クレジット
警告
当ファイルは不滅なる寿司の選別・利用・維持および活性化のための委員会 Sortation, Utilization, Maintaining and Energizing Committee of the Invincibles(SUME-CI)により特上-レベル機密として指定されています。警告を無視して閲覧した場合、闇親方によるアッツアツの制裁、地下で回転寿司レーン動力源としての労働1050年の賦課といった処罰が下され、また闇寿司構成員が思いついたあらゆる危険物、毒物、刺激物、その他素敵な物いっぱいを使用した寿司の実験台として扱われます。
続行しますか?
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助六寿司の姿を取るベールの巻きあげ。
概論
"ベールの巻きあげ"は人間の持つ「好奇心」と「知識欲」を具現化し、手頃な大きさの箱に詰めた概念の握りの一形態だ。ひとたび回せば好奇心と知識欲の塊たる"ベールの巻きあげ"はパスワードもセキュリティも巻き上げ突破する万能のマスターキーとなり、自分が知りたいと願うあらゆる情報をこの手に"握る"ことが出来るだろう。それはまるで、行きつけの店ののれんを「よっ大将、やってる?」と気軽に上げるが如しだ。
概念の握りには、常に形而上概念の影である形而下の実体がつきまとう。"ベールの巻きあげ"もその例外では無く、その形而下における姿は稲荷寿司と海苔巻きによって構成される"助六寿司"である。ちなみにこのタイプの寿司詰めを"助六寿司"と呼ぶのは、歌舞伎の演目『助六』の主人公の愛人、"揚巻"の名が稲荷寿司の油"揚"げと海苔"巻"きに通じるためだ。こんな知識も"ベールの巻きあげ"を使えばすぐに手に入る。
スシブレード運用
攻撃力
防御力
機動力
持久力
重量
操作性
箱に詰められているため、単純に硬い。そしてその箱が四角いので、相手のスシを"弾く"性能もかなり高い。また単純計算で通常の4,5貫分はあるであろうという重量も、一般的なスシを仮想敵としたスシブレード勝負では有利に働くだろう。
しかし上掲した写真を見ても分かるだろうが、"ベールの巻きあげ"が稲荷寿司と海苔巻きという2種の寿司で構成される以上、その重量は決して均一とはならない。スシブレードは寿司の中心を回転軸として回るが、このスシは各所の重量が異なるために偏重心のスシブレードとなってしまうのである。偏重心のコマは攻撃的である反面、持久力に大きく欠ける特性を持つ......慣性モーメントが大きくなり、多くの余分なエネルギーを消費してしまうためだ。
よって、"ベールの巻きあげ"をスシブレード勝負に使用する場合は一撃離脱型の超攻撃的運用をすべきということになる。まあ、例え弱くたって構わない。このスシの本領は、何よりもその特性にあるのだから。
他の活用法
あえて言うまでもなく、知りたいと思う全てを知るための手助けになる。アダムとイブが楽園を追放されたのは知恵の実を食べ、神と等しき善悪の知識を得ようとしたからだ。好奇心と知識欲は、原初より人類の魂に刻まれた飽くなき渇望なのである。
少々テクニックを必要とするが、"ベールの巻きあげ"の使い方は至って簡単だ。まずは一般的な方法で"ベールの巻きあげ"を回し、回転が止まらないうちに寿司へ自分の顔を全力で突っ込む。適当な分量でいいので、目を閉じたまま助六寿司を喰い進め、海苔巻き部分に辿り着いたと感じた瞬間に顔を上げる。
- (注意!)前述の通りこの寿司は持久力に乏しいため、手早く行うこと!止まった状態で試したところ全て失敗している。
- (注意!)海苔巻きのタイミングが難しいので、私は稲荷と海苔巻きを隔てるバランを基準とした方法でやっているが、成功率は個人的にこっちのほうが高い気がする。
顔を上げて端末を確認すると形而上学的メタフィジカルな寿司の霊力「形而上魚介力ネタフィジカル・フォース」が寿司を通して自分の知覚に宿っていることがわかる。結果、機密情報ゲット!という寸法だ。
但し"ベールの巻きあげ"が「知りたい」という強い思いを能力の原動力としていることには注意すべきだろう。即ち、探すべき場所や見つけるべき情報を操作者が正確に把握していないような、情報収集探索Fishing expeditionには大きな効力を発揮できない。だからこそこの"ベールの巻きあげ"は目の前に立ちはだかる重い扉へ使われるべき「マスターキー」と形容されるのであり、常時全知にアクセスできるようなオンライン百科事典では決して無いのだ。
エピソード
"ベールの巻きあげ"の製作は、私が闇寿司ファイルを整理している際に、偶然ある一つの不自然な項目に目を留めたことから始まった。その項目のタイトルには、こう書かれていた
闇寿司ファイルNo.675 "███████"
奇妙であった。闇寿司ファイルは誰もが、それが成功であろうと、手痛い失敗であろうと強さを求めた末に己の辿り着いた答えを、同じく研鑽を続ける他の職人へ誇示する場所だ。通常であれば、わざわざそれを隠すなどという真似はしない。
私は好奇心のままにリンクをクリックし、そのページの内容を見た。......そして、それと同時にひどく落胆した。
███████とは、<閲覧制限>を██として[編集済み]った[データ削除]である。しかしこの████はただの<閲覧制限>では██。この████には、███は█であろうと████としか[編集済み]したり[編集済み]たり<閲覧制限>が██っている[...]
