ぼくらの「値段」は、
資本主義のルールでこう決められている
教養として知っておきたい『資本論』のエッセンス
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3日間煮込んだカレーと
30分でつくったカレー、高いのはどっち?
マルクスは『資本論』の中で、商品の値付けについて語っています。それが、第1回で紹介したふたつ目の理論です。
2. 需要と供給のバランスがとれている場合、商品の値段は「価値」通りに決まる
商品には、「価値」と「使用価値」があります。これらふたつの要素が揃って、初めて売りものになります。ただし、商品の値段を決めているのは「価値」だとマルクスは考えました。価値の大きさがベースになって値段が決まっているということです。
これは意外な主張だと感じませんか?ビジネスパーソンが重要視しているのは、「お客様のメリット!」です。お客さんにメリットがある商品(つまり「使用価値」がある商品)を提供することがすべてだと感じています。安く買いたたかれてしまうのは、お客さんへのメリットが不十分だからだ、と。つまり「使用価値」がないからだ、と。
ですがマルクスは、そうは考えませんでした。商品の値段は、使用価値ではなく、価値で決まると考えたのです。つまり、「どれだけ労力をかけてつくったか」で値段が決まる、「労力をかければかけるほど(価値が大きくなればなるほど)、値段が上がっていく」と考えたのです。
「そんなことはあり得ない。やっぱりマルクスは時代錯誤だ」
一読すると、そう感じるかもしれません。でも、消費者の目線で見てみると、ぼくらは自分自身でもマルクスの主張の通りに考えていることがわかります。ビジネスパーソンとして会社内で言われていることと、全然違う判断をしているのです。
消費者の立場になって、考えてみてください。たとえば、
・30分でつくったカレー
・3日間煮込んだカレー
に、それぞれいくらの値段が妥当だと思いますか? おそらく大半の方が「3日間煮込んだカレー」を高く設定するでしょう。「3日間」の方が高くて当然、と感じます。味については何も言っていません。「3日間」の方がおいしそうな印象を持ちますが、あくまでも「印象」です。
そしておそらく、目隠しをしてクイズを出されたら、多くの消費者には、「30分」も「3日間」も一緒で、味の区別はできません。しかし、それでも「3日間煮込んだカレー」に高い値付けをするのです(毎年年始にテレビで放送される「芸能人格付けチェック」でも、最高級品と安売り品の味を区別できないタレントさんが大勢いますね。「あまり違いがない」ということです)。
これはつまり、使用価値(カレーのおいしさ)ではなく、そのカレーをつくるのにかかった労力(価値)で判断しているということなのです。
「パン」よりも「手づくりパン」の方が高そうに感じます。非常に細かい刺繍がほどこされた布を見せられたとき、「すごい」と思います。ですが、それが手編みだったことを聞かされると「すご〜〜い!!」と感じます。目の前にあるものは変わらないのに、それが機械製か手製かで、感じる重みが変わっているのです。
また、何かの習い事に行くとき、回数や期間で割安・割高を判断することがあります。「10万円だけど、半年間だから安いよね」「2回で10万円は高い!」というように。
本来気にしなければいけないのは、そこに通って目的のスキルが身につくかどうか(その講座の使用価値)ですね。もっと言ってしまうと、1回ですべてのスキルが身に着いた方が効率的でメリットがあります。
でも、そうは考えず、回数や期間(相手が自分のために費やしてくれる時間、労力)で判断しているのです。
おわかりいただけましたでしょうか。ぼくらは消費者として商品を「価値」で判断しています。そして「価値」をベースに妥当な値段を考えているのです。つまり、世の中の商品は「使用価値」ではなく、「価値」で値段が決められているのです。