千葉大学教育学部附属中学校 「法と共生」ゼミ

カテゴリー: 中学校, 法教育実践, 取材日記 タグ:, 2010年 1月 21日

2009年9月30日(水)、千葉大学教育学部附属中学校の「法と共生」のゼミを見せていただきました。単発のイベント的な授業ではなく、半年間続く法教育のいわば普段着の姿はどのようなものでしょうか。

千葉大学教育学部附属中学校プロフィール

1947年(昭和22年)、千葉師範学校男子部附属中学校・同女子部附属中学校創設。
1951年、千葉大学教育学部附属第一中学校・同第二中学校と改称。
1965年、第一・第二中学校が統合し、現校地に千葉大学教育学部附属中学校として発足しました。
千葉大学西千葉キャンパス内にあり、JR西千葉駅・京成みどり台駅から徒歩10分ほどです。周囲は落ち着いた住宅街に、千葉市立小学校や県立・私立の高校などが点在する文教地区となっています。

生徒数 各学年4学級 全校524名 (平成21年度学校要覧より)

法と共生ゼミとは

千葉大学附属中学校では、総合的な学習の時間が全学年共通の選択制ゼミに編成されています。ゼミは6月から12月まで、ほぼ週1回、2校時連続で行われます。全体計画は以下のようになっています。 (平成19年度全体計画より )

学習計画 実施内容
6月第1回 ガイダンス 全校集会の形で22ゼミの担当教員が内容説明
6月第2回 オリエンテーション オリエンテーションに参加したいゼミを3つ選び、25分1コマのお試し参加で最終的に希望を決め、希望表を提出
6月第3回 ゼミ決定(調整会) ビデオ「裁判制度について」を見て、基本的なことを学習
6月第4回 裁判制度について 3年生の公民の教科書、資料集をもとに講義形式
7月第1回 裁判傍聴 千葉県弁護士会の協力により、弁護士の解説で千葉地方裁判所の裁判傍聴
7月第2回 裁判傍聴のまとめ 裁判傍聴のふり返り
7月第3回 検察官の立場になって、仮想事件をもとに犯罪立証過程を学習
9月第1回 弁護士の立場になって、どのような被告人を弁護するのか、情状酌量などについて考える
9月第2回 裁判員制度について ビデオ「裁判員制度について」を見て、裁判員制度について学習
9月第3回 同 同
10月第1回 裁判傍聴準備 前回のまとめより、質問事項検討。
10月第2回 裁判傍聴 千葉県弁護士会・千葉地方裁判所協力
10月第3回 裁判傍聴のまとめ グループごとに裁判傍聴のまとめ
10月第4回 模擬裁判作成1 模擬裁判のねらいと今後の流れの確認
11月第1回 同2 事件の基本設定を教師から提示、詳細を話し合い
11月第2回 同3 ワークシートを使い、事件の詳細設定について話し合い
11月第3回 同4 続き。グループ内で配役決定。詳細設定をもとに、証人からの証言について話し合い
11月第5回 同5 検査官・弁護士・被告人の証言内容について話し合い。グループで台本作成
11月第6回 同6 引き続き台本作成作業。パソコンに台詞打ち込み
11月第7回 発表会前日準備 模擬裁判のリハーサル
12月第1回 共生発表会 2グループがそれぞれ30分の模擬裁判など
12月第2回 まとめとふり返り 1年間の学習のふり返り、アンケート

今年度もほぼ同じような全体計画ですが、10月第1回に法務省資料館見学をする点が変更になっています。
官公署などは1人の教員が引率できる生徒の人数が30人までという決まりなので、ゼミの定員も30人になっています。毎年希望者が多いので、3年生優先になっています。今年度は1年生5人、2年生6人、3年生19人です。
実際に裁判学習を行なうにあたっては、量刑や判決の相場を考えることは中学校教員だけでは難しいので、千葉大学教育学部社会科教育の研究者、法学部の研究者、大学院生の協力などを得ています。
授業では毎回ワークシートを提出します。2校時続く授業の休憩時間に、先生から前回のワークシートが返却され、自分の「法と共生ノート」にプリント類とともにファイルしています。

