AIST Tohoku Newsletter No.24

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産総研 東北 Newsletter No.25
研究者紹介 鈴木 明 チーム長 インタビュー

【写真】左:鈴木チーム長、
右:小原サイエンスコミュニケーター。


今号から、‘研究紹介’のコーナーを‘研究者紹介’にリニューアルいたします。従来の研究活動を中心とした内容から、研究者の方との対談形式を取り、より研究者個人にフォーカスを合わせた記事にしていきたいと考えています。
第1回目は、コンパクトシステムエンジニアリングチーム長である鈴木明さんにインタビューを行いました。鈴木チーム長は、2003年、産総研東北センターに入所以来、超臨界流体を利用した化学反応環境の実用化に向けた研究を一貫して行われています。
なお、今号より新連載として、研究活動に用いる専門用語を解説した‘研究キーワード’を4ページに掲載しています。そちらの内容もご参照ください。

われわれのチームでは、最も企業に近い側の研究を行っている 木チーム長が行われている研究についてご紹介ください。

われわれの研究チームは、コンパクトシステムエンジニアリングチームといいまして、研究レベルの化学反応系から実用的な装置の開発を行うという、いわば最も企業に近い側の研究を行っています。研究分野としては、超臨界流体、特に超臨界水を使った有機・無機化合物の合成方法について、実用化に向けた研究を進めています。
超臨界水というのは、非常に化学反応性が高いので、有機化合物合成の反応には使えない、というように考えられていたんですね。逆に有機化合物を完全に分解してしまうということは得意なんです。これは、私が産総研に来る前にすでに始められていた研究なのですが、超臨界水を用いた化学反応環境、普通は400°Cくらいですけれど、そこまでに瞬時に到達することができれば、余計な分解反応などが起こらないで、目的の反応だけ起せる、ということを明らかにしてきたんですね。それをどのように実現するかというと、マイクロ反応という方法をとります。ところがわれわれがやりたいような、臨界点を超えた状態、例えば、水の臨界点は、374°C、約220気圧ですが、そういうような条件で使える

image
マイクロリアクターというのは、開発されていませんした。われわれは高温高圧のマイクロ反応に汎用的に使える諸装置の開発をして、超臨界水を用いた有機化合物合成だとか、金属酸化物微粒子の合成といった反応にこれらの装置が、どういう風に役に立てるのか研究をしています。
例えば、直接通電方式の加熱器を開発しています。内径0.25mmとか0.5mmくらいの管状マイクロリアクターの中で超臨界水を用いた化学反応をするんですけれど、そのとき、超臨界水を数kg/hという非常に速い速度でマイクロリアクターの中に流すんですね。そのため、マイクロリアクターの中を流れる超臨界水は、熱を受け取る力がすごく大きいんです。ところが、従来のニクロム炉による加熱法では、ニクロムが赤熱して、その熱をコイルに伝える方法をとる。超臨界水の熱を受け取る力が大きくても、ニクロム炉の熱源から、コイルに熱が伝わる速度、ここが遅いんです。それならば、マイクロリアクターの金属壁に直接電流を流せばいいんじゃないかと考えたんです。現実に作ってみると、長さ200mmぐらいのチューブの中が、室温から600°Cくらいまで、瞬時に上がるんですね。昇温速度にしてみると、実測の最大値で150,000°C/秒です。われわれが超臨界水で有機合成を行う化学反応時間が1秒以下ですから、それに比べると十分に短い時間で反応温度にまで昇温できる。効率的に合成反応ができるんです。
あと、超臨界流体を利用した化学反応系を装置化するときの1番の問題点、実は腐食なんです。われわれは、マイクロリアクターを使ったニトロ化反応を試みているんですけど、この反応の場合、硝酸を使うんですね。高温高圧のマイクロリアクターの中に硝酸が入ってる。これはもうあっという間に腐食しちゃうんですよ。そこで、われわれが提案しているのが、マイクロリアクターの内部表面をチタンで覆う方法です。こうすると、マイクロリアクターの腐食はほとんどなくなります。



