることから、地域別の評価は慎重に行う必要がある(図5)。

【まとめ】

病原体検出情報システムに登録されたエンテロウイルス属およびE11に関する記述疫学を行った。COVID-19パンデミック前の水準ではないが、2023年は前年の2倍を超えるエンテロウイルス属が登録され、2024年は1418例が登録された。2023年以降も診断名は手足口病が最も多く、重篤と考えられる診断名が増加していなかった。E11は2018、2019年に次いで多い44例が登録されており、直近の提出月を除けば増加傾向にある。年齢分布は0か月児が約1割、1歳未満が約4割を占める。診断名は無菌性髄膜炎、感染性胃腸炎、上気道炎が多く、重症と考えられる診断名では髄膜炎、脳炎・脳症の頻度が高い。また肝炎は2024年に2例が登録されている。地域別年別の登録数をみると、2024年は北海道を除く東日本からの登録が多い。ポリオウイルス以外は届け出例ごとあるいは自治体ごとの病原体検査がなされており、全国的に統一されたエンテロウイルスサーベイランスではないことに注意が必要である。

【謝辞】

全国の地方衛生研究所、保健所、都道府県、医療機関の関係者の方々に深謝いたします。

[参考文献]
  1. 細矢光亮.小児のエンテロウイルス感染症.環境感染誌 2017; 32: 344-354.
  2. Grapin M, Mirand A, Pinquier D, Basset A, Bendavid M, Bisseux M, et al. Severe and fatal neonatal infections linked to a new variant of echovirus 11, France, July 2022 to April 2023. Euro Surveill. European Centre for Disease Prevention and Control; 2023 Jun 1;28(22):2300253.
  3. Piralla A, Borghesi A, Di Comite A, Giardina F, Ferrari G, Zanette S, et al. Fulminant echovirus 11 hepatitis in male non-identical twins in northern Italy, April 2023. Euro Surveill. 2023 Jun 15;28(24):2300289.
  4. Fernandez-Garcia MD, Garcia-Ibañez N, Camacho J, Gutierrez A, Sánchez García L, Calvo C, et al. Enhanced echovirus 11 genomic surveillance in neonatal infections in Spain following a European alert reveals new recombinant forms linked to severe cases, 2019 to 2023. Euro Surveill. 2024 Oct 31;29(44):2400221.
  5. Kadambari S, Abdullahi F, Celma C, Ladhani S. Epidemiological trends in viral meningitis in England: Prospective national surveillance, 2013-2023. J Infect. 2024 Sep 1;89(3):106223.
  6. Epidemiological update: Echovirus 11 infections in neonates [Internet]. European Centre for Disease Prevention and Control. 2023 [cited 2024 Dec 7].
    Available from: https://www.ecdc.europa.eu/en/news-events/epidemiological-update-echovirus-11-infections-neonates
  7. Enterovirus-Echovirus 11 Infection - the European Region [Internet]. [cited 2024 Dec 7].
    Available from: https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON474
  8. エンテロウイルスによる新生児重症感染症 [Internet]. 2024 [cited 2024 Dec 7].
    Available from: https://www.niid.go.jp/niid/ja/entero/entero-iasrs/13018-539p01.html
  9. 感染症発生動向調査週報2024年第27週 [Internet]. 2024 [cited 2024 Dec 10].
    Available from: https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2024/idwr2024-27.pdf

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