いくらスクロールしても編集、黒塗り、アクセス制限、削除。そのファイルは、検閲で肝心な部分が全て覆い隠されていた。もどかしい! あまりのもどかしさに私はもだえてもんどり打った(おかげで隣に居た先輩には、水で戻している最中の乾燥ワカメでも見ているような目で見られた)。なまじ一部分が見えているだけに生殺しだ。
この黒塗りされた七文字の中身を、どうしても知りたい。その思いは無限に募り、私はあらゆる方法を試した。
まずは先輩に頼み込み(断られた)、何とか剥がそうと黒塗りをコインでスクラッチし(画面が割れた)、怪しげな雑誌で「みえない なし めがね by dado」を購入し(単に視力が良くなるだけだった)、今度は裸土下座で先輩に頼み込み(気味悪がられた)、「検閲 除く 方法」で検索してしてみたりした(検閲に関するWikipediaの記事が出てきた)。
そうして半年が経った。私はこの組織の中でそれなりに認められ、闇寿司研究員次席助手代理補佐代行の地位にまで昇進した。そうしてアクセスレベルが上がると、当然あの奇妙なファイルの内容も少しだけ開示されるようになる。下線部がそれだ。
███████とは、<閲覧制限>をネタとして[編集済み]った寿司である。しかしこの████はただの<閲覧制限>ではない。この████には、███は誰であろうと████としか[編集済み]したり[編集済み]たり[編集済み]なるという異常な特性が備わっている[...]
違う、そうじゃない。
私が読みたいのはこの程度ではない、もっと根本的な部分だ。こんな情報じゃない。最早出世を待っていられる余裕は無かった。再びあらゆる手段を探り、紆余曲折を経て私が最終的に辿り着いたのが"ベールの巻きあげ"である。秘密の向こう側を知りたいという私の好奇心と知識欲が概念の握りとして顕現し、遂に実体化したのだ。
"ベールの巻きあげ"が完成したその日。私はついに、あの七文字に掛けられた神秘のベール(黒塗り)を捲り上げられることに興奮していた。私は逸る心を抑えつつ、震える指でファイルのリンクを押す。
何も考えず、押してしまった。
闇寿司ファイルNo.675 "ちんちんの握り"
概論ちんちんの握りとは、エリンギをネタとして握った寿司である。しかしこのちんちんはただのエリンギではない。このちんちんには、見た者は誰であろうとちんちんとしか話したり書いたりできなくなるという異常な特性が備わっている。また同時に、このちんちんは「ちんちん」としか呼称することができない。実は女性には多少効果が薄くなってしまうのだが、圧倒的に男性スシちんちんブレーダーが多いこの世界では十分効果に期待できるだろう[...]
私は絶句した。あまりに下品すぎる。
いくらスクロールしてもちんちん、ちんちん、ちんちん、ちんちん。闇寿司って曲がりなりにも食品を扱う組織じゃなかったっけ?そんなに性器のことを話題にしちゃダメでしょ。衛生的にも、モラル的にも。半年間追い求め続けた七文字の内容がこんなちんちんだったなんて......。
激しい虚無感が襲う。力の入らない指でファイルを閉じようとすると、不意に新たなウィンドウが開き、動画ファイルの再生が始まった。
「しまった!ブラクラ踏んだ!」
知識欲に任せ生きてきた結果、幼少期から何度も同じ過ちを繰り返してきた私は焦燥心のまま反射的に、作業中のアプリを閉じる必殺のショートカットキー「Alt+F4」を入力する。
......閉じない。
信頼する対処が通じない想定外の事態にうろたえつつ端末を見上げれば、動画の中では、中年の男が画面中央の椅子へ腰掛けるところだった。
[咳払い]
やぁ、お前はどうやら好奇心旺盛のようだな。この動画を見ているということは、お前が検閲されまくったこの......名前を呼ぶのもおぞましいこの握りについてのファイルに、何らかの非合法な手段でアクセスしたことになる。
この俺、闇寿司の頭領たる"闇"を除けば、このファイルの存在を知ってるのは全構成員の中でお前だけだ。最初に辿り着いた者だけにこの動画が表示されるようにしてある。
さて、これからお前の未来についての話をしよう。
唐突過ぎて何が何だかわからない。闇親方?なんで?というか闇親方もこういうのダメなんだ。
実際、例の闇寿司ファイルを見てお前はどう思った?俺は「まじで死んでくれ」と思った。食欲に性欲を併せたら絶対にダメだろ。