、マイクロリアクターという言葉が出てきましたが、マイクロリアクターの持つ利点、欠点とは何ですか? マイクロリアクターというぐらいですから、非常に小さなスケールのものですよね。マイクロリアクターは容器のサイズを大きくしてしまうと、マイクロ空間の利点が出なくなってしまう。じゃあ、どうやって処理量を上げていくのか、というのが最大の問題です。
一般的に言われるのはナンバリングアップ—これは今われわれのケースですけれど、1本で化学反応をやっていたものを5本にする、5本で1モジュール、そして1モジュールを、何セットか並べる、というかたちで、数を増やしていく。
−−−規模を大きくしていくのではなくて、数を並べて平行して化学反応を進めることで、生成物の量を増やすということですね。
それをナンバリングアップといいますね。 利点は、いっぱいあるんですが、マイクロリアクターは、非常に反応空間の直径が小さい、単位体積あたりの表面積、比表

面積といいますけど、これが大きいので、例えば熱交換するときに有利になるとか。
一般的には、精密な温度制御ができる、それから反応溶液の混合が非常にうまくいく、そういうように精密な反応場の制御ができる、このため、マイクロリアクターは化学合成に向いている、というように言われています。

ファインケミカルの生産量として10,000トン/年までならイメージできる 在、鈴木チーム長が行われている高温高圧環境におけるマイクロ反応は、今後の化学産業でどのように利用されていくとお考えですか?
年に何十万トン、あるいは何百万トン作るものをマイクロ反応で作るというのはやはり大変なことですよね。でも、高付加価値のファインケミカルの中にはホント生産量が少ないものがあるんですよ。年に何キロ作れればいいという具合のものが。
−−−量よりも質といったもの。
そうですね。ファインケミカルが一番マイクロ反応の実用化分野として近いですよ。一応、産総研の中にわれわれが作ったナンバリングアップ実験装置で、ファインケミカルの生産量としてイメージしてるのは、100トン/年ぐらいです。これはファインケミカルではかなりの量です。それを10個並べれば、1,000トン/年ですよね。それは今の段階で僕はイメージできる。細かいデータを持っている訳ではいないんですが、10,000トン/年ぐらいまでなら、なんとなくですがイメージできる気がします。
−−−これからの化学産業は、いろいろな機能性を持った材料が要求されてくると思いますが、そのときに、コストを抑えつつ、ある程度の量を生産していく、そういう実験系がマイクロ反応を通して生まれてくるのですね。 環境保全に役立つ技術の開発を やりたかったし、今もやっている れから研究職を目指す学生の方、あるいは若手の研究者の方に対するアドバイスをいただけますか?
僕は、環境保全に役立つ技術の開発をやりたかったし、今もやっているつもりなんですね。
よく学生に、どういう技術開発をやったらいいのか、という話をよくするんですけど、そのときに、今、産総研にいらっしゃる中西準子先生の『水の環境戦略』(岩波書店)という本の内容を話しています。この本には、フェーズ・ルールという概念が出ていて、縦軸に経済、横軸に環境、そういうグラフを組むんです。そうすると、環境にもよくて経済にもいいという象限があるんですね。今までの環境保全技術というのは、環境にはいいけど経済には悪い終末処理、要するにお金かけて処理しましょうというものなんです。それじゃ続かないと。単なる終末処理ではなくて、発想の転換というか、構成を変えるようなことを考えなさい、という内容が書かれています。
それは超臨界の技術で実現できるな、と僕は思っているんです。超臨界水は加水分解する能力が高いので、ハイポリマーのように、脱水重合している高分子の有機化合物を、その原料にまで加水分解することができるんです。従来の方法では廃棄物になっていたものが、超臨界水で分解したら原料に戻る。ホントは装置費なんかも検討しないといけないんですけど、環境にもいいし、それから経済にもいい方法だと思うんです。あるいは、ある化合物を超臨界水を使って別の化合物の原料に分解して再利用する。そういう風に資源を循環させて、できるだけ廃棄物を出さないようにしていく。
−−−如何に持続的にやっていくか。ここで終わりではなくて、ここからまたつなげていくという発想を持っていくこと。
そうですね。よく学生に言うんですけど、うまくいかないって悩むのは馬鹿らしいと。うまくいかなかったときに大きな成果が出る。特にプロセス開発なんかやってるときには、うまくいかないほど、特許の可能性が出てきます。そこをどうやって解決するのかって事が一番の醍醐味ですね。
−−−−ありがとうございました。


ご自身の研究内容をわかりやすく解説してくださった鈴木チーム長。研究を終えた後は、スポーツジムで毎日6キロ走られて、気分をリフレッシュされているそうです。

鈴木チーム長の何事に対しても活動的な姿勢に共感を覚えました。
最後になりましたが、ご多忙の中、鈴木チーム長には取材の時間を割いてくださいまして、ありがとうございました。







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