教科書を見るシリーズ 小学校編(4)社会5年(前半)
カテゴリー: 小学校, 教科書を見るシリーズ タグ:国土, 春田久美子先生, 社会, 食料生産 2017年 4月 6日
5年生の社会科は、新学習指導要領の内容の取扱いにおいて、「法やきまりについて扱うもの」とされている内容はありません。しかし、国土の環境や日本各地の農水産業、工業、情報化社会などの学習注1の中で、法やきまりについても考える機会があると思われます。そこで第3・4学年同様、弁護士の春田久美子先生とともに法やきまりという視点から教科書の内容を見て、さらに発展させるようなご提案もいただきます。取り上げるのは、引き続き東京書籍と教育出版の教科書です。
1 国土に関する内容について
(p.8〜9)「日本の国土の広がりと領土」
『小学社会5〔上〕』(教育出版,2016年)
(p.6〜13)「日本は世界のどこにある?」
【領土・国境をめぐっての国際問題および解決方法を素材に】 ←〔視点〕世界全体を見渡す
――2つの教科書共に北方領土・竹島・尖閣諸島という同じ素材を扱っています。5年生にもわかりやすいように、領土問題を説明することが考えられませんか? 1コマの授業を創るのではなく、5分、10分の掘り下げでもいいのではないかと思いますが。
領土をめぐっては、国際司法裁判所が2016年7月に中国vsフィリピンについて判断を出した(中国敗訴)など、国際的な視点が必ず絡らみますね。解決困難なこの問題は、一体、どういう背景で問題になっているのか、それぞれの立場の言い分を一歩深めて知る、その上で、日本人として、北海道(北方領土)だけでもなく、沖縄(尖閣諸島)だけでもなく日本全体としてどう向き合っていくのか、ということを考えられる子どもたちになってくれるような授業展開は出来ないでしょうか。
また、2016年のリオオリンピックが終わり、次はいよいよ東京オリンピックが開催されるなど、近々、日本中に世界各地から色々な国の人がやってきますね。国旗などを見ながら各国の特徴や知っていることについて子どもたちが持ち寄り、それらを共有するのも面白いですが、国や国境を超えて、「難民選手団(10名)」という新たなチームがリオオリンピックでは初めて結成されたこと、2016年6月には、イギリスがEUを離脱するかどうか国民投票が行われ、大接戦で離脱が決まるなど、「国境(線)」というものを超えるエピソードも紹介しながら、改めて「国(々)」「国家」の意味を考えることから始めてもよいかもしれないですね。
さらに、最近では、日本人も宇宙飛行士として国際的にも活躍する時代になってきましたよね。それにからめて宇宙から見える地球の映像・画像(東京書籍〔p.2〜3〕「わたしたちの国土」・教育出版〔p.4〜5〕「わたしたちのくらしと国土」の各写真)を眺めながら、国境という目には見えない"線(ライン)"をめぐって人間が繰り広げてきた歴史も踏まえて「領土」の問題を考えてみるのも必要でしょう。 ←〔視点〕世界における日本の位置づけを知る(眺める)
教育出版(p.14〜51)「日本の地形と気候」〜「自然条件と人々のくらし」
【そこに住む動物、植物に着目して】
――動物好きな子どもたちも多いでしょうから、興味・関心も高まりそうですね。
教育出版(p.24〜51)「自然条件と人々のくらし」
【沖縄(暖かい地域)・北海道(寒い地域)】
教育出版(p.38〜43)「寒さの厳しい北海道」
【各自治体ごとに制定されている「条例」をめぐって】
「子ほめ条例」(鹿児島県志布志市)
「子どもたちのポケットに夢がいっぱい、そんな笑顔を忘れない古都人吉応援団条例」(熊本県人吉市)
「梅干しでおにぎり条例」(和歌山県みなべ町)
「朝ごはん条例」(青森県鶴田町)
いわゆる「(日本酒で)乾杯条例」(京都市)
「りんご丸かじり条例」(青森県板柳町)etc...
――各地にはユニークな条例があるんですね! 大人でも興味深く感じます。
2 食料生産に関する内容について
教育出版(p.56〜73)「米づくりのさかんな地域」
教育出版(p.74〜95)「水産業のさかんな地域」
【魚を捕る。魚を育てる。】
また、日本、世界の中での日本を考える上で、捕鯨やイルカ漁をめぐる国際問題を考えるのも良い教材になると思います(映画「The Cove(ザ・コーヴ)」の上映をめぐる騒動など)。また、身近なところでも、「水産資源を守る」ために、「鹿児島湾では13cm以下のまだいの稚魚は捕ったらダメ」などの決まりがある(教育出版p.87)、とか「青森県では、全長35cm未満のひらめはとらないようにしている(東京書籍p.103)」などの記載から、色々な目的、必要性があって世の中ではルールが編み出されているんだね、というお話にもっていけると思います。
現実の、切実な必要性、共同体として全体が生き残っていくためにさまざまなルールが生み出されていくということを学ぶことは、最も生活・社会に即した法教育の良い素材になると思います。
教育出版(p.96〜107)「これからの食料生産」
――どちらの教科書も、食料の輸入に関するさまざまな課題、食料生産が環境に与える影響など、幅広い視野から食料生産の問題点を考える教材だと思います。いろいろな深め方がありそうですね?
食料生産の未来について、地図を見ながら外国の名産品などを子どもたちに挙げてもらい、飛行機で持ち込めるか、海外旅行の経験がある子などにエピソードを紹介してもらいながら「動物検疫、植物検疫」などの話をすることが考えられます。それは農業や畜産業を守るためのものであることに触れたり、「食料自給率」が日本では低いことの原因や対策の有無を討論方式で思索を深めたりすることは、農業・畜産業・漁業といった第一次産業の理想と現実を子どもたちに気づいてもらう授業として、やってみたいです。
また、たとえば、農業の未来を考える上で、今、政治の世界で問題になっている「TPP」の話題はリアルな素材になるでしょう。
マーケットの拡大という意味で農産物の自由な貿易にはどういう問題があるか、消費者の立場、農家の立場になりきって意見を出しあってみる、ということも協働しての合意形成能力、課題解決能力を養う上で、有益な授業になると思います。
――5年生の教科書をご覧になったご感想はいかがでしたか?
(工業生産に関する内容については、教育出版では上巻で取り扱われ、東京書籍では下巻の内容となっていますので、下巻を扱う後半でまとめてお伝えします。)
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