注) 後藤健次「中学校における法教育の実践」藤井俊夫編『学校教育における法教材の開発』千葉大学大学院人文社会科学研究科 研究プロジェクト報告書第165集(2008年)

授業

総合的な学習の時間 コース制ゼミ「法と共生」(8:50〜10:25)
場所:進路学習室 参加者:1〜3年生 29名(男子10名、女子19名)

法務省見学のための質問を考えよう

先生:「来週、法務省の資料館を見学に行きます。その際質問できますが、事前にどんな質問か知りたいと言われましたので、今日前半はそれを考えます。後半は模擬裁判劇を2つするためのグループ分けをします。」
“今日のワークシート”という紙が配られます。紙の一番上にタイトルが書かれてあるだけで、後は真っ白でした。

法務省について調べる

先生:「2年生から素朴な疑問が出ました、法務省って何ですか?3年生、話してもらいます。」

先生は『ビジュアル公民』という資料集を沢山持ってきました。

先生:「3年生のために持ってきました。ではゼミリーダーの人にお願いしましょう。」

選択的夫婦別姓制度について

ゼミリーダーが法務省について調べている間に、先生は今日の朝刊を取り出し、法務大臣が「選択的夫婦別姓制度」について、民法改正案を早ければ来春の通常国会に提出したいと言ったという話をしました。
先生:「お父さんとお母さんが別姓なのはいいとして、子どもはどうするの?両方の姓から1字ずつとる?子どもが2人いたら1人目と2人目は?1人っ子だったら?いろいろなことを考えないといけません。君達が将来結婚するときにどうしようかということになるよ。この話はタイムリーなので、質問してみていいです。」

法務省とは

女子1:「国民生活に密接に関わる民法・刑法・商法などを管理する。空港の出国・入国手続き。死刑執行を命ずるのは法務大臣。」
先生:「全国の刑務所を管轄するのも法務省。未成年が事件を起して入る更正施設である少年院も。裁判制度も管轄ですが、裁判の内容には関わらない。法務省のすぐ下にある役所が検察庁。1人20個ぐらいは考えられるかな。今年の目標は裁判員制度のことなので、それも質問してください。」

出された質問案

途中休憩も挟んで全員の質問を聞きました。「裁判員の人が終わった後にインタビューしているのはおかしい。」という生徒に対して、先生は「訊いていいけれど、言い方があるでしょう。答えてもらいやすいような。『おかしい』と言うより、『自分なら嫌だが、あの人達はいいと言っているのですか?』というように。」とアドバイスしていました。
質問をいくつか拾ってみましょう。

「密入国者への対処法は?」
「刑の重さの基準は?」
「民事裁判と刑事裁判はどちらが多いですか?」
「死刑廃止によるメリットは?」
「仕事の中で大変なこと」
「今後の法務省はどうあるべきか」
「死刑が廃止になったら、いま捕まっている人はどうなるか?」

他にも、裁判員制度や死刑についての質問がたくさんありました。

模擬裁判劇のためのグループ分け

授業の残り15分ほどで、全体を2グループに分けることになりました。先生は「学年がある程度均等に入るように」という条件だけ出して、ゼミリーダーに任せます。リーダーは3年生を廊下側に固めた後、様子をみながら9人と10人に分かれてもらいました。それぞれに1年生グループと2年生グループをくっつけて、たちまち2つのグループに分けてしまいました。
先生の声掛けで、顔合わせ・自己紹介をし、ワークシートを提出してこの日は終わりました。

取材を終えて

今年度も11月末に共生発表会がありました。昨年度の発表会の模擬裁判では参観にいらした保護者の方がその場で裁判員役に選ばれ、大変ご好評をいただいたそうです。
発表会も意義深いものですが、今回普通の授業を見せていただき、普段から新聞やニュースで見聞きする法に関する話題が出せるということが、まず大切だと感じます。通常の社会科の授業ではゆとりがないとなかなかできにくいことでしょう。
先生が生徒の質問の言葉遣いを、丁寧にアドバイスしてあげていたのも印象的でした。仲間や身内との関わりだけでは得られない、外部の人達との関係のあり方、コミュニケーションの仕方を学ぶのも、大切な学習です。それも法教育の基礎となるものでしょう。

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