HIV/AIDS 2023年
(IASR Vol. 45 p159-161: 2024年10月号)わが国は, 1984年9月にエイズ発生動向調査を開始し, 1989年2月〜1999年3月はエイズ予防法, 1999年4月からは感染症法のもとに施行してきた。診断した医師には全数届出が義務付けられている(届出基準はhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-07.html)。本特集の統計は, 厚生労働省エイズ動向委員会: 令和5(2023)年エイズ発生動向年報に基づいている(同年報は厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課より公表されている;https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html)。
新たにHIV感染症と診断され, 届出された者は, HIV感染者とAIDS患者に分類される(定義は脚注*の通り)。1985〜2023年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)は, HIV感染者24,532(男性21,898, 女性2,634), AIDS患者10,849(男性9,940, 女性909)である(図1)。なお, 「血液凝固異常症全国調査」(2023年5月31日現在)によると, 血液凝固因子製剤による感染者は累積1,440(死亡者745)である。2023年, 世界中で約3,990万人のHIV感染者/AIDS患者がおり, 年間約130万人の新規感染者, 約63万人のAIDS関連疾患による死亡者が出ていると推定されている(UNAIDS FACT SHEET 2023;https://www.unaids.org/en/resources/fact-sheet)。
本邦の2023年のHIV/AIDS報告数
2023年の新規報告数は, HIV感染者669(男性649, 女性20), AIDS患者291(男性282, 女性9)であった(図2)。HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数に占めるAIDS患者の割合は30.3%(日本国籍: 32.5%, 外国国籍21.1%)であった。HIV感染者669中, 日本国籍者は523(男性511, 女性12), 外国国籍者は146(男性138, 女性8), AIDS患者291中, 日本国籍者は252(男性247, 女性5), 外国国籍者は39(男性35, 女性4)であった。日本国籍男性のHIV感染者年間新規報告数は前年より4件減少し, AIDS患者年間新規報告数は前年より45件増加した。外国国籍男性のHIV感染者年間新規報告数は前年より44件増加し, 過去最多となった(図3)。
HIV感染者新規報告において, 同性間性的接触(両性間性的接触を含む)が71.2%(476/669)〔日本国籍男性の74.2%(379/511), 外国国籍男性の70.3%(97/138)〕を占め, 異性間性的接触は13.5%(90/669), 静注薬物使用は0.3%(2/669), 母子感染は0%(0/669), その他は6.4%(43/669), 不明は8.7%(58/669)であった(図4)。日本国籍男性の86.7%(443/511), 外国国籍男性の96.4%(133/138)は20〜40代であった(図5)。
HIV感染者の推定感染地域
1992年までは海外での感染が主であったが, それ以降は国内感染が大部分である。2023年のHIV感染者の推定感染地域は, 国内感染が全体の80.7%(540/669), 日本国籍者の86.8%(454/523), 外国国籍者の58.9%(86/146)であった。
報告地(医師により届出のあった地)
東京都(HIV感染者247, AIDS患者55), 東京都を除く関東・甲信越(HIV感染者108, AIDS患者66), 近畿(HIV感染者89, AIDS患者37), 九州(HIV感染者76, AIDS患者47), 東海(HIV感染者84, AIDS患者36), 北海道・東北(HIV感染者39, AIDS患者29), 中国・四国(HIV感染者22, AIDS患者21), 北陸(HIV感染者4, AIDS患者0)の順に多かった。
診断時のCD4値
2019年から診断時のCD4値が発生届の項目に追加され, 集計が開始された。2023年新規報告のうちCD4値の記載のあったものはHIV感染者で53.7%(359/669), AIDS患者で75.3%(219/291)であった。CD4値の記載のあった2023年HIV感染者新規報告のうち, CD4値<200/μLの割合は34.5%(124/359)〔2022年: 27.7%(86/311)〕であった(図6)。
参考情報1: 献血者のHIV陽性率
陽性件数および献血10万件当たり陽性件数は, 近年減少傾向の中で2020年(献血件数5,024,859件中44件陽性, 10万件当たり0.876)は6年ぶりに増加したが, その後3年連続で減少し, 2023年は献血件数5,003,723件中25件(男性24件, 女性1件), 10万件当たり0.500であった(図7)。
参考情報2: 自治体が実施したHIV抗体検査
自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は, 2020年以降低い水準が続いていたが, 2023年は106,137件(2019年142,260件, 2020年68,998件, 2021年58,172件, 2022年73,104件)であり, 2019年と比較すると少ないものの, 4年ぶりに10万件を超えた(図8)。陽性件数は2023年316件(2019年437件, 2020年290件, 2021年293件, 2022年269件), 陽性率は2023年0.30%(2019年0.31%, 2020年0.42%, 2021年0.50%, 2022年0.37%)であった。このうち, 保健所での検査陽性率は2023年0.22%(156/70,208), 自治体が実施する保健所以外での検査における陽性率は2023年0.45%(160/35,929)で, 後者での検査の陽性率が高かった。
まとめ
2020年以降, 新規報告数が大きく減少する年があった中で, 2023年は日本国籍男性におけるAIDS患者新規報告数の増加と, 外国国籍男性におけるHIV感染者新規報告数の増加を認め, 全体ではHIV感染者年間新規報告数が7年ぶりに増加し, AIDS患者年間新規報告数は3年ぶりに増加した。AIDS患者新規報告数の増加について, 国内で2020年1月に初めて報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行にともなう検査機会の減少等の影響で, 2020年以降, 無症状感染者が十分に診断されていなかった可能性に留意する必要がある(IASR 42: 213-215, 2021, https://www.niid.go.jp/niid/ja/aids-m/aids-iasrtpc/10712-500t.html)。前年までと同様に, 日本国籍男性における同性間性的接触を推定感染経路とする新規報告が大半を占めている。外国国籍男性について, HIV感染者新規報告数は2017年をピークとしていったんは減少傾向となっていたが, 2023年に6年ぶりに増加し, 過去最多となった。特に20代と30代での増加が大きく, すべての報告地(ブロック)で前年より増加し, 推定感染地は国内が大半を占めた。社会的な背景も踏まえ, 外国国籍を有する者に対する検査体制や受診しやすい環境の整備が重要である。
HIV感染症は根治はできないものの, 適切な治療で血中ウイルス量を抑制することにより, 免疫機能を維持・回復し, 良好な予後を見込むことが可能となり, 性交渉による他者への感染を防げることも明らかとなっている。引き続きエイズ予防指針に基づいた予防対策を進め, 人権に配慮したうえで, HIV感染者, AIDS患者の早期診断, 早期治療のために検査の必要性を広報し, 多様な場面での検査機会の提供および自治体での検査体制をより充実させることが求められる。