女性皇族として初めて海外で博士号を取得された彬子女王殿下。その英国留学記『赤と青のガウン オックスフォード留学記』は「プリンセスの日常が面白すぎる」という一般読者のX投稿をきっかけに話題となり、瞬く間にベストセラーとなりました。
ある日、彬子女王殿下は、愛犬に散々吠えられた挙げ句、お腹のあたりを思い切り噛まれたそうです。なぜ、そんなことになったのでしょうか? ほしよりこさんの絵とともにお楽しみください。
※(注記)本稿は、彬子女王 著、ほしよりこ 絵『飼い犬に腹を噛まれる』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
気持ちをリセットするスイッチは「温泉旅行」
何を隠そう(別に隠してはいないのだけれど)、私は大浴場をこよなく愛している。宿のお部屋にどんなに立派なお風呂がついていたとしても、大浴場があれば、私は必ず大浴場に行く。温泉ならば、なおよしである。できるならば、到着後、寝る前、朝と3回行きたい。
お湯をわざわざためなくても、扉を開ければなみなみとお湯をたたえた湯船が待ってくれているというあの幸せ感。手足をうーんと伸ばして、外の景色を見ながらぼーっとしていると、いつの間にか時間を忘れてしまう。
そんなわけで、近頃は忙しくてなかなか時間が取れないのだけれど、友人たちと時折出かける温泉旅行は、私にとって至福の時間である。
気の置けない友人たちとのんびり温泉に浸かり、だらだらと夜遅くまでおしゃべりをして、こてんとお布団に倒れ込んで眠る。朝風呂に入り、心も体も軽くなって帰宅すると、また翌日から頑張ろうという気持ちになれる。この旅が、私にとっては気持ちをリセットするスイッチになっているのだと思う。
以前行ったその温泉旅行で驚くべきことが起こったので、御報告したい。
飼い犬に腹を噛まれた姫
唐突ではあるが、私は犬を飼っている。いや、正確に言えば、私名義の犬を友人に飼ってもらっている。犬が大好きなのだけれど、犬アレルギーで共に暮らすことが難しいため、友人(自称乳母)宅で飼ってもらい、私は顔を見に始終遊びに行かせてもらっているのだ。
それでも私のことは主人と認識しているのか、私の言うことは割とよく聞くし、散歩で会う知らない人には寄っていかないのに、私の周りにいる人には初めてでも愛想よく挨拶に行くというかわいい雄犬である。
先頃その犬の子どもが生まれ、新しい飼い主に引き渡しをすることになった。
そこで初めて親子の対面をしたのだけれど、すこぶる機嫌が悪い。
知らない子犬が我が物顔で自分の家にいるのが気に入らなかったのか、私が子犬を抱いていたことに腹が立ったのかわからないけれど、散々吠えた挙げ句に嚙みついてきたのである。子犬は無事だったが、私はおかげでお腹のあたりを思い切り噛まれた。
かなり痛かったので、ちらりとのぞいてみたら強烈な赤痣になっている。「大人げない!」ときつく叱ったら、しょんぼりしていたけれど、男の嫉妬は恐ろしいということを、身を以って知ったのだった。
そんな話を、温泉旅行のときに脱衣所で友人たちにしていた。「うわー、痛そう!」「本気噛みですやん」などと言われつつ、いつものようにゆっくりと温泉に浸かって過ごした翌朝。
ふとお腹を見たら、なんと傷口が劇的によくなっているではないか。温泉の効能に、「打身 、挫きなど肌に効果があります」と書いてあったけれど、本当だった。「湯治」という言葉と歴史の奥深さに改めて感じ入り、ますます温泉好きに拍車がかかった。
友人たちの間では、「飼い犬に腹を噛まれた姫」として有名になりつつあるお話である。
関連書籍・雑誌
飼い犬に腹を噛まれる
彬子女王 著, ほしよりこ 絵プリンセスの日常には何かが起こる!
ベストセラー『赤と青のガウン』の「その後」の日常を綴った彬子女王殿下の最新エッセイ集
挿絵は『きょうの猫村さん』のほしよりこ氏による描きおろし