20年以上にわたりリーダーとして活躍し、2万人以上の人材育成に携わってきた越川慎司さん。著書『一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本』では、成果を上げながら負担を軽減するための実践的な手法を提示しています。
同書に掲載された全国678社・管理職1万7,172名を対象とした調査では、「働き方改革」以降、管理職の実労働時間が平均17%も増加していることが明らかにされています。
では、増え続ける残業をどう減らすのか。越川さんが提唱する解決策の一つが「会議ダイエット」です。本稿では、その具体的な考え方を伺いました。
まず取り組むべき「会議ダイエット」
――管理職の業務量は増加傾向にあるようですね。どうやったら残業時間を減らすことができるのでしょうか。
【越川】一番は「会議ダイエット」です。減らす会議を決めること。減らすのは回数か時間です。
日本の社内会議の74%は60分設定です。でも60分必要かどうかを考えずに、なんとなく60分になっています。これを45分にしてみる実験を電機メーカーや電力会社で行ったところ、9割以上の人が「意外とできた」と答えました。翌週からも45分を続け、最終的にそれが新しい基準になったんです。
60分を45分にするだけで25%の時間が生み出されるわけです。そうすると、結果的に管理職の時間外労働も減りました。
ですから、「この会議は本当に必要か」「60分必要か」とこれまでの当たり前を疑うことが大切です。全部の会議でなくていいので、週に1回だけでも、60本を45分にする、毎週開催ではなく月2回にしてみるなど、短縮や削減を試す。成果に影響がなければ続ければいいし、支障が出れば元に戻せばいい。そうした実験をぜひやってみてほしいです。
時間外労働は「仕事を受けた瞬間」に決まる
――越川さんが経営する、クロスリバー株式会社では週休3日制を導入されていますが、最初は業務を減らすために「やらなくていいことを決める」のが大変だったそうですね。
【越川】正直に言うと、一番大変なのは「仕事を断ること」なんです。今も大阪に来ていますが、もし週休2日なら前乗りする必要もなく、東京の仕事と大阪の仕事をどちらもこなせます。でも週休3日だとそうはいかない。全体の3〜4割ほどの依頼を断らざるを得ない。それが本当に苦しいですね。
もし依頼をすべて受けてしまったら、私だけでなくメンバー全員が残業・休日出勤を余儀なくされます。つまり時間外労働は、実際には「仕事を受けた瞬間」に決まるんです。処理能力と受注量のバランスが崩れれば、こなせないのは明らかですから。だから私たちは「働き方改革」ではなく「稼ぎ方改革」を掲げました。
――稼ぎ方改革ですか。
【越川】そうです。稼ぎ方改革のためには「受注改革」が必要なんです。受ける仕事をどう変えるか。これは大変な課題でした。
もうひとつ大きかったのは「社内会議をゼロにする」こと。会議には「共有」「決定」「アイディア出し」の3種類があります。共有はITツールで十分できます。決定は私が行うか、現場に決定権を渡せばいい。残る「アイディア出し」だけは対面で行っています。
パリやニューヨーク、バンコクなど世界各地にメンバーが分散しているので、半年に一度は現地に行って、腹を割って話します。アイディア出しやブレインストーミングは対面で行うことが一番効果が高いのです。
ただ、「毎週月曜朝の定例会議」などは一切廃止しました。緊急時を除き、定例会議はすべてやめたんです。これもなかなか厳しい挑戦でした。
――それは大変そうです。でも、今は問題なく回っている、ということですよね?
【越川】「問題なく」の定義が難しいですが、少なくとも週休3日でも同業他社より売上が上がっていることを目標にしていますので、その意味では毎年売上は右肩上がりですし、家族の都合以外で辞めたメンバーもいない。ですから、今のところはうまくいっていると思います。ただ、もし売上が下がったり人が辞め続けるようなら、週休3日はやめます。これもあくまで"実験"ですので。
――仕事を断るのは大変だとおっしゃいましたが、逆に受けてもらえた企業は嬉しさを感じるのではないでしょうか。
【越川】そう思っていただけたらありがたいですね。もちろん新規のお客様を獲得することも大事ですが、ビジネスの7割は追加契約やリピーターで成り立ちます。特にBtoBでは、既存顧客の満足度を高めて追加契約をいただく方が効率的です。ですから、今は既存のお客様の満足度を上げる戦略を取っています。
――越川さんは、半日ずつ休むという手法で週休3日制にしているそうですね。
【越川】私のスケジュールは"見せる化"しています。メンバーにはもちろんOutlookで共有していますし、私が直接担当しているお客様にもカレンダーを公開しています。年間契約で「月に何時間」という形にしているので、お客様自身が空いている時間をピックアップできる仕組みです。
家族の介護をしているので、通院の予定などはあらかじめカレンダーに入れています。どうしても月曜午前や金曜午後は予定が入りにくいので、そこは休みになることが多いですね。休日は通院や、大学にも通っているので勉強など、プライベートの時間に充てています。
著者紹介
越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表取締役社長
2005年に米マイクロソフトへ入社し、後に日本マイクロソフトの業務執行役員としてPowerPoint、Excel、Word、Microsoft Teamsなど、主要プロダクトの事業責任者を歴任。
2017年、株式会社クロスリバーを設立し、全メンバーが週休3日制と複業(専業禁止)を実践する独自の働き方で、これまでに800社以上の業務改善・働き方改革に携わる。教育者としても活動し、京都大学大学院をはじめとする教育機関で教壇に立つ一方、年間400件を超えるオンライン講座を展開。受講者満足度は平均98%を誇り、学んだ内容を実際の行動に移す受講者が95%を超えるなど、確かな成果を上げている。
著書は直近8年間で32冊に上り、『仕事の「ムダ」が必ずなくなる 超・時短術』(日経BP)や『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は海外でも翻訳・出版されベストセラーとなる。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」ほか、多数のメディア出演実績を持つ。数字に裏打ちされた具体的なノウハウと豊富な実績を基盤に、組織と個人のパフォーマンス最大化を支援し続けている。
関連書籍・雑誌
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成果を出し続けるリーダーの共通点は、自分で考え、動ける「自走するチーム」をつくること。本書では、そのために欠かせない「信頼関係の築き方」と「任せ方」をわかりやすく解説します。さらに、「メンバーとのすれ違いをどう解消するか」「業務が忙しすぎて、マネジメントや育成の時間が確保できない」といった、多くのリーダーが抱える課題への具体的な改善策も紹介。