センター通信
『視点』事実はひとつ-薬物問題最前線-
II【国連麻薬委員会による大麻の<付表変更>について】
2020年12月に国連麻薬委員会による大麻の国際規制に関する決定がなされました。報道の中には、あたかも大麻に対する規制を国連が緩めたかのような印象を与えるものも散見されましたが、誤りです。
麻薬委員会が決めたのは、"付表の変更"といわれるもので、規制の程度を緩めることとは全く関係ありません。
詳しく見ていきましょう。
大麻は長年にわたって「麻薬に関する単一条約」(1961年)の付表Iと付表IVに入れられ規制されてきました。
ちなみに大麻は、初めて拘束刑を持つ規定を備えた1925年の「国際阿片条約」から、すでに規制されています。
麻薬単一条約では、付表と呼ばれる異なったカテゴリーに入る"麻薬"には、異なったレベルの規制がかけられています。
これは1971年の「向精神薬条約」でも同じです。
付表Iには、乱用のおそれがあり、悪影響を及ぼす麻薬が入り、最も厳しい規制がかかります。(付表II、IIIでは、規制が少しずつ緩められています。)付表IVには、特に危険で医療用途がない麻薬が入り、麻薬単一条約は医療用にも使うのをやめましょう、となっているわけです。
2020年12月に麻薬委員会が決めたのは、この付表IV(特に危険で医療用途がない麻薬)からは外すということのみでした。大麻はそれまでは付表IVにも入っていましたが、海外の一部の国で、大麻から製造された医薬品に医療上の有用性が認められたことが理由です。つまり、"医療用"の使用がやりやすくなったというだけのことです。
大麻は、麻薬単一条約で最も厳しい規制のかかる付表I(乱用のおそれがあり、悪影響を及ぼす麻薬)には入ったままです。
コカインやあへんなどが規制される付表Iにあるわけですから、大麻に対する規制内容自体に変更はないのです。また医療用麻薬にしても、不正ルートへの横流しを防ぐために、その適正使用に関して、それは綿密な規制手段がとられています。医療用と称して、例えば個人が勝手に栽培や使用ができるわけではありません。
この付表変更の背景について、もう少しふれておきましょう。
麻薬委員会での投票結果は、賛成27カ国、反対25カ国、棄権1カ国でした。ごく僅差であったのです。
反対した国々の意向には、次のようなものがあげられました。日本政府も反対票を投じましたが、その理由は「大麻の規制が緩和されたとの誤解を招き、大麻の乱用を助長するおそれがあるため」でした。その他、中国、ロシア、中東諸国など30カ国(そのうち委員国は17カ国)による共同声明では次のような指摘がありました。
・現在の条約でも「大麻の医療用途及び研究用途での使用」は認められているから、今回の変更が大麻の医療及び研究用での使用を助けることはない。
・大麻の付表を変更するエビデンスは限定的である。
・今回の投票結果が示すのは「可決された勧告について委員国全体の同意が得られたものではなく、また半数近くの委員国が付表を変更する理由が充分だとみなしてはいない」ことである。
・「麻薬委員会が、大麻は健康に悪影響がないと考えている」との誤解を招くことを懸念する。
・大麻の不正栽培、密売を増加させることを懸念する。
付表
※(注記)「あなたに知ってもらいたい 薬物のはなし」16ページより
〜麻薬委員会(CND)とは〜
麻薬委員会(CND)とは、国連経済社会理事会の機能委員会のひとつです。薬物規制分野における、国連のいわば政策決定機関であり、現在は 53の委員国で構成されています。日本もメンバーです。
〜機能委員会とは〜
各国の閣僚やその他の高官が出席し主要な経済、社会、環境の問題を討議する経済社会理事会の機関のひとつです。8つの専門領域に分けられ、その領域内で生じる様々な問題について審議し、勧告を行います。統計委員会、人口開発委員会、社会開発委員会、女性の地位委員会、麻薬委員会、犯罪防止刑事司法委員会、開発のための科学技術委員会、国連森林フォーラムがあります。