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『視点』事実はひとつ-薬物問題最前線-

I【いまこそ思い起さなければならないこと〜薬物乱用は「ダメ。ゼッタイ。」について〜】
(公財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター 理事長 藤野彰

厚生労働省による「大麻等の薬物対策のあり方検討会」(2021年1-6月)の過程で明らかになったいくつかの事がらがあります。そのひとつが、当センターが長年にわたって主導してきました薬物乱用防止活動の原点、さらにはその本来の性格が、もはや必ずしも一般には充分に知られていないのではないか、ということです。一昨年夏、理事長に選出されてのち発行された当財団広報誌の巻頭随想には、『岐路に立つとき』と題し、 記憶しておかなければならないことがあるとして、次の旨のことを特記いたしました。

かつて、薬物乱用防止の標語は、不幸にして乱用を始めてしまった人たちへ向けてのものばかりであったところ、初めて、薬物に手を染めていない人々を対象にする標語が創られました。それこそが“薬物乱用は「ダメ。ゼッタイ。」"だったのです。 お母さんが子どもに、「ダメよ。そんなことをしては」と言い、子どもがそれに応えるといった、愛情のこもった親子の会話のように、と創始者たちが考えた記録が残っています。「覚せい剤やめますか。それとも人間やめますか。」といった昔の標語の延長ではなく、全く新しい発想からでした。

「ダメ。ゼッタイ。」という標語は、さまざまな記録に残っているとおり、依存者に対しての呼びかけではなく、始めていない人たちへの呼びかけであったという事実は、今ここで改めて記憶していただきたいと思います。だからこそ、同時に「愛する自分を大切に」という双子の標語も生まれたわけですから。


また、今から半世紀前、国際社会は条約を改正してまで、薬物乱用を“防止"することが最も重要である、との意思を表明しました。「麻薬に関する単一条約」は1972年の議定書により改正されましたが、当初、関連条項(第38条)のタイトルは「中毒者に対する措置」であったところ、「濫用に対する措置」と変更されまし た。まず「濫用の防止に特別の考慮」を払うべきだと規定されたのです。

その一次予防に加え、早期発見、治療、教育、アフターケア、更生から社会復帰に至るまで、各国での創意工夫が必要だとしたのです。その順番を間違えてはいけないということです。それぞれの段階が不可欠かつ重要であるということです。

まさに我が国において、当センターが主導して展開してきた乱用防止活動の原点が、ここにあります。それはしかし、標語を言いっぱなしで済むことではありません。特に若者たちが自分自身の頭で考えられるようにするにはどうすべきかを、模索し続ける他はありません。時と場合によって、「解」はひとつではありません。

だからこそ、例えばライオンズクラブ国際協会の方々が長年にわたり、それぞれの地域で当センターと共に地道な努力を重ねて来られたことの意義があります。そのために、事実とデータ、そして考えるきっかけを提供しようとするのが、新たに発行いたしました冊子「あなたに知ってもらいたい薬物のはなし」の目的でもあります。

設立の原点を今一度思い起し、新たな時代に即した道を探り、国内外の諸機関と密接に連携して先へ進まなければなりません。志ある皆様方のご支援とご協力を切にお願いする次第です。


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