こういうのは他にもあるぞ、"冷凍マグロ"、"ユムシ"、"女体盛り"、"ちんこの握り"。この闇寿司のトップに立ち続けるのがどういうことかというと、こんなカスのようなファイルが毎日のように届いて、しかもそれら全てに目を通すのが仕事になるってことだ。
気が狂う。
まったくその通りだった、あんなものを読まされ続ける心労は推し量って余りある。通りで最近闇親方が生え際を気にされていたわけだ。
しかも問題はそれだけじゃ無い。闇寿司は近年どんどん規模を増しつつあるが、その過程で、俺は回るスシ以外の不可思議なものたちと出会い、それらを扱う連中と激しくカチ合ってきた。
人肉を握れだのと抜かすアホに、その知り合いの魔法使い。神を名乗るズレた連中、イカレた五狂い、おかしな生物ばかり作る研究所やそれらを売りさばいてる会社!いつの間にか暗黒卿には変なレストランのウェイターがしれっと就任してやがるし、毒島とスニークは警察に逮捕されちまった。どいつもこいつも一筋縄ではいかないし、下手に目立つようなことをすればこちらが危うい。
だのにウチの連中と来たら何だ?"トラック"?"地球"?"謎の機械"?「握れるし回せるので寿司です」?おバカ、目立ちまくりだろうが!そもそもまともに食えないものを!スシにすんじゃねえ!
[激しい息づかい]
はあ、はぁ、ふぅ......とまあ、俺はこういったことに日々取り組んでいて、頭を悩ませている。そこでだ。好奇心旺盛なお前に、いい話があるぞ。
嫌な予感がする。心で強い感情が渦巻くのを感じた。
もう俺はこいつらの相手をするのにはうんざりした。だから、新たに闇寿司ファイルの監査を専門に行う部署を立ち上げることにした。俺の代わりにファイルを読み、俺の代わりにダメ出しをして、俺の代わりにバカ共のブレーキ役となるやつら。闇寿司四包丁の人数が3桁を超える前に、間違いなくそういった連中が必要だ。
本来お前は機密違反を犯した罪で世にも恐ろしい拷問を受けるはずだったが、寛大な俺はもう一つの道をお前に示してやる。いやすまない嘘だ。最初から選択させるつもりは無い、今から伝えることは決定事項だ。
お前、その新部署に入れ。以上、見終わったらすぐ俺のオフィスに来るように。
ビデオの再生が終わり、私は頭を抱えた。強烈に頭痛が痛い、誰か糖分をくれ。
古人曰く「好奇心猫をも殺す」。まさしくこのとき私の人生は一度終わり、新たな生が......闇寿司のSUME-CI職員としての狂気の日々が、始まったのであった。
文責: 酢本味すもとみ 醂りん
......さて。
今これを読んでいる君は、この文書のトップにあった警告を覚えているかな?"特上-レベル機密"。SUME-CIが定めたこのセキュリティレベルが示すのは即ち、闇寿司の最高機密。どうやって閲覧したのかは分からないが、君のアクセス権限が不十分であるということだけは確かだ。もう少しすれば待機していた闇寿司忍者が君を捕らえにやってくる。
だが、その前に話をしよう。
我々は闇寿司の全てを監視し、そして彼らがやり過ぎないようにバランスを保っている。闇親方でさえ我々の裁定には従う。闇寿司の普段が普段だから悪いジョークのように聞こえるかも知れないが、"竜巻"だの"惑星"だの"輪廻"だのを寿司にしようとしてきた連中を何とか押しとどめてきた我々の実績を知ればそうは言えなくなるだろうし、実際そのおかげで今日も世界はまともに回っている。文字通りな。
問題は我々闇寿司構成員の数が大いに増えてきたことだ。日々送り届けられてくるファイル全てに目を通し、明らかに致命的なことをやらかそうとしていないか細部まで確認するには、現在SUME-CIの人員は不足している。ここまで読み進めた君みたいな好奇心旺盛で、知識欲の塊みたいな奴が今必要なんだ。
選びたまえ。処罰を甘んじて受けいれるか、我々の一員となるか。ああ安心して欲しい、私は闇親方ほどに冷酷では無い。君にはちゃんと選択の余地がある。但し、時間はもうあまり残っていないがね。
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そう言ってくれると思っていた。
ようこそ、SUME-CI、またの名を闇寿司倫理委員会へ。私たちは君を歓迎するよ。
関連資料
既に多くのファイルが届いている、早速仕事に掛かり給え。
文責: SUME-CI倫理委員長 酢本味 醂