欧州戦争で株暴騰、化学・海運・造船...軍需で儲けた会社評、「渋沢に盲従」を批判、物価高騰と米騒動【ダイヤモンド111周年〜大正期 1】

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1913年5月1日号 ダイヤモンド創刊号「発刊の辞」1913年5月1日号 ダイヤモンド創刊号「発刊の辞」PDFダウンロードページはこちら(有料会員限定)
『本誌の主義は算盤の二字を以って尽きます。本誌は是とするも非とするも総て算盤に拠り、算盤を離れて何物も無い。本誌の印に算盤を付けたのはこの故であります。本誌は、算盤をもって如何なる有価証券に投資するの有利にして又不利なるかを研究し、この方面の人々に向かって一種の転ばぬ先の杖を提供します。そして行く行くは欧米において専ら行われている投資案内統計所の制度に倣って、経済界の出来事を争うべらざる数字をもって示し、権威ある報告をなし、米国のロジャア・バブソン統計局の如き、倫敦(ロンドン)の投資調査所の如きものとしたい希望であります。更に又一面、広告術、販売術を研究し、如何にして商品を売り出すの有利なるかを確かめ、商店主の便利に供したい考えであります。要するに本誌は専ら左の方面に読者を得たいのであります。
一、各銀行会社並びに其株主
二、公債社債の所有者
三、土地家屋の所有者
四、商店の経営者並びに店員
五、新聞雑誌社
本誌の名前をダイヤモンドと付けたのは、小さくとも相当の権威を持たせたいからであります。少なくとも我社同人の有する何物かは確かにダイヤモンド以上の権威をもって臨む事をここに声明しておきます』

そろばん――すなわちデータに基づいた科学的な分析に徹するコンテンツづくりは、創業・創刊時から掲げている。

【2】1914年
第一次世界大戦が勃発
株式の暴騰を予測

「ダイヤモンド」創刊から約1年後の1914年6月18日、サラエボ事件をきっかけに、連合国(英国、フランス、ロシアなど)と同盟国(ドイツ、オーストリア、オスマン帝国など)に分かれた第一次世界大戦が勃発する。日本は日英同盟を理由に英国が属する連合国側に付き、14年8月23日に中国・青島にあったドイツ東洋艦隊の基地を攻撃し、早々に参戦を果たした。

開戦を受け、14年9月号では「株式売買者の活躍期来る」と題し、株式市場に対する影響を分析している。記事の冒頭はこうある。

1914年9月号「株式売買者の活躍期来る」1914年9月号「株式売買者の活躍期来る」
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『株式はほぼ10年目に一度暴騰する。即ち明治28年12月には東株が820円という高値を現し、40年1月には780円にまで暴騰し前年に劣らぬ高値を現した。しかして、この2回の暴騰は何れも戦争がその動機となり、戦争が始まると、これまで底値に沈んでいた株式がメキメキ騰貴しているが、その現象に日清戦争当時と日露戦争当時と少しも変わりがなく、歴史は繰り返すというの真理なるを知る事が出来る』

そして記事では、日清・日露戦争の最中に、戦況に応じていかに株価が動いたか、東京市場に加え、日本郵船、鐘淵紡績の株価を子細に分析している。また、日本がドイツに宣戦布告し、第一次世界大戦に参戦したことを受け、以下のように結んでいる。

『あたかも経済界が転換期に達しているこの時期に、ドイツが倒れて日本の勢力がより多く東洋に伸張されたならば、再び株式の大暴騰を見るだろうと観測される。株式売買に志す人は活躍期の到来せる自覚し、怠らず今後に注意すべきである』

もっとも大戦の勃発当初は、予期せぬ事態への不安と混乱で日本経済は不況に包まれ、特に生糸や綿糸などの輸出品市場は暴落に見舞われた。しかし、徐々に戦争の見通しが明確になるにつれて、経済界は活気を取り戻し始める。

戦争に巻き込まれた欧米諸国からの輸入がほぼ途絶したため、鉄鋼業や重化学工業を中心に国内産業が勃興し、物資輸送が増えたことで世界的な船舶不足が起こり、日本の造船業、海運業も活況を呈し、欧州向けに綿織物などの日用品や軍需品の輸出が激増したのだ。

【3】1915年
「大戦景気」の到来
戦乱で儲かった会社の研究

1915年9月号に「戦乱で儲かった会社の決算」という10ページに及ぶ記事がある。筆者は創業者の石山賢吉だ。大戦景気の恩恵を被った業界として化学工業、船舶業、造船業、海上保険業、毛織物業、製糖業、皮革業、製粉業を挙げ、それぞれ主要企業の決算分析を行っている。

1915年9月号「戦乱で儲かった会社の決算」1915年9月号「戦乱で儲かった会社の決算」
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『全体からいえば、内地の産業は、欧州戦乱の結果、打撃を受けているが、中に、これがためかえって活躍した事業もある。化学工業、船舶業、造船業、海上保険業、毛織業、製糖業、皮革業、製紙業、製粉業などがそれである。
記者はこれらの事業会社がいかに儲かり、いかなる利益処分をしているかを見たいために、その決算報告の取り集めに掛かった。
そうして記者の希望は、なるべくこれら事業会社の全体を網羅したいのであったが、記者の要求に応じてくれない会社があったり、いまだ決算の済まない会社もあったりして、結局取り集め得たものは、化学工業会社2、船舶会社2、造船会社2、海上保険会社1、毛織物会社2、製糖会社8、皮革会社2、製粉会社3であった。全体を網羅し得られなかったのは遺憾であるけれども、一斑を推して全豹を知ることもできるから、このなかすでに評論をした会社を除き、その他に対して決算評を試みる』

具体的に登場するのは、別号で評論した企業を除き、日本化学工業と日本窒素肥料(現チッソ)、日本毛織(現ニッケ)と東京毛織、日本郵船と大阪商船(現商船三井)、川崎造船所(現川崎重工業)と大阪鐵工所(現日立造船)、日本統治時代の台湾製糖など製糖会社4社、日本皮革(現ニッピ)と明治製革である。

大戦勃発の14年から19年の実質GNP(国民総生産)の平均成長率は7.3%という高水準を記録した。この「大戦景気」により、新事業を興す企業が雨後のたけのこのように現れた。株取引も活発化し、創刊当初は泣かず飛ばずだった「ダイヤモンド」の部数・売り上げも、急成長を遂げていった。

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